新店立ち上げ編その④

オープンして数日経過。

パチンコ店経験のある数人のスタッフの頑張りで、店はなんとか保っていた。

しかし未経験スタッフの足の引っ張りようは半端なかった。

ある女性スタッフが忙しい中、僕の肩をポンポンと叩く。


「なんやねん!忙しいのに。」


「あのう。違うお客さんのドル箱交換して、また違うお客さんにレシート渡してしまったんですぅ。」


「なにーーー??!!」


パチンコをやらない人でもなんとなくわかるであろう。目が飛び出るくらいのミスである。人のお金を赤の他人にくれてやったも同然のミスである。

事務所にいる店長や幹部社員に無線で事情を報告すると、


「なにしとんねや!お前ら!」


僕も含めて怒られる。部下の不始末は上司も怒られる。理不尽だが庇うしかなかった。お客さんには土下座するほど謝り、店から玉を弁償するしかなかった。


そしてお店を支える経験者たち、リーダー社員候補数名が、事務所に呼ばれる。

1ヶ月以上残業ばかりで休みもなく、よく頑張ってくれてるなあ。

と、言われるのかと思いきや、そんなわけはなかった。


「スタッフが全員使い物にならんやんけ!どんな指導をしとんねや!君らは!」


はあ?ふざけるんじゃない!

そして僕はこの会社の全容を把握しつつあった。

パチンコ店には店長、マネージャーなどの幹部社員も必要だが、最も必要なのは、実際現場に下り、未経験のアルバイトを教育指導しあげ、開店プロなどの対応、トラブル対応、そして営業を遂行する、

中枢となる社員である。

その中枢の社員がもとからこの会社にはいなかった。

店長、マネージャー、主任、班長は転勤でこの店に来たが、最も必要な中枢となる社員がゼロ、恐らく他店もその中枢社員がいないか、いても自分の店から手放したくなくて、転勤させなかったかのどちらかだ。

新店に来た4人の幹部社員たちも、その中枢社員を経験して出世してきた人達。それがどんなにしんどい仕事かすでに知っている。

指示に回る方が、責任はあるが、ずっと楽である。


つまり、この店は、この会社は


パチンコ店営業にもっとも必要な中枢社員を、募集によってかき集めた他店のパチンコ店経験者たちに「即社員」という冠つけて、


なすりつけたのだ!


できるわけがない!

僕らだってバイト上がりのまだまだ社員のスキルもない、現場の経験者なのだ。

その経験だって、自分たちがおのおの他店で自力で習得してきたものだ。

ふざけるんじゃない!


あんたらに使えない!とか、仕事ができないとか、言われる筋合いはない!

あんたらこそ、勝手によその店からやって来て、上司だって?はあ?

一緒に仕事してきて、尊敬する部分があるとか、仕事を教えてもらったとかそういうものも一切ないじゃないか!!


ふざけるんじゃない!


僕の怒りは爆発寸前だった!


そして、爆発する。

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