S社員と作業屋編⑧

その日は店休日。


その日は18時より全社員と全アルバイトで親睦を深めるために、飲み会が予定されていた。


店休日とはいえ、社員は休みではない。

朝から新台入替の準備、新台の試し打ち、店内装飾。

すべてを18時までに終わらせなければ、18時からの飲み会などできない。

僕らは朝9時より店に出勤し、1分1秒でも早く仕事が終われるように作業をした。


しかし、Sは9時から来なかった。相変わらず電話をしても出ない。

さすがにその日は店長もSに対して怒りの色を見せていた。

僕らは定時に仕事が終われるように、必死に作業をするばかり。


Sが姿を現したのは、なんと夕方の5時過ぎ。

なんと飲み会の直前である。

その頃ホールには、全アルバイトが飲み会の為に集まっていた。

そのアルバイトの前に、さっき来たばかりのSがしゃしゃり出てくる。


「今日は、みんなに見てもらいたいビデオがあるねん!」


そしてカウンター前の大きなテレビの前にバイトを集め、Sはビデオを流し始めた。

そのビデオとは「ぱちんこ情熱リーグ」という、全国から接客NO1を決めるために、バチンコ店の従業員が集まってプレゼンをする大会である。

その模様のビデオを30分ほど流し始めた。


私たちは、お客様の為にこんなことをしています。

こんな感じで、お客様の為に接客をしています。

こんな素敵なお店をみんなで作っています!

そんな内容のビデオだった。

それを全バイトが黙ってみていた。

それをSは腕組みしながら見ていた。

そしてビデオが終わり、Sの演説が始まった。


「みんなにこのビデオ絶対見てもらいたかってん!こんなお店にしていこや!みんなで力を合わせてさあ!やっていこうや!」


それを見ていたバイトたちから、

「はい!」

という声。

遅刻に腹を立てていた店長も、頬を緩めていた。


しかし、

僕は騙されないぞ!!

こんなの!


茶番だ!

詭弁だ!!


お前は何一つ、しちゃいないじゃないか!

接客のビデオを持ってきただけじゃないか!

接客が素晴らしいのは、そのビデオに出てる、その店のスタッフたちが全員頑張っているからじゃないか!

お前はそれに便乗して、そのビデオを見せて、


それを目指せ!

と、理想を振りかざしているだけじゃないか!

そして、朝から出勤することもなく、

しなければならない作業を放棄し、

自分の遅刻をうやむやにするために、


そのビデオを!

そのビデオの中のお店を!

頑張っているそのビデオのスタッフたちを!


利用しただけじゃないか!!


このクソ野郎!!


Sのやり方は、僕の我慢を超越していた。

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