第44話 宿命のライバル
魔法陣で転送された先は灼熱の砂漠だった。
目に飛び込んできたのは金色に輝く砂の世界。立ち上る熱気がゆらゆらと背景を揺らす。夜の沼地から真っ昼間の砂漠に場面転換したせいか、眩しくて敵わない。まるで日光が瞼をこじ開けて目の奥に居座ろうとしているようだ。
(暑っ……今度は砂漠かよ)
360度見回しても日差しを遮る物が何も無い。大小様々な砂山が不確かな遠近感で我々を取り囲んでいる。圧倒的な砂の大地。そこに平べったい岩が点在している。
汗を拭いながらディノが言う。
「はぁ……これは堪えるね」
フィオナが汗を拭いながら頷く。
「本当に暑いわ。頭がクラクラする」
彼女が言う通り、これは本物の暑さだ。『暑い』というよりは『熱い』が正しい。ひょっとしたら直射日光ではなくてレーザービームが照射されているんじゃないかと思った。流石にこんな環境でガチのバトルは辛すぎる。
(けど、順番で言えば俺かフィオナなんだよな。戦うのは。相手は多分、リーベンだろうけど)
今のところ敵の姿は見えない。腕が焼かれ、ジリジリと足元が焙られる。
しばらくして平べったい岩が『バコッ!』と割れて、土煙の中に人影が現れた。見覚えのあるシルエット……やはりそれはリーベンに違いなかった。
突如現れたリーベンは余裕たっぷりにニヤリと笑う。
「よくぞここまで来た」
まるで歓迎しているとでも言わんばかりの態度にムカっとした。
奴は、やれやれと首を振る。
「それにしても情けない。四天王の名を汚しおって!」
それはソヤローとチグソーのことを指しているのだろう。
(十分、手こずったけどな……こっちも2名脱落したし)
リーベンは目を閉じて吐き捨てる。
「恥さらしが。闇帝様のお力をお借りしたというのに! このままでは闇帝様に顔向けできんではないか」
そう言うリーベンは王家の洞窟で遭遇した時と何ら変わらないように見える。
(あの野郎……ピンピンしてるじゃねえか)
やはり中ボスともなると簡単には死なないということか。まあ、悪の四天王が心臓麻痺で死ぬというのも聞いたことが無いが……。
リーベンはビシッとこちらを指差す。
「水使いの男よ! せっかくだ。この機会にリベンジさせてもらう! 良いな?」
(なぜ俺を指名する!?)
同じ相手と戦うというのはライバルという位置付けなのかもしれない。しかし、ここで自分が出てしまったら残るコターレとはフィオナが戦うことになってしまう。
(フィオナが俺より強いってことはないだろ……大丈夫か? この順番で)
自分はこのチームの副将だと思っていた。フィオナは、どちらかといえば戦闘向きではない。もしかしたら彼女はサポート専門で、ディノが連投ということになるのかもしれないが……。
(待てよ? けど、俺がここで勝てば良いんじゃね?)
そうだ。必ずしも『一人一殺』というわけじゃない。ここで自分が圧勝すれば勝ち抜きで次に進めるじゃないか!
そう思って一歩前に進んで胸を張る。
「いいだろう。お望みどおりに俺が戦ってやろう」
リーベンは満足そうに頷く。
「よろしい。心遣い感謝する。これでようやくリベンジさせて貰える」
「礼を言われる筋合いはないけどな。こっちも負けるつもりはないし」
「はじめから全力でいく。秒殺だ。貴様には何もさせん!」
そう言うとリーベンは「ハァァ!」と、気合を入れて赤いオーラを纏った。と同時に『ゴゴゴ……』と地鳴りのような音が沸き立ち、奴の外形が変化していく。ヨロイの表面が盛り上がってどんどん形を変えていく。まるで定点カメラで撮影した雲の様子を早送りで見るみたいに。そしてついにはのっぺりとした最終形態に変化した。例の表面が七色に輝くツルツルモードだ。
「なるほどね。最初から最終形態ってわけか」
「その通りだ。先の戦いで貴様の実力は分かっている」
そう言いながら奴は右手をすっと前に突き出した。そして『シュッ!』と、光る物体を放出した。
(伸びる武器か!?)
