すべては店長のために編③

この店は以前勤めてた店と明らかに違った。

まず店長以下の役職者、主任、班長は全て常にホール業務。僕ら末端の社員とほぼ同じ仕事をしていた。

そして店長がホールに出ると明らかに従業員全員の雰囲気が違った。


例えば、店長がかけもち遊技するお客さんを発見する。そこの担当コースの社員を怒りとばす。主任、班長も呼んで怒りとばす。

客前だろうが店内だろうがお構いなし。


店長が台を叩くお客さんを注意する。

そこの担当コースの社員にキレる。

主任、班長も呼んでキレる。


つまり、店長には怒るポイントがあり、そのポイントを犯していないか、従業員全員が店長を怒らさないように、顔色を伺いながら仕事しているのだ。

主任、班長はとくによく怒鳴られていた。


その店長の最も嫌うのが、従業員の遅刻だった。


その日の終礼で、店長がものすごい剣幕で怒鳴る。

「いっつも言うてるのに、今日も遅刻した奴おるやろ!誰や!前に出て来い!」


「・・・・はい。」


そして終礼時に遅刻した人間がみんなの前に立たされる。


「遅刻すんなって!あれほど言ってるやろ!なめとんか!!」


従業員全員の前で、その従業員の顔の間近までギリギリに詰め寄り怒る。

その怒り方は尋常ではない。

遅刻した人間に過去に酷いことをされたのか?

とにかく怒る度合いが半端なかった。


「皆さん。遅刻してすいませんでした。」

 

「あーっ?聞こえるか!そんなちっさい声!!」


「すいませんでした!!」


そんなやりとりを見せられるこっちもたまったものではない。

何もしていないこっちまで嫌な気持ちになる。


その遅刻した従業員には、ペナルティーという残業が課せられるのに。

こんなに全従業員の前で吊しあげる事もなかろうに。


それほどまでに、店長は遅刻を嫌った。


終礼が終わったあと、班長に聞いてみた。

「遅刻した人間に対して厳しすぎやしないですか?店長は。」


班長はポツリと返してきた。


「・・・俺ら役職者が遅刻したら、あんなもんやないで。」


見ると班長は少し震えていた。

主任を見ると、主任も震えていた。


遅刻をせずとも、遅刻したら酷いことになる。その潜在恐怖が彼らを蝕んでいた。


なるほど。この店の影が少しずつ見えてきたぞ。

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