その66 れーぞくスキル

 アマミヤくんが取り出したのは、一冊のノート。


「こんなこともあろうかと、事前に《隷属》のルールをまとめておいたものです。ご参照ください」


 ノートは、野郎が書いたにしてはずいぶん可愛らしい文字で「れーぞくスキル まとめMEMO」と題されていました。


「どれどれ……」



【れーぞくスキル まとめMEMO】

●《隷属》の発動条件。

 スキルを発動し、人間を”奴隷”化するためには、その人間の頭に、一分以上触れている必要があるゾ☆

 この時、相手は意識が覚醒している状態でなければならないゾ☆

(深く眠っている時などは、効果はないっぽいんDA☆)


●”奴隷”について。

 ”奴隷”と《隷属》スキルを使ったプレイヤーは、いつでもどこでも、念じるだけでテレパシー会話ができるようになるゾ☆

 しかも、”奴隷”となった人間には、自分の命令ならなんでも実行させることができるんDA☆

 ただし、命令が有効な時間は、五分間。

 続けて”奴隷”を支配下に置いておきたい場合は、五分以内にもう一度命令をし直す必要があるゾ☆


●“奴隷”の解放。

 ”奴隷”となった人は、”奴隷使い”の許可を得るか、”奴隷使い”を殺すことで支配から開放されるゾ☆ 

 ”奴隷”だからといって、あんまり酷い扱いをすると、寝こみを襲われて、ジ・エンドってオチにもなりかねないんDA☆


●”奴隷”の強化。

 と、ここまで読むと、”奴隷”には何のメリットもないように思えるけど、”奴隷”になると、いいこともある。

 “奴隷”は、《奴隷使役》スキルによって、強くなれたり、魔法を使えるようになったりするんDA☆


 ”奴隷”の強さは、取得した《奴隷使役》スキルによって変わるゾ☆

 一応ここに、これまで取得した《奴隷使役》スキルの効果を書いておくNE☆


《奴隷使役Ⅰ》……”奴隷”に、《格闘技術(初級)》《自然治癒(弱)》《火系魔法Ⅰ》《水系魔法Ⅰ》を与え、同時に三人までの“奴隷”を使役することが可能になる。

《奴隷使役Ⅱ》……”奴隷”に、《格闘技術(中級)》《自然治癒(中)》《火系魔法Ⅰ》《水系魔法Ⅰ》を与え、同時に五人までの“奴隷”を使役することが可能になる。

《奴隷使役Ⅲ》……”奴隷”に、《格闘技術(中級)》《自然治癒(中)》《皮膚強化》《火系魔法Ⅱ》《水系魔法Ⅱ》《性技(初級)》を与え、同時に七人までの“奴隷”を使役することが可能になる。


 《隷属》スキルについては、以上DA☆

 よくわかってくれたかナ☆

 もしまだわからないことがあるなら、いくらでも質問してね!



「え、何この文章。やたらウザい……」

「親しみやすいでしょ?」

「殺意しかわかない……」


 ただまあ、《隷属》スキルについてはよくわかりました。


「連中は悪党ですけど、所詮はにわか組織みたいです。……ただ、トップが結構賢いヤツらしくて。そいつを”奴隷”にして命ずれば、組織を解体するのも難しくないんじゃないかな、と思います」

「なるほど。それはいいんですが、一分も頭に手を添えていないといけないんですか。……少し難しいですね」

「もちろん、そのへんの作戦も万端す」


 万事おまかせあれ、と、ばかりに彼が取り出したのは、長さ三十センチほどの鞭。


「”どれいつかいのムチ”だそうです。最初に、綴里を奴隷にした時に解除した”実績”の報酬です」

「効果は?」

「意識を保ったまま、相手を一分間拘束します。ただ、プレイヤーには無効だそうです」


 なるほど。“奴隷使い”専用のアイテムということですか。


「さらに、もう一つ。連中のアジトに潜入する方法ですけど……」

「潜入?」

「ええ。向こうは不案内ですし、人質は事欠きませんでしょ? しかも、ボスがどこで寝泊まりしてるかもわかりません。……まさか、『メタルギアソリッド』みてーに、ダンボール被ってボスの部屋を見つけ出す訳にもいきませんし」


 言われてみれば、現実味のない作戦でした。


「そこで、心強いアイテムがあるんす……」


 そう言って取り出したるは、一本の杖。

 木製で、握りの部分に彫刻があります。

 どうやらそれは、猫の形をしているようでした。


「これも、実績の報酬アイテム。えっと……いつ手に入ったやつだっけ、綴里?」


 すると、例のごとく、メイド服の少女が機械的に応えます。


「一週間ほど前、猫型の”怪獣”を仕留めたときでございます、ご主人様」

「ああ、そーだったそーだった……ピカピカ~ん!(たぶん、ドラえもんがひみつ道具を出した時の効果音)……“バケネコのつえ”っす。丸一日、自分が望んだ容姿に変化できる力があります。これを使ってもらいます」

「……ん?」


 首を傾げます。


「今の外見で、何か不都合が?」

「言ったでしょう? 連中、女をモノみたいに扱うって」

「はあ」

「そうなると、”戦士”さんの外見だと不都合があります。すぐに捕まっちゃいます」

「ふむ」

「ただ、野郎の使い走りはいつでも募集中みたいっすからね。”ゾンビ”狩りの人員は、どこ行っても人手不足ってことです」

「……ほう」

「ま、ってわけで。……わかるでしょ?」


 わかるでしょ? ……って。


 えっ?


 なんとなく嫌な予感がして、私は、傍らの彩葉ちゃんと視線を合わせます。

 彼女は、ぐっと親指を立てて、


「がんばれねーちゃん! 正義のためだ!」


 力強い(かつ無責任な)お言葉。

 ”奴隷使い”の青年は、にこやかな笑みを浮かべたまま、言います。



「”流浪の戦士”さんには、これで、――男に化けてもらいます」



 私はしばらくの間、ぱくぱくと、口を開けたり閉めたりしていました。

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