その119 鼠の王

『ぶっしゃああああああああああああああああああああああああああああああ!』


 威嚇の声を上げつつ、ヨダレをばらまく巨大鼠さんたち。

 なんかもう、こうなってくると精神的なダメージの方が大きいんですけど。


 とにかく、手早く彼らを駆除することに決定。

 刀を構えて、


「――《スーパー・スラッシュ》!」


 《必殺技Ⅱ》を繰り出します。

 金色に輝く剣を振るうと、瞬間、刃が三倍ほどに伸び、鼠の”魔物”へと襲いかかりました。


『ぎぃええええええええええええええええええええええええええええええええ!』


 耳障りな断末魔を残して、先頭にいた二匹が胴体ごと真っ二つになります。


「ねーちゃん!」


 と、そこで、後ろに控えていた彩葉ちゃんが金切り声を上げました。


「どうしました!?」

「いまどき、必殺技に”スーパー”はダメだ! イケてない!」

「ちょ、黙ってて……」


 言いながら、猛烈な勢いで突進してきた鼠を、


「この! ――《スラッシュ》!」


 《必殺技Ⅰ》で斬り伏せます。

 彩葉ちゃんは腕を組みながら、


「なんだったら、あーしが考えてあげよっか? 必殺技の名前」


 まったく、この娘は……。


 だが、この鼠さんたち、思ったほどの強敵ではなさそうで。

 ”ゾンビ”よりは明らかに厄介ですが、現時点における私の敵ではありません。


 全部で八匹ほどいた“魔物”を仕留め終えると、


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


「ありゃ、もう?」


 少し驚きます。


「こんなに簡単にレベル上がるなら、もっと早く始めたら良かったですねぇ」


 すると百花さんはニコニコ笑いながら、


「そう言っていられるのも、今のうちだよ?」


 と、不吉に言うのでした。



 ”ダンジョン”を進んでいくと、百花さんが「レベル上げにちょうどいい」と言った理由が徐々にわかってきます。

 とにかくここ、ひっきりなしに”魔物”が襲い掛かってくるんですよ。

 そりゃもう、次から次へと。


 もう一つ、都合のいいことがありました。

 ”ダンジョン”の”魔物”には、死骸が煙のように消え去ってしまう性質がある点です。

 地味に思えるかも知れませんが、これは本当に助かりました。


 これまで私たちは、”ゾンビ”を殺す度に、死骸を《火系魔法》で焼く必要がありました。そうしないと、重大な感染症を引き起こす可能性がある上に、不意に襲われる危険もあるためです。

 特に”ゾンビ”は、死体に紛れる達人でした。殺したと思っていた”ゾンビ”に飛びかかられた経験は、二度や三度ではありません。


 ここでは、そうした面倒ごととは無縁でした。

 殺した死骸は消滅します。倒したはずの敵がその場に残っているということは、要するに息があるということです。

 そういうのは、さくっととどめを刺してあげればいいだけの話で。


「……楽なのはいいんですけど、……これ、いつ終わるんですか?」

「少なくとも”無限湧き”じゃないから安心して。一定量”魔物”を狩れば、しばらくは復活しなくなるからね」

「なるほど……」

「この階層を狩り尽くしたら、次に進もう」


 そこから、追加で十数匹ほど始末したあたりでしょうか。


「お……」


 待ってましたとばかりに、百花さんが、ぽんと手をたたきます。

 そこで、ごおん……と、”ダンジョン”が少し揺れた気がしました。


「きたきたきましたよ」

「なんです?」

「アクションゲームにおいて、ステージの終盤にいるのは……何かな?」


 ボス敵、かな?


 まあ、わざわざ説明されるまでもなく、ものすごい足音がしてるんでなんとなくわかりますけども。


「注意すべきことは?」

「特にない。この階層の”魔物”は、まださほど怖くないからね。ここの連中を片付けるのはむしろ、帰り道を楽するためだから」


 なるほど。


「じゃ、さっさと片付けましょうか」

「うん」


 ずん、ずん、と、地響きとともに現れたのは、今まで倒しまくってきた二足歩行鼠さんの巨大版、という感じの”魔物”です。

 興味深いのは、彼(彼女?)の頭の上に、鈍色の王冠めいたものが載っかっている点でした。

 鼠の王様、ということでしょうか?


『ぶぎぃええええええええええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


 さすが王様。

 鳴き声も、他のより倍ほど大きい気がします。


「”すぺしゃる☆ちゅーちゅーさん”」

 と、私。


「”ラット・キング”」

 と、百花さん。


「”穢れ深き王”」

 これは、彩葉ちゃん。


 それぞれ、その”魔物”に相応しいアダ名をつけたのでした。


「ま、ここはシンプルに”ラット・キング”が無難かなー?」


 彩葉ちゃんの裁定により、彼の者の名は”ラット・キング”に決定。


「……ってか、そろそろあーしが戦いたいんだけども……」


 私は首を横に振ります。


「ここまで一人でやってきた訳ですし。この階層は私が一掃します。彩葉ちゃんは次の階層を」

「むー。りょうかーい」


 と、言うわけで。


「じゃ、さっそく仕留めますね。……――《メテオ・クラッシュ》!」


 最後に取っておいた、《必殺剣Ⅴ》。


 それを、”ラット・キング”の顔面目掛けて、ぶっ放します。

 しゅごお! と、剣圧が空気を走り、衝撃波が”魔物”に直撃しました。


『ギエ……エ、エ、エ、エ、エ……』


 瞬間、”ラットキング”の頭部が粉砕され、メロンほどの大きさの眼球が二個、すぽーんと明後日の方向へ跳んでいきました。

 グロい絵面は、ほんの一瞬。

 数秒もかけずに、”ラット・キング”は影も形もなく、消滅しています。


「《メテオ・クラッシュ》かぁ。……どうかな、72点くらい? もう一工夫あってもいいのでは? メガトン・メテオ・クラッシュとか」

「はっはっは」


 彩葉ちゃんの評点を無視して、


「じゃ、一休みしましょう」


 一拍遅れて、いつものファンファーレが鳴り響きました。


――おめでとうございます! 実績”鼠の王の討伐”を獲得しました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 ……ふう。

 午前中だけで、レベル二つに実績ですか。

 確かにこれ、効率いいですねー。


 体力・精神力的には、しんどいことも多いですけど。

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