第25話 戦局の行方

 身体は剣を抜いて切っ先をリーベンに向ける。が、リーベンはニヤニヤしながら腕組みしたままだ。互いに空中でホバリング中のドラゴンに乗った状態での対峙。その距離は5メートル前後。この身体のスペックならジャンプひとつで簡単に詰められる間合いだ。だがディア・シデンの背中が上下する。ドラゴンの羽ばたきに合わせて敵のポジションもゆっくり上下する。

〔タイミングが難しいな……〕

 そこでピクリと剣先が動いた。重心が微かに移動して、溜めに溜めた足裏の力を解放しようとしたまさにその時、リーベンがクイッと首を動かした。と、その瞬間に彼等が消えた!

『な!?』

 身体がハッとして横を向く。すると目の前から消えたはずのリーベン達が至近距離に居た。まるではじめからそこに居たかのように……。

 クーリンが後ろに飛びのく。

「ゲ! い、いつの間に!?」

 身体も驚きを隠せないようだ。

『見えなかった……だと?』

〔瞬間移動!? いやマジでそうとしか思えん……〕

 リーベンは相変わらず腕組みしたまま余裕の笑みを浮かべている。

「どうした? 何を驚いている?」

 奴の挑発するような言い方にカチンとくる。

〔なんかムカつく!〕

 敵の位置は先程より近い。この距離なら自分でも飛び移れそうだ。

『フン!』と、そこで身体が反応した。

 身体は何の前触れも無く手首を返すと、手にした剣を目にも留まらぬ速さでリーベンの胸に突き立てたのだ。身体の動きに感覚がまるでついていかない。気がついたらこうなっていたという具合だ。

 が……剣の切っ先がピクリとも動かない。それ相応の力は加えているはずだ。なのに剣を伝わって返ってくる感触はただひたすらに堅い。渾身の突きを止められて身体が『クッ』と、小さく呻く。

 リーベンは、まるでもっと突いてみろとでも言わんばかりに胸を突き出してくる。

〔こいつ……見た目はショボいけどメッチャ硬い!〕

 リーベンの鎧はアルマジロをモデルにしたみたいな古臭いものだ。特に肩の部分など瓦を何枚か重ねたみたいだし、その質感もアルミニウムっぽい。勿論、デザインが悪いからといって性能が劣っているとは思わないが、この剣をノーガードで受け止められたのはショックだ。

 リーベンが誇らしげに言う。

「無理だ。いかなる武器をもってしてもこの身体を貫くことは出来ん」

 凄い自信だ。だから避けようとしなかったのだろう。

 身体がすっと剣を引いてそれを収める。

『大したモノだ……』

 それが本心なのか動揺を隠そうとしたのかは分からない。珍しく手の平に汗を掻いている。何しろ目で追えないようなスピードを見せ付けられ、高速の突きをモロに跳ね返されてしまったのだ。流石に焦りもあるだろう。

 リーベンがやれやれといった風に首を振る。

「とんだ期待ハズレだな。やはりソヤローごときと互角ではこの程度か」

 ますます頭にくる奴だ。

〔こっちだって相当強くなったのに! クソッ! 言い返してぇ!〕

 というかここまで強くなったのに、それ以上かもしれないスペックの敵がまた出てくるとか反則じゃないか? 

