S社員と作業屋編④

ある日、僕とS社員二人で早番をしていた。


昼にはアルバイトの休憩を回していかなければならず、その日もSは、上で作業をして下りてこなかった。

僕は一人でアルバイトの休憩を回していた。

正直一人ではきつかった。


するとしばらくすると店長が事務所にやってくる。

Sがホールに下りてくる。

やっと休憩回しを手伝ってくれるのかと思いきや、違った。


「店長が、パチンコの新機種の展示会に連れて行ってくれるらしいんで、今から、僕も行きますね。」


「えっ?」


店長の言う事であれば逆らえない。

Sはホールを放置し、展示会に行った。僕は自分の休憩も行かず、アルバイトの休憩を回した。

アルバイトは忙しくなって、Sがいない事に腹を立てた。

「Sさん、こんな忙しい時に、どこに行ったんてすか?」


「店長と展示会に行ったんや。」


「何なんですか!それ?」


そして17時の遅番の交代まで、僕は一人で休憩回しをした。もちろん、自分の休憩だって行ってなかった。

その頃、悠々と、店長とSが展示会から帰ってきた。

そして、一瞬アルバイトと接触したSが、すぐさま僕に言ってきた。


「ちょっと!アルバイトがみんな僕を白い目で見てくるんですけど?僕が店長と展示会に行った事、きちんと説明してくれたんですよね?」


「したよ。展示会に行ってるって。」


「じゃあ、何でこんなアルバイトが僕を白い目で見てくるんですか!まるでサボってたみたいに!店長に誘われて断れなくて僕だって仕方なく行ったんですよ?それを納得するように説明してくれるのが、主任の仕事でしょ?」


「だから説明したって!」


「説明したって、アルバイトが不満に思ってるじゃないですか!僕だって、ホール抜けたくなかったし。店長に誘われたんですよ?断れるわけないじゃないですか?このアルバイトの僕を見る雰囲気、どうにかしてくださいよ!」


結局、僕は早番の終礼でアルバイトに説明させられる。


「今日、Sくんは、パチンコの新機種の展示会という非常に大事な用事でホールを抜けなくてはならなかったんや。皆さんには本当にご迷惑をおかけしましたが、仕方ない事だったんです。」


さらには僕は店長からも怒られる。


「お前、忙しい中、Sに抜けられて正直ムカついたんやろ?だからSがバイトから睨まれるように、Sを陥れようとしたんやろ?」


そんなわけないじゃないか!

いい加減にしろ!

Sが抜けて人数が少ないホールを、休憩も行かず、俺が一人で守ってきたんじゃないか!

こんなにこいつより動いて、挙げ句の果てにSからも店長からも詰められる、こんな理不尽な事があるか??


僕は思った。

Sは、確信犯だ。

この日、ホールを抜けれる口実を見つけたのだ。

店長に展示会に誘われたという、口実だ。

もとから、ホールに下りたくなかったに違いない。

そして、それによりアルバイトから出てきた不満をも、僕に処理させる。

店長をも味方につける。


なんて、したたかで、理不尽な奴だ!


しかし、Sは完全に店長を味方につけていた。

Sの策略は、上司のそのまた上の上司を味方につけ、自分を守る事。

いつの間にか、Sは守られていた・・・

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