その81 チート
吹き飛んだ刀を掴むと、さっそく《パーフェクトメンテナンス》の効果が現れ始めました。
刃が徐々に再生していくのがわかります。
――《パーフェクトメンテナンス》は、取得することで装備品の劣化を時間経過により修復し、常に万全の状態にします。また、時間経過による修復速度も上昇します。
とのことですが、武器としてまた使えるようになるまでは、さすが少し時間がかかりそう。
刀がここまで酷い損傷を受けたのって、何気に初めてですからねー。
”ゾンビ”をぶった斬った時にできる程度の刃こぼれなら、わりとすぐに修復してくれますが、今回は手榴弾の爆風をモロに受けた訳ですから。
見ると、刃先の損傷が特にひどく、一部完全に折れてしまっています。
本当に修復するかどうかも怪しいところですが、そこはまあ、スキルの効果を信じましょう。
「おい、おまえー!」
彩葉ちゃんは高らかに声を上げ、”精霊使い”の前に立ちふさがります。
「おまえみたいなやつはなー! あーしがおしおきしてやるから、覚悟しろ!」
「はぁ?」
男は眉を八の字にして、何事か口を開きかけましたが、
「もんどうむよう!」
そこはさすが彩葉ちゃん、と言ったところでしょうか。
端から無用な対話をするつもりなど毛頭ないらしく、彼女は地を蹴ります。
「おまえ、うぜ……」
片手を上げる”精霊使い”。
危ない、と思った次の瞬間には、
ひゅ、
「――!?」
その場から彩葉ちゃんの姿は消失していました。
あのスキルは、……ええと、確か《縮地》でしたっけ。
短距離ですが、瞬間移動を行うことができるスキルです。
そのまま、”精霊使い”の死角に出現した彼女は、弾丸のような正拳突きをその腹部へ、――
直撃させる……はずでした。
がつん、と、肉体同士がぶつかり合うものとは思えぬ音が響いて、
「おわっ!」
彩葉ちゃんがたじろぎます。
「なんだこれ!」
見ると、”精霊使い”を守るように、白くてモヤモヤした何かが浮かんでいました。
よくわかりませんが……目を凝らせば、盾を構えた人の形をしていることがわかります。
「――いいぞ。そのままやっつけろ」
その白いモヤモヤは、不規則に揺れながら、彩葉ちゃんに接近していきました。
「……?」
彩葉ちゃんは、眉をしかめながら構え、――
「なんかよくわからんけど、――《波動撃》!」
様子見の一発、とばかりに、金色のエネルギー弾を放ちます。
”ゾンビ”相手なら、それだけで必殺の威力を持つ一撃ですが……。
「――《ゴースト》!」
”精霊使い”が叫ぶと、例の白いモヤモヤが、彩葉ちゃんの《必殺技Ⅱ》を受け止めました。
ガキィッ!
文字で表現するなら、そういう感じの音が辺りに響いて、エネルギーの塊が消失します。
「なんだよ……おまえらもスキルあんのかよ……うぜ……」
それに応えず、
「――《百裂・爆裂拳》!」
《必殺技Ⅲ》を放つ彩葉ちゃん。
金色のエネルギー弾を連続して打ち出す、私が知る限り、現状では最強の威力の攻撃です。
それを、”精霊使い”は煩わしそうな表情で、
「――《ゴースト》!」
あっさりと受け止めました。
よくわかりませんが……二人の間にある、白いモヤモヤ。
それが、ダメージをことごとく肩代わりしているようですが。
「ふーむ……。キリがねーな」
彩葉ちゃんはそれを、難しい表情で見据えています。
私と戦った時は、ひたすら猪突猛進って感じで必殺技を連発するだけの子でしたが。
「正攻法じゃ、太刀打ちできないってことか?」
彼女なりに成長したのでしょうか。……ほろり。
「でも、まー、いーや。百回殴ればなんとかなる!」
感動を返して下さい。
「――《爆裂・百裂拳》!」
もう一度、《必殺技Ⅲ》。
しかし、例のごとく攻撃は白いモヤモヤがあるあたりで消失します。
ですが、彩葉ちゃんもそれだけで終わらせるつもりはないようでした。
エネルギー弾を追いかけるように前方向へ跳ね、
「うおりゃあああああああああああああああああああッ!」
叫びつつ、白いモヤモヤがある辺りに向かってやたらめったら拳を叩き込みます。
「あ゛あ゛ーッ! もう、なんなんだよ、おまえ! ――《ウィル・オ・ウィスプ》! さっさと始末しろ!」
”精霊使い”が怒鳴りつけると、青白い焔は彩葉ちゃんに向かって、そのぎょろりとした目玉を向けました。
「彩葉ちゃん! 気をつけて! そいつ、なんかよくわかんないビーム的なの、撃ってきます!」
「あいよっ」
もちろん、彼女も《ウィル・オ・ウィスプ》の接近には気づいていたらしく、《縮地》で相手を翻弄します。
《ウィル・オ・ウィスプ》も負けじと彩葉ちゃんを追いますが、その攻撃は一向に当たりません。