 身体は剣を構え直したまま動かない。相手の出方を伺っているのか、次の攻撃を仕掛けるつもりなのかは分からない。

 ふいにリーベンが艦隊同士の撃ち合いをチラリと見て言う。

「どうやら我々が出るまでもないようだな。行くぞ。コターレ」

 そこでドラゴンの首にしがみついていた少年が「あ、はい」と、はじめて声を発した。

 少年がドラゴンの手綱を引くとリーベンのドラゴンはクルリと方向を変えて、戦場とは離れる形で左手に飛んで行った。

 その後姿が小さくなるのを見送ってから身体は剣を収めた。

『四天王リーベン……か』

 その口調はいつもの冷静なそれだった。が、嫌な冷気が脇の下に潜り込もうとしているのに気付いた。

〔さすがのこいつも冷や汗かいてるのか……〕 

 リーベンの姿が見えなくなってからクーリンがため息混じりに首を振る。

「やっぱ四天王なのかよ……この戦争をけしかけたのは」

 やや間を置いて身体が答える。

『恐らくはな。グスト連邦は奴等に牛耳られているというのは本当だったのだろう』

「冗談じゃねぇよ……ジョイルスだけでも大変なのに、これでグストまで来やがったら本当にヤバイことになっちまう」

 そう言ってクーリンが唇を噛む。そんなクーリンの様子と艦隊同士の砲撃戦を見比べて身体が言う。

『そうは言ってもノンビリしていられんぞ。戦闘はまだ続いているからな』

 そうだった。ギガント砲の不発で戦局は大きく傾いているのだ。

 改めて遠方の海戦を観察する。右手がサイデリア艦隊、左手がジョイルスの無敵艦隊だ。

『とりあえず戻るぞ!』

 身体はディア・シデンの背中に腰を下ろすと手綱でGOサインを出した。

 敵艦隊の攻撃を避ける為に味方の艦隊が陣取る右斜めに向かって飛ぶ。戦闘区域に近付くにつれ、爆発音や砲撃の音が激しくなってきた。あちこちで黒煙が上がり、水柱が吹き上がっている。敵味方入り乱れての大乱戦といった具合で見た感じでは個々の艦が受けたダメージは計り知れない。なので煙の上がり方で被ダメージを判断するしかない。

「おいおい……マジかよ」と、クーリンが茫然とする。

 どちらが優勢かは一目瞭然だった。サイデリア艦隊はどれひとつとして無傷ではなく、どの艦も複数の黒煙を引きずりながら後退しているところだった。中には甲板のあちこちに炎をまとっている艦も見受けられる。すでに陣形は崩れ足並みは揃っていない。時折、思い出したように返す砲撃も弱々しく、またハエのように頭上にまとわりつくドラゴンを追い払う為の対空砲火も途切れがちだ。それに対して敵艦の損傷はどれも軽微なようで、その足取りは獲物を仕留めにかかっているハンターのようだった。

 サイデリア艦隊の惨敗を目の当たりにしてクーリンが打ちひしがれる。

「そんな……そんなバカな……」

 身体は冷静に戦局を見つめる。

『恐れていた通りか……指揮官はどう責任を取るつもりだ?』

 そこでポルコ将軍の顔を思い出した。きっと軍艦島の司令部で報告を聞いて、あのチワワみたいな顔をくしゃくしゃにして地団太を踏んでいるに違いない。

〔あんまり反省しそうにないけどなぁ……〕

 だいたい将軍の作戦はギガント砲に頼りすぎたのだ。アレを外した時点で敗北は決定していたといえる。しかし、なぜ着弾地点が大きく逸れてしまったのだろう? 少なくとも自分の活躍で円盤は敵のど真ん中に放り込んだはずなのに……。

〔最初の狙いが間違ってたんじゃね?〕

 恐らく発射を焦るあまり性急に狙いを定めたせいで円盤では補正できないぐらいの誤差が生じてしまったのだと思われる。ただ、あの将軍のことだからギガント砲を外した責任をこっちになすりつけてくることは十分考えられる。そう思うと軍艦島に帰るのが億劫になった。

