すべては店長のために編④

事件は起こった。

班長が遅刻したのだ。

お店の鍵を預かり、店の戸締まりと開ける事ができるのが、主任と班長のみ。

その日はあやうく店が開くのが遅れるとこだった。


店長が昼ぐらいに出勤してきて、班長が遅刻の報告に行く。

「何を考えとんねん!何を!」


事務所から聞こえる怒号、それはホールにいるお客さんにも聞こえた。中からは机をバンバンと蹴り上げる音。

約一時間怒られ続けて、出てきた班長の目は完全に死んでいた。


その日から、班長の無期のペナルティー残業が始まる。役職者の遅刻は一般社員より罪が重い。店長が、もういい。というまで無限の残業地獄。


数日後、ホールの遅番で勤務していた僕は、閉店間際に立ちながらピクリとも動かない班長を目撃した。

寝てる!立ちながら寝てる!

「班長!班長!」

「あ、あ、ごめん。」


もうお客さんもほとんどいないのに、ホールに残らなければならない無意味さ。明らかに班長は連日の残業により、体調不良を起こしていた。

「熱が下がらない。薬を飲みすぎで朦朧とする。」


「もう、帰らしてもらって下さいよ。」


そう言うと、目に涙を浮かべて、

「店長にそれを言うくらいなら、このままここにいた方がマシや。」


酷い。むごい。無限の残業地獄。それは一週間を超えた。さらに班長は店の鍵を持って帰るため、毎日定時に店を開けなければみんなが出勤できないという、プレッシャーも抱えていた。


そしてその日はきた。


朝、僕が出勤すると店のシャッターの前で従業員が中に入れず溜まっていた。

「班長、また遅刻かいな?」


その時、カウンターの女子スタッフが僕にコッソリ話かける。


「もう、言うてたんよ。班長。もう、あかん。って」


「何が?」


「もう、無理やって。もう限界なんやって。・・・飛ぶって。」


・・・飛ぶ。とは、・・・突然辞めるということ


「何を言うてんの?それ、このままなら、店が開かんがな!!」


パチンコ屋は朝の10時開店。

時計の針は、9時30分を指していた。


僕らは店内に入れるのか?

店はオープンできるのか?

どうすればいい?

・・・・・班長!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る