第7話 救済者(3/7)

 やはり、外は酷い有様だった。腹を食い破られ、多くの人々が倒れ伏している。「痛い」「助けて」など、苦痛に歪む声が至る所で響き渡り、聞いてるだけで辛くなる。

 腹を食い破った白い蜘蛛みたいな蟲達もさっきより数を増し、我が物顔で闊歩している。

 だが、俺達が近づくと普通の虫のように逃げて行く。今のところ害はなさそうだ。

「何で……何でこんな……」

 未だ涙を流し、俺の手を握る小倉。コイツをどうするべきか考えながら、俺はあることが気になり校舎屋上を見る。

 この大学で一番高い校舎の屋上、それは五階建ての二号館になる。俺は目線を校舎の屋上に向けると、そこに人の影が映る。

 目を凝らして見てみると、その影はいつかの世界の終わりで見た光景と同じく、屋上にたたずんでいた。

 予想通り梅沢だ。

「……行くしかねえよな」

 俺は決意し、小倉と向き合う。背の低い小倉と目線を会わせる為、姿勢を低くし、

「小倉、お前はカオルと連絡を取って合流しろ。俺は確かめたいことがある。良いな?」

 小倉の肩をポンと叩く。少しは落ち着いたのか、小倉は鼻を啜りながら、

「……自分……携帯持ってないっす」

「……」

 予想外の返答をしてくる。俺は一瞬頭が真っ白になる。

 お、落ち着け俺。俺の携帯を貸せば良いだけだ。俺は自分の通話歴からカオルの名前をセットし、小倉に手渡した。

「通話ボタンを押せば、カオルに掛かるようにしたからな。なるだけ隠れてろよ」

 そう行って小倉から離れる。

「あ、あの! せ、せんぱ……い」

 後ろからたどたどしく小倉が声を掛けられる。正直耳を傾ける時間と余裕が無いが、心細そうな後輩の声に、思わず振り返ってしまった。

「これって先輩が話していた……世界の終わりって奴っすよね?」

 何だかんだ小倉は、俺の話を覚えていてくれたみたいだ。

 だが、この場で正解だと断言するのは中村と同じ理由で気が引けた。

 俺が肯定してしまったら、小倉にとっては絶望以外の何も無い。小倉や中村達は、俺と違って死んだらそれで終わりなのだ。

「……」

 また俺は、どう返答すれば良いのか迷い、黙り込んでしまう。

 しかし、次に小倉が続ける。

「ループものの主人公は最強なんっすよ」

「……え?」

 いきなりの一言に、俺は理解が出来なかった。

「どんな主人公補正よりも、自分は最強だと思うっす! だって適当に頑張っていれば、だいたいなんとかなるし、女の子からモテモテやりほうだいのチート性能なんっすから!」

 小倉は一生懸命涙を拭い、俺に訴え掛けてくる。

「だ、だからその……が、頑張って、下さいっす!」

 小倉が一生懸命言葉を選ぶのを見て、俺は一つだけ頷き小倉の頭に手を置く。

「小倉……ありがとう」

 カオルの時にも思った。こんなとんでもない状況になっても、他人のことを考えられる人間は本当に強い。彼等から勇気を貰える。

 俺は急いで、梅沢の居る屋上に向かうことにした。

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