鞭のような軌道で奴の武器が飛んでくる。そこでカウンターで合わせるように「ツゥマジカス!」と、水の刃を縦に放った。修行の成果で格段にレベルの上がった真っ黒な水刃は『ズパッ!』と、空気を切り裂くと共に奴の武器を弾き飛ばした。そしてその勢いのままリーベンの足元の岩を真っ二つに分断し、砂漠を駆け抜けた。
(凄……我ながら強烈な切れ味だ……)
リーベンが水刃の行方をチラ見して感心する。
「ほう。この砂漠でも水の魔法を使いこなすか。しかも防御と同時に攻撃を仕掛けてくるとはな」
内心苦笑した。
(本当は狙ったわけじゃないんだけどな)
奴の武器攻撃を弾くのが目的だったのだが、たまたま勢い余って奴の方まで飛んでいっただけの話だ。
ディノとフィオナに「お前らは下がってろ」と、ここから離れるように指示して改めてリーベンとサシで向かい合う。
(あいつは硬いから剣はまだ出さない方がいいか。けど魔法でどこまでやれるか)
ポスト王国の武器屋で買った剣は小さめの物を選んだのだが、それでも振り回すには重過ぎて隙が生じる。取りあえず奴のスピードについていくには魔法の方が適していると判断した。リーベンの攻撃は、あのヨロイと一体化した金属が伸び縮みで武器化したものが主体となる。それも得体の知れない金属が生き物のように動き回って攻めてくるのだ。なのでその攻撃を見切るのは困難だ。
リーベンが両手を前に突き出す。その手首の辺りがモコモコっと盛り上がって、次の瞬間に金属の鞭が生きた触手のように飛んでくる。しかもそれが何重にも見える。もの凄い手数だ。
『ズパパパパ!』
よく見ると2本ではない。3、4、5、6本。それが連続パンチのように伸び縮みしてくる。
(見える! 見えるぞ!)
一本一本の鞭がしなる様子が分かる。まるでスローモーションのようだ。それなので自然と安全地帯が把握できる。まずはここ、次にこっち、そこで腰を引く、左に少し寄って、軽く屈む、立ち上がりザマに右へ……。
(イメージ通りに動けるぞ!)
鞭の動きに合わせてひとつひとつの動作を確実にこなせば良い。絶妙の距離でそれを交わす。もっとも誌面上は1コマで『ズパパパパ!』に対して『シュッシュッシュ!』といった具合に描写されるのだろう。
連続攻撃を交わされてリーベンが驚いたような顔を見せる。
「……貴様。前に戦った時よりも腕を上げたようだな。何があった?」
何があったと聞かれても修行で海に潜ってただけなんだけど……。
「素潜り」
回答に窮して本当のことを口にしてしまった。
その答えに奴は呆気にとられたようだが直ぐに冷静さを取り戻す。
「済まなかった。訂正しよう。はじめから全力でいくと言ったが、あれは嘘だ」
「だろうな。その程度の攻撃なら前にも見たからな」
「クク。期待を裏切らない男だな。それでこそ我がライバルだ」
「ソヤローやチグソーと同じなんだろ? お前も闇帝の力を借りてパワーアップしたんじゃないのか?」
「……そういうことなら敬意を表して披露するとしよう」
そう言ってリーベンはぐっと胸を突き出すと「ウォォ!」と雄叫びをあげた。そしてプルプルと体を震わせて再び赤いオーラを纏う。すると奴のヨロイにまた変化が生じた。ちょうど肩の辺りが盛り上がってそれがどんどん長くなる。それに続いて脇の下あたりからも同じように盛り上がりが出来て、それがボコボコと伸びていく。
(な、何だ!?)
奴は何をしようとしている? 蜘蛛に変形したソヤローみたいに何か別な形態になるつもりなのか?
「ウォォ!」と、奴がもう一度叫んだところでオーラが一際大きくなり、ふっと消え去った。そして残された変形後のリーベン……。
のっぺりとした風貌は変わっていない。だが、先ほどの最終形態とは大きな違いがある。何が違うのか。それは奴の腕が6本に増えていることだった!
(なんじゃそら? 腕が6本とか何ぞ~!)
リーベンは得意げに言う。
「これが闇帝様のお力だ。スピード、パワー、スタミナ、すべてにおいて最終形態を凌ぐ」
緑っぽい全身に6本の腕。
(それってどこのポケモ……ん!?)