 味方の惨状をしばらく眺めてから身体が呟く。

『しかし妙だな。短時間でこれほど一方的にやられるとはな。大して火力に差はないように思えるが……』

 確かにやられすぎの感は否めない。ドラゴン爆撃隊に制空権は握られているものの砲台の数ではサイデリア艦隊の方が明らかに上回っている。

〔単にサイデリアが弱すぎなんじゃないか……〕

 半ば呆れていると何を思ったのか身体が剣を抜いて構える。

〔おいおい。何をする気だ?〕

 前方300メートルぐらいに右方向に逃げるサイデリア艦隊の最後尾の艦が見える。左手の敵艦隊は1000メートルぐらいまで迫っている。

 そこで身体が『デグルマジカ!』と、呪文を口にして剣を縦に振り切る。

 すると前方の海面スレスレに衝撃波が出現して真っ直ぐに飛んでいく。よく見るとちょうど海が割れて道が出来るみたいにその衝撃波は海面を切り裂いている。

〔うおっ! 凄え! けど、どこに向かって撃ってるんだ?〕

 明らかに敵艦隊の方向とは違う。むしろ、最後尾を行くサイデリア艦のケツをかすめるように撃ったという感じだ。

 クーリンも同じことを思ったようで声を荒げる。

「おい! 何で味方に攻撃するんだよ!」

『……』

 身体は無言で海面を見つめる。衝撃波が海を切り裂いたのは一瞬で、海面は元通りに収まっている。が、しばらくして何かが浮いてくるのが目に入った。

〔何だありゃ!?〕

 海面の青に赤っぽいものが混じっている。まるで湯船につけたタオルが浮かんでくるみたいに異物がひとつ。いや、3つほど出現した。

『やはりそうか。ブルネラ種……海竜だな』

 それを聞いてクーリンが素っ頓狂な声をあげる。

「かっ、海竜だって!?」 

『ああ。あの大きさは尋常じゃない。恐らく極端な品種改良と特殊な餌で養殖したものだろう』

「奴等そんな物をどこで……」

『デココだ』

「へ? デココって? あの収容所か?」

『そうだ。潮の匂いがするから変だと思っていた』

「そういえば……そっか! あそこは只のダムじゃなかったのか!」

『秘かに養殖をするにはもってこいの場所だ』

 そう言って身体は足元の海面に漂う海竜の死骸を眺める。海竜はオレンジ色の腹を晒しながら白いヒレをだらしなく広げている。なんだか色合いは金魚で体型は鰻みたいだ。とてもドラゴンの一種には見えない。

 そこで『ドゴーン!』と、爆発音がしてサイデリア艦の後部に水柱が上がった。

それを見たクーリンが驚いた顔をする。

「ちょ、何でだよ? あれも海竜の仕業だっていうのか!?  海竜が水で攻撃したぐらいじゃあんな爆発は……」

『勿論、海竜にあんな攻撃が出来るわけがない。恐らくは爆弾を飲み込ませているのだろう』

「ば、バカな! そんなことって……」

『爆弾を抱えて特攻させる。そういう訓練をしているのだろう』

「なんて酷いことしやがる! あれが奴等のやり方かよ」

『ドラゴン爆撃隊ばかりが目立つが水面下ではそういう汚い手を使っていたというのが真相……それが無敵艦隊の正体だ』

 それを聞いて嫌な気分になった。また軍用犬を思い出してしまったからだ。

〔水竜に爆弾飲み込ませて特攻とか鬼畜だろ……てか、何で魚雷を開発しない?〕

 よくよく考えてみるとその辺りのバランスがおかしい。お世辞にも魔法と科学のバランスがとれているとは言い難い。それがこの漫画の世界観だと言われればそれまでなのかもしれないが……。

「チックショー!」

 突然、クーリンが大声を上げたので驚いた。一瞬、何かの呪文かと思ったが「畜生!」と叫んだだけのようだ。

「許さねぇ! こうなったら俺達だけでも突撃だ!」

〔俺達? 俺達って何で俺も入る? 何で人を巻き込むかなぁ〕

 頭に血が上ったクーリンはディア・シデンの手綱を引っ手繰ると勝手に方向を変えてしまう。

〔うわっ! バカ! 落ちる!〕

 急に手綱を引かれたディア・シデンが驚いて体勢を崩した。そのせいで振り落とされそうになってしまったのだ。

『たわけ! お前ごときがヤケクソで突っ込んだところで戦局は変わるまい』

 そんな身体の一喝でクーリンはシュンとする。

「けどよぉ……このままじゃ」

『まずはサイデリア軍を逃がすことが先決だ』

 身体はそう言ってじっと海面を見つめた。そして一呼吸置いて目を閉じる。

〔何か策でもあんのか?〕

 そうこうしている間にも敵艦の砲撃はサイデリア艦隊を追い詰めている。海竜の特攻もまだあるだろう。ドラゴン爆撃隊も今は一旦引いているようだが、もしかしたら爆弾を積みに空母に帰還しているだけかもしれない。どう考えても逆転の目は無さそうだ。

