第23話 軍艦島のポルコ将軍

 軍艦島へはサイデリアの首都ブラームからドラゴンで10分、船ではまる1時間はかかるという。我々4人はそれぞれのドラゴンで軍艦島に向かうことにした。

 海は穏やかで海風が心地良い。晴天に恵まれた海原は真平な水色をはべらせ、鮮やかな青を所々に織り込んでいる。たまに見える紺色のまだら部分は相当水深があるのだろう。それはそれで海の持つ別な顔を孕んでいるように思えた。一方、遠目から見た軍艦島は丸っこく感じられた。軍艦というぐらいだからもっと細長い平べったいものを想像していたのだが……。

〔なんかブロッコリーみたいだな〕

 島に近付くにつれ、その例えがあながち間違いでないことが証明された。

〔何だこりゃ!?〕

 その異様な造形にあっけにとられた。何しろ土の部分は土台部分だけで、その上にドサドサと積み上げられたものはすべて人工物だったからだ。まるで天ぷらに天ぷらを重ねた超大盛り天丼みたいだ。

〔凄ぇ……よく崩れねえな〕

 まるで積み木、いやブロックとも違う。例えるなら小学生が家にあったガラクタを持ち寄って闇雲に積み上げた卒業制作みたいなものだ。ひとつひとつの建物はさほど大きくない。色に統一感はなく形も大きさも様々。だが、それが互いに密着し、積み重なって巨大な集合体となっている。

〔けど面白いなあ。中はどうなってんだろ?〕

 少しワクワクしていると身体が呟く。

『早速おでましか……』

 見ると島の方からドラゴンの編隊がこちらに向かってくる。あれは恐らく軍艦島を守る部隊なのだろう。自分達はどうやら警戒されているらしい。

「おおーい!」と、先頭を飛んでいたクーリンがドラゴンの背で立ち上がって大きく手を振る。そしてパラパラダンスみたいな手の動きを見せる。

〔何やってんだ? あのハゲ……〕

 半ば呆れていると前方でドラゴンの編隊が一頭を残して回れ右をして帰還していく。

『フン。手信号か』

 そういえばクーリンはサイデリアの軍人だった。だから手で合図して自分達は敵でない事を相手に伝えたのだ。

〔なるほどね。あいつ、はじめて役に立ったな〕

 島から飛んできたドラゴンのうち残った一頭は我々が近付くのを待って合流する。そしてドラゴンに乗った兵士が大きな声で呼びかけてきた。

「貴殿の所属は?」

 クーリンがそれに敬礼で答える。

「ハッ! クーリン・ハラデー少年特務兵であります! 敵軍の機密情報を入手しましたのでポルコ将軍に届けに参りました!」

「了解した。貴殿らを誘導する!」

 それを聞いてクーリンが振り返りザマにウインクしながら親指を立ててみせた。

〔てか、なんで自分の手柄みたいに報告してやがんだ?〕

 やっぱり奴のことは好きになれそうにない。

 兵士の誘導で軍艦島に接近しつつ、大きく迂回する。どうやら軍事施設は反対側にあるらしい。改めて軍艦島を眺めるが笑ってしまうようなアンバランスさだ。

〔全然、軍艦じゃねえし! なんだよこれ〕

 確かに土台の島は薄っぺらく、ほぼ長方形だ。しかし島の真ん中に鎮座する『もっこり』はあまりにも浮いている。とにかくバランスがおかしい。まるでキャベツをまな板に乗せたような感じだ。しかも丸っこい建物の集合体には所々に細長い筒が刺さっている。もしかしたらそれは大砲なのかもしれないが、まるでカキ氷にチョコレート菓子を突き刺しているような具合だ。あれで海から来た敵に向かってドッカン、ドッカンぶっ放すのだとしたら結構ウケる。 


 軍の施設は島の反対側にあった。こちらは幾分か建物の色や形が統一されていて、一応はそれっぽく見える。ただ、その背後には例の建物の集合体が山となって寄りかかるように密着しているので、ちっとも緊張感が無い。