次の瞬間に奴のドアップが目の前に現れた。
『ぬるぽ!』
あまりにビックリしたせいか訳の分からない言葉を発してしまった。すると頭を両サイドから『ガッ!』と挟まれた。続いて両腕がピンと引っ張られる。
(手首も掴まれた!?)
頭と手を固定されてしまった。と同時に嫌な予感がして腹部に視線を向ける。
(あ、ヤベ……奴の手が空いてやがる)
そう思った瞬間、近距離からの連続ボディ・ブローが『ズドドドッ!』と、腹に叩き込まれた。
「ごふっ!」
リアルでそんな声が漏れた。口から生暖かい液体が噴出す。これは血かもしれない。
「オラオラオラ!」
リーベンのラッシュが続く。腹の痛みがどんどん深くなり、体を蝕んでいく。殴られながら考えた。6本の腕にはそういう狙いがあったのだ。両手で頭を掴み、別な両手で腕を固定する、そして残った両手で超近距離パンチを連続で叩き込む。なんという泥臭い攻撃なんだ!
『ぐ……パルマジカ!』
苦しくなって、また意図しない言葉が出た。すると『パァン!』と、破裂音がして目の前に水しぶきが上がった。そしてその爆発の勢いで後方に吹っ飛ばされる。結構、長く飛んだ。そのまま「クハァ!」と、息を吐くのと同時に背中から砂山に突っ込んでしまう。
(な、何が起こった?)
砂山から脱出しながらふと自分の腹を見る。
(こ、これは!?)
なんと腹の部分に覚えのない水の塊が!
(これが爆発したのか……)
どうやらそれが爆発してリーベンの束縛から逃れられたらしい。だが、これは自分で出した技ではない。ということは……。
(心の声? これがそうなのか?)
腹の痛みに耐えながら立ち上がるとリーベンがこちらを睨んでいるのが目に入った。
「グヌヌ……」と、奴は悔しがっている。そして突如、膝をつくと6本の手を同時に地面に突き立てた。
(来る!)
次の展開は読めた。奴は地中を伝って武器を送り込もうとしている!
「ハッ!」と、思い切りジャンプした。と、それを追ってくるかのように鉄の鞭が地面から続々と飛び出してきた。早目に飛んだ分、間一髪でそれを回避できた。それに加えて反撃するチャンスが生まれた。
『ツゥマジカス!』
すかさず縦横斜めに水刃の3連発を放つ。
地面に6本の腕を突っ込んでいたリーベンが『ズボッ』と腕を抜いて立ち上がる。
(さて、どうする?)
リーベンは胸を張ってこちらを睨んでいる。回避するつもりは無いらしい。それどころかまるでかかって来いやと言わんばかりにグイとさらに胸を突き出す。そこに水刃が突っ込んでいく。『ズパズパズパッ!』と、次々にリーベンにぶつかって水刃が砕け散る。が、奴はまったくノーダメージだ。だが、一瞬だけ奴が顔をガードする素振りを見せたのを見逃さなかった。
(やっぱ、あそこしかねえ……か)
奴の全身はどんな攻撃でも跳ね返す金属に包まれている。だが、顔の部分だけは別だ。
「グラマジカス!」
ジャンプを終えて着地すると同時に水魚雷を大量に放つ。これも修行の効果で前よりも魚雷の数が多いし、一発当たりの爆発力が大きい。
剣を抜くならここしかない! 水魚雷の連続爆発に紛れて一気にリーベンとの間合いを詰める。「メルマルク!」の魔法でぐっと加速度を増し、と同時に居合い斬りの要領で剣を抜いて奴の顔面めがけて突進、渾身の突きを繰り出す!
「くらえっ!」
手応えは……あった。
奴の顔面、それもど真ん中を貫いたつもりだった。なのに、なぜだ? この抵抗力? 剣先に力を込めても無駄なことが直ぐ分かってしまう。
(ぎゃ! なんだそりゃ!?)
剣先を受け止めている奴の顔を見て驚いた。剥き出しだったはずの顔面がマスクで覆われていたのだ。それもまるで日曜の朝にTVでやっているヒーロー物のようなマスクが!
(汚ぇ! 聞いてないよ!)
