S社員と作業屋編⑦

そしてS社員と僕が早番の日、とうとう電話をしても定時までに来なかった。

昼前にS社員のアパートまでホールを抜け出して、起こしに行った。


眠そうな目をこすり、パジャマ姿で出てくるS。


「もう行くんで、ホール回しといてもらえますか。」


ぶっきらにドアを閉められる。

そして僕はホールに戻り、バイトの休憩を回す。

なんであんな奴が評価される?

それもこれも僕がバイトの指導をちゃんとしないからだ。

僕はSの上司なのだ。

あんな奴が付け入る隙がないほど、仕事ができないのがいけないのだ。


しかし、理不尽だ。


でもこれも僕の力不足。

色んな葛藤を思いながらホールを駆けずり回った。

昼過ぎになって忙しくなってきても、Sは一向に来なかった。

お客さんも増えてきて、もうSを起こしに行く暇などなかった。

バイトも不審に思う。


「今日、Sさん、早番じゃないんですか?いつ来るんですか!」


「わからん!」


忙しいホールを駆けずり回り、バイトの質問もうやむやにした。


そして遅番交代の時、ふと二階の倉庫に上がると、倉庫で隠れている、Sを発見した。


「お前!いつ来てたんや?なんでホール下りないんや!」


Sはバツが悪そうに言った。

「だって、僕が遅れてホールに出たら、早番のバイトの連中に遅刻したって思われるじゃないですか?そんな雰囲気の中、ホールに出れないでしょ?」


こいつ?何を言ってる?


「僕はこのまま遅番で出勤しますわ。早番のバイトには、店の都合で僕が急遽遅番になったって言えばいいでしょ。」


なっ?なんだって!


「僕は店長からバイトの指導を任されてるんですよ?そんな人間が遅刻しただの広まったら、バイトが言うこと聞かなくなりますよ?あなたがろくにバイトを指導しないから、僕が役をすっ飛ばして指導任されてるんですよ。店長から直々にね。」


・・・こいつ!


「だからこんな遅刻くらいで、バイトに弱味も握られたくないんで。僕は今日、遅番になったって、伝えて下さい。でないと店長の意向に反しますよ!」


その時、早番のバイトが終礼をしに上に上がってきた。

素早く身を隠すS。

早番のバイトが通り過ぎる。


「じゃあ!僕は遅番で出勤しますんで、バイトへの説明お願いします。くれぐれも変な事は言わないように!」


そしてSは、遅番に混ざるためにホールに下りて行った。


悪魔の契約だ。

まさに悪魔の契約を交わしたとしか思えない。

完全に僕は、Sに、弱みを握られている。

そして、Sは、とうとう自分の遅刻をも握りつぶす。

握りつぶさせる。


この僕に。


僕は、・・・・悪魔の契約をしてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る