S社員と作業屋編③

その日もSは朝ギリギリに出勤してきた。

朝、店の鍵を開けるのは主任である僕の仕事。

別にいつもの事なので何とも思わなかった。


朝10時に店が開店するとすぐに、Sが

「お客さん少ないんで、ちょっとしたい事あるんで、上に上がって作業していいですか?」

と、言ってきた。

僕は店が暇だったので、時間を与えた。


しばらくするとSは、色んな機種のポスターやら、何やらをイーゼルに入れて中通路に飾り出した。

それにより、お店の雰囲気も少しは変わった。


昼過ぎに店長が出勤してきた。

お店の様子が一目見て変わっていたのに気が付いた。

「あのポスターは、誰が飾りつけたんや?」


「Sです。」


店長はすぐにSを呼んで誉めたたえた。


「そうや!そうやって、客の目をひくことや!暇やからって、毎日同じ仕事ばかり、何も考えずにやるのが、一番あかん事や!どんどんやるように!」


Sは、自分のした事が評価され有頂天になった。

そして僕は怒られる。


「本来なら、主任であるお前がそういう事を考えてやらんかい!Sのそういう所を見習わんかい!」


少しは理解できたが、納得いかない部分もあった。

たしかに客の目をひく事、そういう事を考えてやる事も大事だが。

朝きちんと定時に出勤してきて、きちんと店の鍵も開けて、Sに時間を与えて、その間ホールを守っていたのは僕である。


でも僕はSより立場が上。

給料も多くもらっている身分。

やはり、Sより考えて行動しなくてはならないのは確か。

色んな葛藤があったが、その日はそれで仕方ないと思った。


しかしその日、その事で店長に誉められたSは、どんどん飛躍していく。

その次の日も、その次の日も、ホールから抜けてポスターだの装飾だのを引っ張り出しては、店内に飾り付けていった。


最初の内は午前中の暇な時間帯に上に上がっていたのが、だんだん昼過ぎまで下りてこなくなった。

そして最初の内は、僕に声をかけて、許しをもらってから上に上がっていたのが、

そのうち無断で上に上がるようになり、

昼過ぎになってもホールに戻ってこなくなる。

そして、ホールが忙しくなっても、Sがいないまま、人数が少ない中、ホールを僕は一人で回すようになった。


だけど、店長はSを誉めたたえた。

誉められれば誉められるほど、Sはホールを放置し、店内装飾に没頭した。


まるでそれは、


他の授業員などおかまいなし。

ましてや、お客さんなどおかまいなし。

店長さえ評価してくれれば、それでいい。


そんな風に見えた。


完全にS社員は、その姿を表面化させていく・・・

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