唯一、武器攻撃が効きそうな箇所を狙ったのにとんだ誤算だ……。
リーベンは右腕の一本を使って俺の剣先を握る。
「ククク。良い狙いだ。さすがにヒヤっとしたぞ。それでこそ宿命のライバルだ!」
「誰がお前なんか……ぐ!?」
剣を引っ張られてバランスを崩す。そこでリーベンが4本の手で剣を掴んで揺さぶろうとする。
(なんつう馬鹿力!)
リーベンは「うるあ!」と掛け声をかけて剣ごとこっちの体を吹っ飛ばした。
(とんでもねぇ豪力だ!)
宙に飛ばされながら妙に感心してしまった。そして考える。だが、次の手立てがまるで思いつかなかった。魔法も武器もあの最強のヨロイの前では効果が無い。
(さて……どうしたものか)
前回の対戦では絶対零度でヨロイの一部を無力化して勝利した。だが、同じ手が二度通じるはずがない。それにこの灼熱の砂漠では絶対零度を作り出すなど、どう考えても無理っぽい。
(詰みとまではいかないけど八方塞りクサイな)
こんな状況で女剣士の言葉を思い出す。『心の声を聞け』という彼女の助言。それに期待したいところではあるが……。
随分と遠くに放り投げられてしまった。着地するには苦労はしなかったがテンションは下がり気味だ。このまま戦いが硬直してしまうとも思えない。余裕をかましているリーベンには、まだ引き出しがありそうにも見える。しかしそこでリーベンが意外な行動に出た。なんと奴は右手で自らの左腕を『バキッ!』ともぎ取ったのだ。
「な!?」
続いて奴は同じ要領で2本目を、さらに今度は左手で右腕を『バキッ! ゴキュッ!』と自らもいだのだ。
「な、何を!?」
結局、リーベンは真ん中の腕を左右残して4本の腕を根元からもぎ取った。腕がついていた部分は赤くはなっているが出血は見られない。だが、奴はハァハァと肩で息をしている。
(そこまでして何がしたいんだ?)
奴の意図がさっぱり理解できない。
リーベンはもぎ取った腕を無造作に投げ捨てていたのだが、そのうちの一本を拾い上げると『ぽーん』と遠くに放り投げた。そして他の腕も同じように投げる方向だけ変えて遠くに投げる。
(まったく意味が分からない……)
あれだけこちらの攻撃を弾き返した最強硬度のヨロイを纏っているというのに腕が簡単にもげるというのも納得しがたいが、奴の行動は意味不明すぎる……。
その異常な行動を見守っているとリーベンは何やら呪文を唱え始めた。
(そういえばあいつ……今まで魔法らしい魔法を使ってなかったよな?)
今更ながらそんなことに気付いた。ただ、奴の場合は地上で最も硬い金属を操ってヨロイや武器に自在に転用できるのだから魔法が無くても十分に戦える。さしずめ魔法の使えない戦士といったところか……。
しばらくして砂漠に異変が起こった。奴の呪文、というよりお経に近いのだが、それが『ズズズ』という音を誘発しているらしい。はじめは砂の表面が振動して波紋が出来るぐらいだったのが徐々にその振動が大きくなり、やがて川の流れのように砂が動き始めたのだ。それも、まるで蟻地獄の中心に砂が吸い込まれていくように一箇所に向かって砂が流れていく。
「こ、これは……」
よく見ると砂を集めているのは一箇所だけではなかった。
(1、2、3、4……あれって腕を放り投げたトコじゃね?)
そうだ。先ほどリーベンが放り投げた腕が落ちた先に砂が『ズズズ』と吸い寄せられているのだ。それに気付いてよく観察してみると黒っぽい埃が舞い上がる中で何やら塊のようなものが出来上がっているようだ。
(千切れた腕が巨大化してる?)
