新店立ち上げ編その⑤

前から僕はその店の班長が我慢ならなかった。

30すぎの小太りのオッサンである。

役職としては一番下なので、僕ら末端の社員から一番近く、一番頼りにしなければならない存在なのに。現場にも降りず、事務所から無線で指示を出すだけ。

僕から言わせると、自分は安全地帯に身を置き、遠くから石を放り投げてるだけの男である。


その班長はお店の真後ろのマンションに部屋を借りてもらっており、出勤も徒歩一分という距離。

なのに毎朝ギリギリに来て店を開ける。


早番は9時出勤なのだが、制服に着替えて10分前に待機するよう言われていた。しかしその班長が来るのが遅いせいで、みんな9時五分前以降にしか店に入れなかった。

その班長はマンションから制服を着てくるので、このままタイムカードを押すだけ。僕らは五分前に店に突入し、数十人が一斉に更衣室で着替えて9時一分前にタイムカードを押さなければならない。

そんな毎日だった。

制服がジッパーでできていない限り、不可能だ。

そのため、遅刻してタイムカード押す者も続出した。


それでもその班長は、相変わらずギリギリに来て、店を開けると弾丸で自分のタイムカードを真っ先に押し、事務所でゆっくりしだした。


その日もそうだった。

いや、その日は確実に遅刻していた。

自分でタイムカードを押したときすでに9時一分過ぎていた。

そしてキレだした。


「お前ら!もっと早く起こさんかい!」


プツン!僕の理性が崩壊する。


「お前、それでも班長かいや!」


地獄の中で、鎖に繋がれた奴隷が、閻魔大王に立ち向かう瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る