S社員と作業屋編⑨

パチンコ店の社員にはやらなければならない業務が存在する。


毎日お店を定時に開け閉めすることはもちろん。

機械メンテナンス、設備メンテナンス、イベント準備、備品管理etc・・・


アルバイトの指導教育ももちろん大事だ。

Sはそれをすることで評価を受けた。

しかしそれ以外の業務はほとんど放置だった。

ホールでお客さんの接客をしながら少ない人数でアルバイトの休憩を回さなくては、みんな食事もとれない。

そんな業務も放置していたので、僕が自分の休憩時間を犠牲にして、バイトの休憩を回していた。

そうしなければ結局お客様をお待たせすることになるし、少ない人数でホールを見ることが接客レベルの低下につながるのだ。


もともとホールの人員不足のうえに、Sが自分の評価を上げるために、バイトの指導に専念するという名目で、ホールの人員から抜けた穴は、ほかの従業員の犠牲でしか埋めることはできなかった。そう、それは僕だった。


なぜこうなったのか?客観的に考えてみた。

僕がSより秀でている部分はたくさんある。

遅刻をしない。きちんとホール業務をする。

しかしそんな事は当たり前すぎて、しているからという評価につながりにくい。

通常業務と呼ばれる、ルーチンワークだ。

毎日毎日同じことを間違いなく的確に繰り返すこと。

それがSにはできない。


Sはそのルーチンワークができない。しようとしない。

その代わり、自分がまかされた仕事のみ評価を受ける見える部分だけ的確に行い、後の部分は他人に押し付ける。その相手が上司ならば成立する。

上司ならば、部下よりできていて当然だから。


そしてその上司の上のさらに上司の店長の評価さえ上げれば、逆にそのルーチンワークを強要されない。逃げることができる。

まさに、Sの作った、理不尽トライアングルだ。


そんな理不尽トライアングルも、僕はSより給料が高いし、責任のある役職だからと辛抱した。何を店長に行っても「告げ口」と思われる。


しかし、Sはさらなる罠を仕掛けていた・・・


ある日、やっとの事で休憩に上がれた僕は休憩室で、あるバイトと二人になった。


「原田さん、やっと休憩ですか?大変ですね。」


「そうやなあ。休憩くらいはまともにとりたいなあ。毎日、しんどいわ・・・」


そんなことが何回かあった。


そして数日後、事務所で店長に激怒される。


「お前!休憩室でバイトに、仕事の愚痴とか、一杯言うてるらしいやんけ!!」


「えっ?そんな事ないです。」


「ほんまか!絶対に一言も、しんどいだの、休憩行きたいだの、言うてへんねんやろうな!」


「・・・・・」


「一言も言うてへんねんやろな????」


「・・・・言うたこと、あります。」


「ほれ!見てみい!情報は俺の耳に入ってきとんじゃ!ボケ!あほ!」


どうもバイトの中で、Sに

「原田さんが大変なんでもう少しホールで、仕事してください。」

と僕の事を思って直訴した人間がいたらしい。


Sはそれを誇張し、店長に告げたのだ。


僕がバイトに愚痴を言っていると。


部下から上司への報告は、「告げ口」にはならない。

貴重な報告と受け取られる。


「お前はもう!休憩室で休憩すんな!バイトと一切しゃべるな!!」


僕はSの罠に落ちた。

バイトに言った「しんどい」の一言で・・・・

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