それは見間違いなどではなかった。千切れた腕にまとわりつく物体が何重にもなって腕を大きな塊に変貌させているのだ。やがてそれは人間の子供ぐらいの大きさになり、大人のサイズになる頃には加速的に成長のスピードを上げていった。
「成長している……だと?」
運動会のダンスのように4箇所に分かれて繰り広げられる砂の大集合は、さながら局地的な砂嵐となって『何か』を猛烈な速さで育んだ。それがピークを迎えた時、リーベンが「ハァァ!」と、長い呪文を締める。と同時に『ピカッ!』と、辺りが眩しくなり、砂の流れる音がピタリと止んだ。そして元の砂漠に戻ったかと思いきや……とんでもない物を目にしてしまった。
「な、な、何だ……」
砂が集まって出来たもの。はじめそれは黒い岩のように見えた。が、一番手前にあった塊が物凄い雄叫びをあげたのだ。
(い、生きてる!?)
その塊はトリケラトプスのような形をしていた。いや、多分、それと同じサイズはあるんじゃないかと直感した。そして、他の箇所に目を移す。すると同じように黒い塊がそれぞれティラノサウルス、プテラノドン、名前は忘れたが見るからに石頭風の恐竜、に変化を遂げていた。
「囲まれた!?」
それらの恐竜もどきは、どこかの公園に設置されている真っ黒に汚れたオブジェのように見えた。
(小学生が図工の時間に作った粘土よかマシだけど、それが動いているなんて……)
恐らくそれは水ドラゴンを作るのと同じような原理で出来ているのだろう。それに圧倒されているとリーベンの声が耳に入った。
「この辺りの砂は金属を大量に含んでいる。」
「……そういうことか」
「フフ。前にも言ったかもしれんが、このヨロイを覆うヒヒイロカネは生きた金属だ。しかも見ての通り分裂してもその意思は引き継がれている。そしてついには闇帝様のお力のおかげで他の金属を集めて操る術さえ身につけたのだ。ククク。こうなってしまったヒヒイロカネは手強いぞ」
解説ご苦労さまと言いたいところだが、アレが金属で出来ていると聞いて嫌な予感がした。
(硬くて重いということか……しかもこれで1対5)
ここで恐竜が出てくるとは思わなかったが、その巨体はさすがの存在感だ。
(どうすりゃいいんだ?)
尻の辺りが妙にムズムズする。これで背中に電気が走れば良いのに……。しかしもう身体のターンになることは期待できない。女剣士は心の声を聞けと言ったが未だにその言葉の意味が分からない。
『ジョクノ……マジカ……』
「え!? 今のは?」
まるでふいに耳元で囁かれたように明らかに自分の意思ではない言葉が耳に入ってきた。
『デリュフュ』
今のは多分、呪文だ。それも自分が意図したものではない。
(これが……心の声?)
そこで敢えて目を閉じてみた。そして感覚を研ぎ澄ます。自らの内なる部分から染み出してくる何かを捕らえる為に。
〔……ジョクノ・マジカ・デリュフュ〕
これだ! この呪文を使えということだ!
「ジョクノ・マジカ・デリュフュ!」
今度は自分の言葉ではっきりと言えた。自らの意思で。
今の呪文は水ドラゴンを作る魔法だ。目には目を、ということなのだろう。
(敵は4体だけど……え!?)
驚いた。確かに水ドラゴンを作る呪文を唱えた。だが、それは1体ではなかった。視界に入る範囲にびっしりと、何十、いや何百もの水ドラゴンがひしめいている! まさかと思ってぐるっと周りを見回した。
(す、凄ぇ!)
なんと自分の周りを取り囲むように水ドラゴンの集団がところ狭しと集まっている。まるで都会のスクランブル交差点のド真ん中にいるみたいに周りは全部水ドラゴンで覆い尽くされていた。地上だけではない。空中で静止するもの、上空を旋回する集団、まさに水ドラゴンだらけだ。
リーベンが信じられないといったように呻く。
「ば、バカな! この砂漠でこれほど大量の水を? なぜだ?」
その言葉に対して自然と回答が出る。
「予め空気中の水分を集めておいた。この砂漠中の水分をな」
「き、貴様……いつの間に!?」
「お前が6本の腕に変身した時だ。『ヌルポ』の効果だ」
(そういうことか!!)
自分で言っておいて感心した。あの時、無意識に発した『ぬるぽ!』という言葉は身体の意思で発した呪文だったのだ! これで一気に形勢逆転!
恐らくここは見開きの1コマで自分とリーベン達、それをぐるりと包囲するドラゴンの大群という構図が格好良く描かれるに違いない。それもでっかく『ドン!!』という擬音付きで。
そう考えるとテンションが上がってきた。
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