新たなる希望編③

そこのお店の女性スタッフは宝。

いつもお客さんの不満の受け口になってくれる。とても男性にはできない事だ。

遅刻欠勤がなかったわけではないが、遅刻の電話があっても、

「きちんと化粧してくるように。」

「髪を整えてくるように。」

「あせって事故に合わないように。」

と、人前に出る仕事だと言う事を重要視した。

まるでキャバクラみたい。(^^;)


ある日、店の主任が、

「みかんや!みかん!」

と、朝から口走っていた。

そこの主任は言葉の順序がムチャクチャで、全然話が伝わってこない。


「みかんがどうしたんですか?」


「取りに行くんや!」


「どこにですか?」


「市場にや!」


「なんでですか?」


「なんでって、・・・・お客さんに配るためにや!」


要するに、お客さんに、みかんを配るために、市場に取りに行かないといけないということ。順序がメチャクチャである。


早速、主任と二人で台車を転がし市場で頼んでいた大量のみかんを積み上げて店まで運ぶ。

途中、踏切のとこで段差にひっかかり、みかんが数個転がる。


主任が叫ぶ、

「みかんや!みかん!」


あんた、今日何回みかんって言うねん。

転がって行ったみかんを追っかけながら、なんかしらんけど、楽しくなってきた。


店内に運び込まれたみかんを、お客さんに配っていく。

この店はよくこういう事をした。

日頃の感謝の意味を込めて、少しでもお客さんの喜ぶ事を最優先した。


「もう!今日負けたわ!高いみかんやわ!」


お客さんは文句を言いながらも、みかんを一人ずつ喜んで持って帰っていた。

こんな事する大手のパチンコチェーン店などないだろう。

こんな小さなパチンコ屋だからこそできるんだ。


みかんを配り終えると、手のひらが真っ黄色になった。

みかんが一個もなくなったのに、主任がまだ、

「みかんや!みかん!」

と、言っていた。


楽しくて仕方なかった。

みかんでこんなに大騒ぎする店。

前の店と比べたら、給料は下がったけど、毎日笑ってばかりいたな。


次の日になっても主任がみかん、と言い続けていた。(^^;)


さて、ずっと気になっていたのだが、うちの店の隣にもう一件パチンコ屋があった。

そのお店がずっと気になっていた。

どんよりとした雰囲気、何かわからないが、嫌な予感がする。

今まで感じた事のない、予感。


・・・数ヶ月後、僕のその予感が的中する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る