赤の魔法少女はどこまでも正しくて、黄の魔法少女は瞳を逸らす

第18話 二人なら

 有希が死んだあの日から三日経った。


「せりちゃん、お願い!」


「任せなさい」


 せりちゃんが腕を振り上げる。すると、黒い壁が目の前の魔物を取り囲むように現れようとする。それにわたしは飛び乗って壁が十分な高さまで上昇するのを待つ。


「あとは任せるわ」


「うん! ありがとう」


 わたしは壁の中に捕らわれた魔物に向かって飛び降りる。


願う、祝福をデザイア・ブレス


 落下しつつ変身をする。変身を終えたところでちょうど魔物の目の前。わたしを迎撃しようと大口を開き、エネルギーを集めている。それをわたしは斬り裂く。全てを斬る絶対切断の魔法、黒の切断ブラック・セイヴァーの前ではエネルギーなんて何の障害にもならない。二つに割れたエネルギーの間を潜り抜けてもう一振り。今度は本体を斬りつける。


「よし、終わり!」


 魔物は容易に切断され、息絶えて塵に還る。簡単なものだと自分でも思う。魔法自体は魔物に対して明らかに強力だ。強力すぎる。足枷になっていたのは姿を見られてはいけないというルールだけで、せりちゃんの協力を得られた今となっては無きに等しい。つまりは順調ってことだ。


「お疲れ様、これで10体目?」


「うん。あと90体。せりちゃんのおかげで見られる心配もないし順調だよ」


 このままのペースで続けていけば、3〜4ヶ月ほどで達成できそうだ。順調。どこか上手く行き過ぎている、そう感じざるを得ないほどに最初の失敗に比べて今は順調だ。見られる心配はない。魔物はわたしの魔法で一撃で倒せる。誰も犠牲にならない。それなのにどうして、なんとなく不安を感じるのだろうか。


「あ、メール」


 変身を解除して、時間を確認しようとしたところでそれに気づく。

 送り主は、みなとさんだ。そういえば、せりちゃんの一件以来会っていなかった。連絡が来たということは会って欲しいということだろう。

 内容を確認すると案の定で情報交換を兼ねて会いたいとのことだった。せりちゃんのことも聞きたいのだろう。ちゃんと説明して、せりちゃんが悪い魔法使いではないことを納得してもらわないと。


「せりちゃん、みなとさんが会いたいって」


「みなと……? ああ、あの時の」


「うん、情報交換を兼ねてお茶でもしないかって」


 とはいえそれは建前だろう。本題はせりちゃんのことだと思う。


「いいわよ。行きましょう」


 あっさりと了承されて唖然としてしまう。断られるかと思ったけれど、あの一件以降、せりちゃんの態度は軟化した。前みたいな来るもの拒むような威圧感は身を引き、多少近寄りがたい雰囲気は残っているものの、端から拒絶することはなくなった。


「罠かも、とか思わないの?」


「思うわ」


 微かに笑いながら答える。そう思うのなら躊躇したりしないのだろうか。わたしは再びせりちゃんに理由を問う。


「じゃあどうして?」


「あなたのおかげよ」


「わたしの?」


 首をかしげる。わたしのおかげ? 何かせりちゃんのためになるようなことをしただろうか。ううん、思いつかない。


「最初から決めつけで拒むのはやめたの。父さんみたいに、それは誤解かもしれないから」


「じゃあわたしのおかげじゃないよ。お父さんのおかげだよ」


「いいえ、あなたよ。あなたがいなければ私は父さんを殺していたわ」


「そっか、そうなのかな」


 どこか納得しきれない部分もあるけれど、そこまで言ってくれているのだからひとまず飲み込む。わたしはあの時、せりちゃんを止めたい一心だったからそういう結果になったのは偶然だ。そう、偶然。運が悪かった。けれど、その結果せりちゃんは救われた。それでよかったとはとてもじゃないけど言えない。でも、彼女が救われたことは喜ばしいことだと思う。


「それに、もし罠だったとしても、今の私にはあなたがいる」


「もう一人じゃないから」


 抱きしめられる。その言葉はせりちゃん自身に言っているけれど、わたしに向かって言っているようにも聞こえた。一人じゃない。有希を失ってしまった。けれどわたしは一人にならなかった。せりちゃんがいる。隣にいてくれる。これがどれだけ心強いことか。


「……うん、ありがと。せりちゃん」


 抱きしめ返すとそのぬくもりを強く感じた。あんなにも冷たく見えた彼女が、こんなにも暖かい。

 わたしたちはディモにいつまでそうしてるんだい? と言われるまで抱きしめあっていた。

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