第7話 あなたは誰
放課後。授業を終えたわたしは一人、職員室に来ていた。
理由は一つ、あの魔法少女。刻示 せりちゃんについて調べるためだ。
「え……? いない?」
白髪で赤い目をした生徒はどのクラスか、その問いに対する教師の解答は予想外だった。
そんなはずはない。あの見た目。一目見れば忘れるわけがない。
「じゃ、じゃあ、刻示 せりっていう子は知りませんか?」
その名前を聞いた教師の表情がゆがむ。
「あー、あの子ね……、それなら、芹沢先生に聞いた方がいいわ。ちょっとー、芹沢先生ー!」
「はい、なんですか?」
柔らかな雰囲気の眼鏡が似合う若い教師が返事をしつつ現れる。
「この子、あなたのクラスの不登校のこと聞きたいらしいわ、あとはお願いね」
そう言ってその教師はそそくさと職員室の奥への奥へ消えていった。
「えっと、刻示さんのことが知りたいんだよね?」
「は、はい」
「少し、場所を変えようか」
職員室から出て正面の応接室に案内される。せりちゃんが不登校児だったなんて。けれど言われてみれば納得だ。あの見た目だし見てれば忘れない。今まで知らなかったのは学校に来ていなかったからだったのか。
「さて、最初に確認しておこう。君の名前は? 君は彼女の何だい?」
「わたしは比奈瀬 小詠です。えっと、1年2組です。せりちゃんとは……」
言葉に詰まる。魔法少女同士です、なんて口が裂けても言えるわけないし。そう思うとわたしとせりちゃんって何なんだろう。今の時点では、魔法少女以外の繋がりはない。けれど、わたしは。
「友達……です。未来の」
そうわたしが答えるのを聞いて芹沢先生は小さく、どこか優しく笑った。
「ふふ……、そうかい、それはいい」
「それで、えっと……」
「彼女のことが知りたいんだね」
「は、はい!」
芹沢先生は、とは言っても僕が知っている彼女のことなんて大したことがないんだけどと前置きした上で、語りだす。
「彼女は、一言で言えば不思議な子だね」
確かに……! ってそんな分かりきったことを聞きたいんじゃない。
「今年の一年生の入試トップって誰だか知っているかい?」
そう言えば、知らない。興味がなかったというわけではなく、ただ知らないのだ。今年の入学式では主席合格者が辞退したとかで次席合格者が新入生代表を務めていたのが記憶に残っている。というかその代わりを務めた新入生代表が有希なのだから忘れるはずがない。
「もしかして……」
「そう、刻示 せりだ」
「そして彼女の中間試験の結果、全科目満点だ」
「え!?」
中間試験は相当の難易度だったはずだ。高校入学したてでこんな難しい問題を出すのかと戦慄したし、有希も苦しんだと言っていた。それに現代文の最後の記述問題、あれの100%正答者は一人だけだったはず。
「彼女は間違いなく天才だよ。学校に来ないことだけが問題だけどね」
たった一人の正答者。それがせりちゃん。学校に来ないのにテストは満点。願いがないのに魔法少女。なんだがちぐはぐだ。彼女は何者なんだろう。どんどん分からなくなっていく。
「あと知っているのはたまに保健室登校をしていることくらいかな」
それが一番の収穫だった。たまに登校しているのなら、また会える可能性がある。保健室登校しているのなら、保健室で張っていればいつか必ず会える。
「先生、ありがとうございました!」
「いや、いいんだ。それより、彼女と仲良くしてやってくれ。願わくば、普通に学校に、なんて。それは君に背負わせすぎだね」
そう言い残して、先生は職員室へ帰っていった。それを見届けてわたしも帰宅しようと振り返ると。
「よっ、小詠」
「ゆ、有希!? びっくりしたぁ」
有希が背後に立っていた。
「どうしたの? 部活は?」
「今日は休み。サッカー部が試合前だからどうしても譲ってくれってさ」
「じゃあ、いままでわたしのことを待ってたの?」
「おう、小詠ったら授業終わったら声かける間もなくさっさと出て行っちまったからな。つけてみたら職員室だったから大人しく待ってた」
全く気付かなかった。それだけせりちゃんのことで頭がいっぱいだったのだろう。
「あと、今日調子悪そうだったろ。心配でさ」
やっぱり有希は優しい。だから、絶対に巻き込みたくない。有希と触れ合う度に、その気持ちは大きくなる。
「有希……、ありがとうね」
「気にすんなって、それじゃ、帰ろうぜ」
そう言って歩き出す有希の後に続く。どうか、有希とのこんな時間がずっと続きますように。彼女だけは、巻き込まれませんように。
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