新たなる希望編①

四件目の店を退社した僕は、すでに30歳手前。どんな理由があるにしろ、色んなパチンコ屋を点々としている事実は変わりなかった。

妻ともまだ結婚前で交際中。

「あんた、どうすんのよ!」

と、将来への不安を口にされていた。


色んなパチンコ屋に打ちに行った。一件だけ、昔はガラガラだったのに、今はメチャクチャお客さんの付いてる店があった。そこのスタッフの印象もよかった。

でもさすがに正面から、「働きたいです!」という勇気もなく、不安だった。


偶然にも、前の店で働いていた女子スタッフと再会する。あの、

「すべては店長のために」

を書いて僕にくれた女性である。その女性がまた偶然にも、そのメチャクチャお客さんの入っている店の店長と知り合いだという。


そこから色々連絡を取り合い、なんと、そこの店長が僕なんかを、ご飯に誘ってくれた。

初対面から気さくで、今まで出会った事のないくらい、フラットな店長だった。


「あんな大きなチェーン店の主任まで出世したのに、辞めたん?なんで?」


色々と積もり積もった事を、ごく一部だが話をした。

それと、何であんなに店長の店はお客さんがメチャクチャ入ってるんですか?

と、聞いた。


「スタッフが頑張ってるからやで。それだけ。」


そこから別れて数日考えた。

気になる。どうしてもそこの店が気になる。

そして店長に電話した。


「僕、働きたいです!」


「えっ?うち、いきなり社員は無理やで、バイトからやで?ええの?」


「バイトから、やります!」


「時給1000円やで?」


「はい!」


時給1000円。それは僕が18歳のときに、初めてバイトしたパチンコ屋の時給。

そこから四件もパチンコ屋を移り、そして振り出しに戻った。


給料を求め、さまよっていたのに。

僕はいつの間にか、やりがいを求めていた。

時給1000円だってかまわない。

社員になれなくたって、かまわない。


ここで五件目のパチンコ屋。

ここには、ここには、何かあるはずだ。

僕の今までの経験が、30歳手前の男の背中を押した・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る