S社員と作業屋編⑤

相変わらずお店のお客さんが増えず、会社もお店も危機的状況に陥った。


まず、業績不振により社員のボーナスがなくなった。

さらに社員食堂が閉鎖され、食事はすべて個人の実費による負担となった。

十年以上ご飯を作ってくれていた食堂のおばちゃんも退職に追いやられた。


店長は食堂のおばちゃんが退社する日に、


「ごめんな。俺らがきちんと商売できてたら、こんなことにはならなかったんやけど。おばちゃん。堪忍やで。」

と、頭を下げていた。

それだけ店長は責任を感じる人物であったし、下の者を思いやる人情家であった。

しかし、それがさらに鬼の店長を鬼畜にさせた。

その怒りの矛先は主任の僕と、マネージャーである。


「見てみい!客が減ったらこんなことになるんや!頭使って商売せな、次はお前らの給料が減るねんぞ!」


毎日毎晩店長に怒鳴られながらも、マネージャーと僕はなすすべもなく、お客さんを増やす画期的アイデアも浮かばず、困り果てていた。

それは当時の全国のパチンコ店が経験したであろう、大不況の時代だ。

黙っていればお客さんがお金を落としてくれた、殿様商売はもうできないのだ。


とくに店長はアルバイトの接客に激怒していた。

事務所から防犯カメラの映像でバイトの動きをみては、

「おい!なんで仕事中に休めの姿勢のやつがおるねん!もう帰らせろや!」

と、逐一怒りを爆発させる。

「はい。注意してきます。」

あわててホールにいるアルバイトを注意しに行く。

「あのバイト!手をプラプラさせすぎや!なんやあれ!」

「はい。注意してきます。」


あまりにも神経質で鬼畜なダメ出しが続く。

やはりその店長の怒りの最終地点は、僕に爆発した!


「お前!お前のやってること見とったら、俺に言われてやらされてる感、満載やないか!俺に怒られるから注意してますって、バイトにもろばれやないか!」


たしかにそうだ。その通りだ。店長があれやこれやとバイトの接客に怒るが、怒る内容が多すぎて、神経質すぎて、それを一つ一つ消化して遂行するのが手一杯。

店長にやらされてる感満載だった。

ましてや僕はあまり下の者を怒ったり、注意したりは、苦手なタイプの上司だった。

そんな僕に店長は辛抱がたまらない。

お客さんが減り、ボーナスがなくなり、食堂もなくなった。

その責任感もわかるが、店長の鬼畜さは限界を超えていた。


「お前!バイトの接客が良くなるまで、休むな!!」


「・・・はい。」


そんなときに、その一部始終を見ていた。

S社員。

待っていたのだ、この機会を。

ついにその姿を現す。


「原田主任は、バイトになめられてるんでね。僕がどんなにバイトを注意しても、怒っても。主任がこんなんでは。ダメですわ。僕がやってることも無駄になって、やる気もうせますわ。僕がこれからバイトの接客やら何やらやっていくんで。もう原田主任は、引っ込んどいてもらえますか。」


店長は目の色を変えた。


「おうS!よう言うた!この店には、頭を働かせて仕事して、そして人を使い、客を集めていく、そんな人材が必要やねん。お前は給料も安いのに、よう言うた!

こんな主任では、店は悪くなる一方や。」


「だって、原田主任は怒られるのが嫌で、言われたことしかしない。ホールでもただ動き回るだけ。そんな仕事ちょっと経験積んだら誰でもできるし。よくそれで主任やってるなあと思ってましたよ。」


「その通り、こいつは、考えんと動くことしかせえへん。


作業屋やねん!


のう!作業屋!作業屋!」


店長の言った言葉が胸に深く突き刺さった。


考えることをせず、動くことしかしない。

僕は、・・・・作業屋。


そして、店長はS社員にお店の中枢の仕事を任せていくようになる。


・・・作業屋。僕は、・・・作業屋。


作業屋は、完全にS社員に追いやられてしまった・・・

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