知りすぎていた男編④

Nは普段は本当に仕事のよくできる男だった。

遅刻欠勤をしないし、接客も丁寧、ランプ対応も迅速。

僕よりも、次期班長候補に上がっていたほどだ。


例の不正を覗けば、申し分ないホールマンだった。


その日は給料日。

Nと僕は現金支給の給料袋をあける。

二人とも、一円も、変わらない額だった。


僕は当時独身だったが、Nは妻と産まれたばかりの子供がいた。


Nは給料袋から中身を抜き、明細をグチャグチャに丸めてこう言った。


「1ヶ月死ぬほど働いて、こんな給料。やってられないでしょ?

結婚しようが、子供生まれようがなんの手当てもつかない。

独身の原田さんと給料一緒。

やってられないでしょ?」


「・・・まあ、そうやな。」


「お店がどんなけ儲かってても、どんなけお客さん入ってても、1ヶ月に貰う給料、みーんな一緒なんですよ。」


「そういう仕事やから。」


「夢見てるわけじゃないんですよ。ただ、あと2、3万、ほんの僅かに、生きていくのに足りないんですよ!」


「・・・・」


「僕ら、少しくらい、良い思いしたって、罰あたらないでしょ?」


その時僕はNの気持ちに同調した。

しかし、それはその後、思わぬ事態を招く。


スロットイベントの前日、Nが休みを入れられたのだ。

よって、店長の設定の打ちかえを、覗く事ができない。


その日の晩に、僕の携帯がなる。

Nからだ。


「・・・原田さん!店長の動き見れますか?」


「なに??」


「原田さん!あなたしか僕の代わり、いないんですよ?」


「無理や!俺にはできん!」


「店長が開けた台を、メモってくれるだけでいいんです!」


「俺を巻き込むな!」


「原田さん!」


執拗なNの誘惑。

俺だって、給料に不満がある。

会社の待遇に不満がある。


だけど、


それだけは、


できん!


Nの電話を切り、携帯の電源を切った。


電話を切った後も、何度も自分の心の中の悪魔が手招きをする。


・・・・一度くらい、いいんじゃないか?


ひたすら、自分の中の悪魔との戦いだった。

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