その117 ”ダンジョン”に行こう
ものすごい突風を顔面に受けて、目から自然と涙が出ます。
恋河内百花さんが操る竜の背中で、私たちは空を駆けていました。
「うひゃああああああああああああッほおおおおおおおおおおおおおおいッ!」
歓声を上げながら眼下に視線を送っているのは、羽喰彩葉ちゃん。
「みろ、ねーちゃん! “ゾンビ”があーんなに小さいぞ!」
「い、彩葉ちゃん! そこ、危ないですよ! ぜったいあぶない!」
飛行中の竜の尻尾の方へと行こうとする彩葉ちゃんを、必死で呼び止めます。
――”先生”には、少し無理をしてでも、今すぐ”ダンジョン”によるレベル上げを行ってもらう。
などという会話を交わしてから、数十分後の出来事でした。
――少しばかり急ぐ必要があるね。二人には、ボクの”飛竜”に乗ってもらうよ。
――だいじょうぶだいじょうぶ。噛んだりしないから。
――……間違って逆鱗を蹴っ飛ばしたりしないかぎりね(ボソッ)。
そりゃ、戦々恐々にもなりますよ、こっちは。
「彩葉ちゃぁん! ちゃんと背中に乗って下さぁい!」
「へーきへーき!」
そうは見えません。
強い風が吹き荒れる中、ただでさえ揺れる飛竜の背中で。
不規則に揺れる尾っぽの先にいては、例えスキルによって筋力が強化された彩葉ちゃんでも掴まり続けるのは困難であるはずでした。
「うははははははは! ――ひゃっはっ!」
ほら、やっぱり。
私の見ている前で、彩葉ちゃんが遠く明後日の方向に吹っ飛んでいくのが見えます。
「……って、うそぉ!? 百花さん百花さん百花さん! 彩葉ちゃんが! いま! あの世へ! 真っ逆さまに!」
「だいじょうぶ」
飛竜を操作する百花さんは、どこまでも冷静な口ぶりで呟きます。
ひゅ、と、小さく口笛を吹くと、私たちと並行するように飛んでいた飛竜の一匹が素早くUターン。スカイダイビング中の彩葉ちゃんを空中でキャッチします。
「あーっ! たのしかったー!」
ちょっとした玄人向けジェットコースターでも楽しんでいるかのようなはしゃぎ声。
言っときますけどあなた、落ちたら死んでたんですよ?
《防御力》スキルがある私がビクついてるっていうのに、なんでこの子はこんなにも向こう見ずでいられるんでしょう。
「もう! ……ほんと、あの子は……」
「まるでお母さんみたいな口ぶりだね、”先生”」
「止めて下さい」
それ言われるの、これで二度目なんですけど。
胃がキリキリ痛みます。
「それより、まだ着かないんですか?」
「もう少しさ」
雅ヶ丘から池袋までの距離は、そう離れていないはずでした。
飛竜に乗っている時間は、十数分にも満たない短い時間だったはず。
「ほら! あそこだ!」
百花さんが指差した場所。
「あそこって……えっ?」
思わず、目を疑いました。
……”池袋”。
自宅からわりと近いこともあってか、時々買い物に出かけたことのある場所。
見慣れたはずの光景が、すっかり様変わりしていたのです。
かつて”サンシャイン60通り”と呼んでいた繁華街があったあたり。
そこに、ぽっかりと巨大なクレーターができていました。
クレーターには、蟻の巣を思わせる小さな穴がぽこぽこと空いています。
そこから内部に侵入するものと思われました。
「あれは……?」
「言ったろ? ”ダンジョン”さ。都内には、こうした空間がいくつかある。これもその一つだ」
「なんであんなものが?」
「それがわかれば、ボクたちに宿った不思議な力の謎も解けるかもしれないね」
つまり、わからない、と。
元からあった大穴が、地盤沈下か何かで露出した……とか。
少なくとも、そういうふうには見えませんでした。
なんというか、画像編集ソフトか何かで、本来は別のところにあったものをコピー・アンド・ペーストしたかのような。……そういう、存在そのものの不自然さが、”ダンジョン”からは感じられます。
「これからどうします?」
「一度、安全な場所に着地する。その後、”ダンジョン”周辺に出現する”魔物”でレベル上げだ。……いいね?」
頷きます。
さすがに覚悟はできていました。
胸の中は、もやもやしたものでいっぱいでしたけども。
▼
適当なビルの屋上に着地した私たちは、”ダンジョン”に挑む前にまず、レベル上げを終わらせることに。
ちなみに、凛音さんを”雅ヶ丘高校”に送り届けたお陰で、またレベルが上がっていました。
現在のレベルは48。取得可能なスキルは6ツです。
「……ふむ。じゃ、《必殺剣》はⅤまで取った訳だね?」
「はい」
「他には?」
「《攻撃力》とか。Ⅲまで取りました」
「悪くないチョイスだ。……と、思う」
「知らないんですか?」
「うん。前世の”先生”は、”戦士”じゃなくて”魔法使い”を選んでいたからね。”戦士”ジョブで取得できるスキルのことは、実のところあんまり詳しくないんだ」
「あらら」
同じ人間でも、細かいところで行動が違ったりするんでしょうか。
「ま、いいや。”先生”はとにかく、《必殺剣》をⅩまで取って欲しい。あとのことは任せるよ」
「了解です」
と言うわけで、私が取得したスキルは、《必殺剣Ⅵ~Ⅹ》と、《攻撃力Ⅳ》。
《必殺剣Ⅴ》が強力でしたからねー。
それ以上のレベルの《必殺剣》となると、これはさぞかし素晴らしい性能が期待できるでしょう。
と、まー、そういう訳で。
現在の私のスキルは、
”流浪の戦士”
レベル:48
○基本スキル
《剣技(上級)》《パーフェクトメンテナンス》《必殺剣Ⅰ~Ⅹ》
《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》
《飢餓耐性(強)》
《スキル鑑定》
○魔法系スキル
《火系魔法Ⅰ~Ⅴ》
○ジョブ系スキル
《攻撃力Ⅳ》
《防御力Ⅴ》《鋼鉄の服》《イージスの盾》
《魔法抵抗Ⅱ》
《精霊使役Ⅰ》《精霊の気配Ⅰ》《フェアリー》
○共有スキル
《縮地Ⅰ》
《隷属》《奴隷使役Ⅴ》
こんな感じに。
ようやく《必殺剣》のノルマをクリアしたので、次からは自由にスキルが取れますな。
実を言うと、《必殺剣》以外にも色々と、取りたいスキルがあるんです。
まあ、それは次回以降の楽しみに取っておきましょう。
「あ、それと、”実績”もいくつか取得したんですけど」
「なんだい?」
「えっと、”ゾンビがみる悪夢”、 ”救世主”、 ”解毒と救命”ってやつです」
「それなら、”試作型対ゾンビ用ロボット”、”渡り鳥の羽根”、”魔法の鍵”あたりがオススメかな」
うわーい。
歩く攻略本ばんざーい。
「あっ、でも、ここでアイテムを受け取るのは止めておこう。かさばるからね」
「はぁーい」
……でもなんでしょう。
この、宝箱を開くワクワクを失った感じは。
「”ダンジョン”は、最も浅い階層から攻略していく。……道中、同じくレベル上げに励んでいる”プレイヤー”と出会ったら、元気よく挨拶するんだよ」
「はあ」
なんかそれ、ちょっと登山のマナーみたいですなぁ。
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