 そこで身体がスックと立ち上がる。そして大きく深呼吸をすると剣を逆手に持ち直し、いきなりディア・シデンから飛び降りた! 勿論、下は海だ。

〔ちょ、何するつもり……〕

 海面に剣を突き立てると同時に身体が呪文を唱える。

『パザム・ル・マジカド!』

 そこで、ピカッと辺りがスパークした。

〔眩しい!〕と、思った次の瞬間『ズォォ……』と、低い音が広がっていく。何の音かは分からない。身体は海面に着水する寸前に態勢を立て直す。で、あっさりと着地。まるで高い所から地面に飛び降りた時のような衝撃が足裏に生じる。

〔あれ? 下って海じゃなかったっけ? 普通に立てるとか……て、硬いぞ!?〕

 さっきの呪文は何だったんだ? まさか足元の水を固める魔法なのか?

「おーい! 大丈夫か?」と、クーリンがディア・シデンを海面ギリギリまで下げさせて迎えに来た。身体はジャンプしてディア・シデンの背中に飛び乗る。身体を乗せてから再び高度を上げながらクーリンが不思議そうな顔をする。

「何をやったんだ?」

『まあ、黙って見てろ』

 しばらくして海面にまた赤っぽい物体が浮かんできた。その数20以上。今度はいっぺんに広い範囲で出現する。それらはあちこちでイルカのジャンプのように海面からポーンと飛び出してきた。そしてピチピチと海面でのた打ち回る。

「こ、これは!?」

『水の粘性を高めたついでに密度も上げておいた。水中で苦しくなった海竜が飛び出してきたというわけだ』

「そ、そんなことが出来んのか! お前、何者なんだよ……」

『これでしばらくはジョイルス艦隊を足止めできる。あとはドラゴン隊をどうするかだ』

 今の説明で大体は把握した。先ほど身体が使ったのは水の粘性と密度を高める魔法だったのだ。

〔だから水中に潜んでいた海竜があぶりだされたのか〕

 それに水の抵抗が何十倍にもなるのでジョイルス艦の動きも止められるというわけだ。

〔にしてもこれだけ広い範囲を……やっぱこいつ凄ぇ!〕

 魔法の範囲がこの海域一帯に及ぶとは驚かされる。

 クーリンが左方向を指差して叫ぶ。

「ドラゴン隊が来るぞ! 奴ら爆弾を補給しやがったみたいだぜ!」

 見ると確かに敵空母から飛び立ったドラゴンの群れが右手のサイデリア艦隊に向かっていく。その数は最初に見た時には及ばないがそれでも100以上。それが一斉にサイデリア艦隊のすぐ後方まで迫る。と、それまでサイデリア艦の上空にまとわり着いていた200頭あまりのドラゴンの半分ぐらいがすっと引いていく。そこにちょうど入れ替わるような形で新手のドラゴン隊が合流し、爆弾による攻撃を開始する。恐らく敵は部隊を幾つかに分けてローテーションで波状攻撃を仕掛けてくるのだろう。

『クッ! 数が多すぎる!』

 援護しようにもどこから手をつけて良いのか分からない状態だ。それに敵味方が入り乱れるところに大技の魔法で攻撃を加えるわけにもいかない。爆撃はさらに勢いを増し、爆音があちこちで連鎖する。それに対してサイデリア艦の対空砲火は散発で虚しく響くだけだ。

〔太平洋戦争みたいだ……〕

 これも図書館の本での聞きかじりだが、大戦末期に大砲主義の日本海軍は航空機主体の米軍にフルボッコされまくったという。

〔たぶん、こんな感じだったんだろうな。だとしたら全滅も時間の問題か……〕

 恐らくあと30分ともたないだろう。それぐらいのやられっぷりだった。

 と、その時突然、閃光に見舞われた!