「もいっちょ! ――《爆裂・百裂拳》!」
隙を見て、また《必殺技Ⅲ》。
あの子ったら、あんなふうに必殺技を連発して。
魔力切れになったらどうするつもりなんでしょう(はらはら)。
刀の修復度合いをチラ見したところ、まだ二、三割程度といったところでしょうか。
せめて、もう一、二分ほど戦いが長引いてもらえると助かるんですけど。
ただ、そういう意味では都合のいいことに、彩葉ちゃんと“精霊使い”の戦いは、ほとんど膠着状態に陥りつつありました。
「くそくそくそくそ! うぜえうぜえうぜえ!」
ヒステリックに叫びながら、相手を捉えきれずにいる”精霊使い”。
忍者のように跳ねながら、攻撃をかわし続ける彩葉ちゃん。
「ふあっはっはっはっは! 当ててみろ!」
まあ、あの子ったらあんなに調子に乗って。
足元をすくわれなければいいけど(どきどき)。
「くそ! ――《ウィル・オ・ウィスプ》、いったんもどれ!」
それにしても、さっきからよく噛みませんね、この人。
《ウィル・オ・ウィスプ》って、かなり言い難い名前だと思うんですけど。
おっといけない。ぼんやりしてると、余計なことまで気がついてしまいますな。
そこで、彼の肩に、羽の生えた女の子が止まっていることを発見します。
私のポッケに手榴弾を放り込んでくれた、小さな女の子。
多分ですけど、あれが《フェアリー》でしょうね。
んで、白いモヤモヤが《ゴースト》。
青白い焔のやつが、《ウィル・オ・ウィスプ》。
”精霊使い”のスキルでそれっぽい名前を見かけたのはその三つだけでしたから、今見ているものが、彼が使役する“精霊”全てだということになります。
「――……」
”精霊使い”は、こちらには聞き取れない声で、何やら仲間たちに命令している様子。
そんな彼に向かって、彩葉ちゃんは仁王立ちしつつ、宣言しました。
「ふっふっふ。そろそろ、お遊びはこれまでってことを教えてやる!」
あかん、彩葉ちゃん。
それ、完全に噛ませキャラの台詞や。
「いくぜ! 覚えたての必殺技! ――《絶・天狼》――……って、おりょ?」
その時でした。
彩葉ちゃんが突然、がくりと膝をついたのです。
「ほにゃ?」
得体のしれない可愛い生き物のような声を出して、彩葉ちゃんは自身の両手を見ました。
待ってましたとばかりに、全速で駆ける“精霊使い”。
「うぉらぁ!」
彼女のみぞおち目掛けて、前蹴りがヒットします。
「うげっ!」
彩葉ちゃんは、普通の女の子のようになすすべもなく、お腹を抑えて倒れました。
「わるものめ! わるものめ! わるものめ!」
”精霊使い”は、そんな彼女の身体を容赦なく蹴り続けます。
正直、何が起こっているか、よくわかりませんでした。
彩葉ちゃんが魔力切れを起こしたことはわかります。
ですが、あまりにも早過ぎる。
経験上、こんなにも早くスキルの力が消失することなど、考えられないはずでした。
「ひは! ひはははは! よかった! やっぱり俺、さいきょうだ! よかったよかった!」
朗らかな笑みを浮かべつつ、それでも蹴り続ける足を止めない”精霊使い”。
「止めなさい!」
反射的に、私は立ち上がっていました。
刀の修復度合いを見るに、五割弱、といったところでしょうか。
準備万端とは言えない状況ですが、このまま放っておく訳にもいきません。
「んだぁ? おまえ?」
“精霊使い”はつまらなそうに言って、私を睨みつけます。
「次は、私が相手になります」
「はっ!」
男は、心底馬鹿にした表情で笑いました。
「やめとけ! おまえはかてない! 俺はさいきょうだ!」
「どういう意味ですか?」
「俺には、《狂気》スキルがある!」
「……なんです、それ?」
返答は期待していませんでしたが、”精霊使い”は喜々としてネタバレしてくれました。
「わかんねーか? わかんねーだろうな! かみさまが、俺だけにくれたさいきょうの力だ! ……俺いがいのやつはみんな、スキルの力がなくなっていく!」
……ふむ。
彼の乏しい語彙力から推察するに……、”プレイヤー”の魔力を自動的に吸収するスキル、ってところでしょうか。
「俺、こーいうの、なんていうか知ってるぞ! チートだ! チートスキルだ!」
げらげらと笑う“精霊使い”。
「だから! お前らみたいな、わるものは、……ぜったいに、……ッ! かてない!」
なるほど。
チートスキルねえ。
たしかに厄介です。
まあ、だからといって逃げ出すわけにもいきませんし。
私は、いつもどおりに刀を構え、――応えました。
「では、本当に
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