〔な、なんだ!?〕

 真っ白な世界に包まれてもがき苦しむ。何が何だかさっぱり分からない。

〔まさか……ギガント砲?〕

 幸いそんな大きな爆発は起こっていないようだが……。

『この光は!?』

 視力が回復して身体が目を凝らす。すると艦の上空に密集していた敵ドラゴン隊のド真ん中にぽっかり空間が空いているのが目に入った。ちょうどその空間だけを球形にくり抜いたようにも見える。

「ディノ!」と、クーリンが叫んだ。

『何!?』と、身体が驚く。

 よくよく見てみると空いた空間の真ん中に光るものがある。さらに注意深く観察するとそれが人型をしていて、周りのドラゴンをバッサバッサと蹴散らしているのが分かる。

〔え? あれがディノ? マジで?〕

 クーリンが嬉しそうに言う。

「あいつ……ここで覚醒するか!」

『覚醒だと?』

「ああ。ホントにピンチになった時だけ発動すんだよ。あの状態になったディノはマジで強えよ!」 

 金色に包まれて無双状態のディノを遠目に眺めながら呆れてしまった。

〔何だそりゃ……まるっきり他の漫画のパクリじゃん〕

 少々げんなりした。主人公だからこその強さ補正とでも言おうか。分かり易いといえばそうだが安易といえなくもない。おまけにドサクサに紛れて宙に浮いてるし……。

 覚醒した金色のディノは敵をまったく寄せ付けない。両手に持った剣を豪快に振り回し、時折、回転しながら近付く敵を片っ端から撃ち払っていく。ディノの周りに空間が出来ていてまるで結界のようだ。やがてそこに敵ドラゴンが集まってくるが誰もその中心に近付くことが出来ない。

『フン。なかなかやるな』

 身体は冷静にそんな光景を眺めている。そうこうしているうちにディノの周りには敵ドラゴンが居なくなった。すると今度はディノが攻勢に出た。ディノはドラゴン隊の別な集団に向き直ると片手をかざす。そこから放たれた無数の光の矢がドラゴン隊を貫く。右に左に方向を変え、離れた所に対してもちょっと腕の角度を変えるだけでディノは容赦なくドラゴン隊を撃ち落していった。

 クーリンは興奮を抑えきれない。

「凄えぜ! あっという間に形勢逆転だ!」

 確かにドラゴン隊の数は半減どころか逃げ惑う数頭を残すのみになっていた。

 たったひとりでドラゴン隊をほぼ全滅させたディノはしばらく肩で息をしていたが、急に光を失って墜落し始めた。

 それを見てクーリンが慌てる。

「デ、ディノー!」

 すぐさま身体がディア・シデンを駆って落下するディノを海面スレスレでキャッチした。

 クーリンはディノを抱きしめながら絶叫する。

「ディノ! やっぱお前は強えよ! 本当によくやった!」

 ディノは精根尽き果てた様子だったが微かに反応はするようだ。

「い、痛いよ。クーリン……」

「わ、悪ぃ! 早く治療しなきゃ、な」

 ディノを送り届ける為にとりあえず旗艦に戻ることにする。


   *   *   *


 ムチカ大佐の乗る旗艦もかなりのダメージを負っていた。が、なんとか航行は可能ということだった。ディノの介抱はクーリンに任せて身体は再びディア・シデンで飛び立ち、敵艦の動きを監視することになった。

 正直、精神的にはボロボロだった。疲れたというよりただひたすら眠りたい。しかし、身体のターンは終わらない。

〔しょうがないか。これで終わりじゃないからな……〕

 ディノがドラゴン隊を退けたとはいえ、まだ敵の空母にはドラゴン爆撃隊の残党が居るはずだ。それに足止めしてるとはいえ、敵艦からの砲撃が止んだわけではない。傷ついた味方艦隊の足取りを考えると安全な海域に脱出するまでは油断ができない。

 旗艦の上空で敵艦を監視していると8時の方向に黒い影がチラホラと出現するのが目に入った。

『新手か? いや。あれは……』

 ジョイルス艦隊の左手の方角から現れたのはやはり船の集団だ。数は定かではないが恐らくは海軍に違いない。方向からしてサイデリアの援軍とは思えない。

〔だとしたら……俺がやるしかないのかよ〕

 半ば諦めていると下の方が騒がしくなった。

 甲板の上で船員達が叫ぶ。

「やった! 援軍だ! ポスト王国軍が来てくれたぞぉ!」

「助かった! おおーい! ここだ!」

 どうやら遅ればせながらポスト王国の援軍が到着したらしい。これで何とか敵を追い払うことが出来れば良いのだが……。

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