 取りあえずドラゴンを着地させて案内の兵士に要件を告げる。

 クーリンの説明を聞いた兵士は顔を強張らせる。

「なんと! それは重大な情報だ。早速、司令部に報告をしなければ!」

 そこでクーリンが肘でディノを突く。

「おい。封印を解けよ」

「あ、そうだね」

 そう言ってディノは小皿を取り出して何やら呪文を唱える。すると小皿から煙が上がって巻物が出てくる。

 クーリンはそれを引っ手繰って兵士に差し出す。

「これであります! なにとぞポルコ将軍に宜しくお取次ぎください!」

 兵士はちょっと面食らったような感じで巻物を受け取る。

「あ、ああ……それはいいが、将軍に会うのか?」

「勿論であります! 直接、説明するべき情報ですので是非!」

 クーリンの猛アピールに兵士はしばし考え込んだ。そしてやれやれと首を振る。

「いいだろう。ただし、夕刻まで待て。今は作戦会議中だ」

 それを聞いてクーリンがガッツポーズ。

〔こいつ、どこまで上昇志向なんだ?〕

 正直、不快感しか無い。そこで身体が口を開く。

『では適当に時間を潰すとするか』

 そこでフィオナが反応する。

「私が案内しよっか? ここには何度か来たことあるから」

〔おおっ! それは大歓迎!〕

 瞬間でテンションが最大値! が、身体はクルリと背を向ける。

『構うな。勝手に回らせてもらう』

〔え? て、オイコラ! 嘘だろ……やめて〕

 スタスタと歩きながらも後ろが気になって仕方が無い。フィオナのせっかくの誘いをこんな形で断るなんて……。

〔クソ……いつか必ず復讐してやる!〕 


 潮風を全身に受けながらしばらく島を歩く。軍施設のすぐ裏手が例の建物の集合体になっている。まるで溢れかえったゴミが雪崩となって建物に寄り掛かっているようだ。

 外付けの螺旋階段があったので適当に上っていく。4階分ほど上がったところで階段が終わった。とりあえずそこから中に入る。

〔暗い。てか人の気配が無いな……〕

 照明の類が無いせいか内部は薄暗い。入口と窓からの明かりが辛うじて差し込む程度だ。入口から奥に向かって廊下というよりも通路のようなものが延びている。その両脇には不揃いなドアがランダムに並び、あちこちに看板が出ている。空き瓶やら空っぽの缶詰やら床にはゴミが散乱している。ドアの横に積み上げられているのは酒のケースだろうか? まるで体育用具室みたいに雑然としている。そのくせ室内なのにどこかの路地裏に出たような感覚だ。下町の裏通りならこんな場所があるかもしれない。

〔ひとつの建物の中に店が密集してるのか……〕

 身体は気にせず歩を進める。ちょっと歩いたところ天井が低くなった。足元にも違和感がある。そこで身体が立ち止まって壁に触れた。壁にはちょうど境目があって左右で色合いが異なる。その両方の手触りを確かめながら身体が呟く。

『これは……材質が違う』

 それで分かった。ここは建物と建物の境目なのだ。

〔同じ建物じゃないんだ!〕

 てっきり大きな建物の中を歩いているものと考えていた。しかし、実際は別々の建物が繋がっていたのだ。これは恐らく連絡通路のようなもので、別々に建てられたものを後からくっつけたのだろう。

『どうやら壁をぶち抜いて繋いでしまったようだな』

 最初の入口からここまでは30メートルほどだろうか。この先には、まだ数十メートル直線が続く。確かにひとつの建物としては廊下が長すぎる。

 再び身体が前に進むと今度はすぐに足元に段差が表れ、天井が高くなった。通路の幅も狭まった。

〔なんか無理やり繋いだ感じだよなあ〕

 双方の壁を取っ払って廊下と廊下をこうやって繋げられるということは、よっぽど建物どうしが密着しているのだろう。

『行き止まりか』

 さらに奥に進んだところで身体が立ち止まる。が、右手に階段を発見した。身体は迷うことなく上に向かう。しばらく上ったところでまた通路に出る。このフロアは照明が点在している。

〔あれ? 今度は横に通路が延びてるのか?〕

 先ほどのフロアでは入口から直進してきたのだが、このフロアではそれとは垂直に通路が延びている。

〔どういう構造なんだよ……方向感覚がおかしくなりそうだ〕

 身体は通路を右に進んだが、やはりさっきと同じように通路が他の建物と連結している。つまり、通路を歩いているだけで次々と別な建物に足を踏み入れる形になるのだ。建物の境目には鉄板が敷いてあったり隙間が板で埋められたりしている。中には廊下ではなく、明らかに部屋の中という箇所もあった。

 通路を進んで分岐点は適当に進み、行き止まりは階段を選択する。それを何度か繰り返しているうちに自分がどこに位置しているのか全く分からなくなってしまった。

〔おいおい。まるっきり迷路じゃん。これじゃ迷子になっちゃうよ……〕

 あまりにも無計画な建物内部の散策に一抹の不安を覚えた。だが、身体はスタスタと適当に歩き続ける。そしてあるフロアに下り立った時、通路の先にぽっかりと空間が広がっているのが目に入った。

〔あそこから外に出られるかも!〕

 外界から差し込む光を見てそう思った。が、身体がその場所に到達した時、その期待は見事に打ち砕かれた。

〔なんだこりゃ!?〕

 通路が途切れた所にはバルコニーがあった。一歩、そこに足を踏み入れて結構、高い位置にあることに気付く。いつの間にか相当上の方に上がっていたのだ。

『これは……』

 見下ろした光景に身体が息を飲む。そこにはすり鉢状の穴がぽっかりと空いていた。大きさは運動場ぐらいか。この高さから見下ろしても穴の底が見えない。しかも穴を取り巻くようにして建物がぐるりとそれを取り囲んでいるものだから穴の異様さが際立っている。穴の縁ギリギリまで進出した建物の集合体は巨大な『囲い』のようになっていて、まるでツギハギの壁で穴を隠そうとしているようにも見える。

『地下鉱山か』

 なるほどこれがフィオナの言っていた輝石の鉱山なのだろう。身体はしばらくその穴を観察してから引き返すことにしたようだ。

 来た道を戻る途中で明かりが点いた店を発見した。看板には酒瓶が描かれている。

〔さっき通った時は開いてなかったよな?〕

 何を思ったか身体はその店の扉をくぐる。

『開いてるか?』

「へい。いらっしゃいやせ!」

『お勧めの酒をくれ』 

 身体がカウンター席に腰掛けると同時に「へい」と、店主のオヤジがカウンター越しにグラスを差し出す。

〔早っ!〕

 まるで最初から用意していたみたいに速攻で飲み物が出てきた。それも得体の知れない液体の入ったグラスだ。ピンクっぽいというか紫に近いような色合いにちょっと引く。

 だが、身体は躊躇することなくそれを一気飲みする。

〔おりょっ!? 意外に美味くね?〕

 ほんのり甘いイチゴ風味のヨーグルトドリンクといった感じだ。飲んだ後のこの甘酸っぱさはキライではない。

〔これってホントに酒か? 特になんともないけどなあ〕

 飲酒したところで身体に何ら変化は無い。もっと頭がクラクラするとか気分が良くなるとか期待してたのに……。 

 身体がオヤジに尋ねる。

『はじめて来たが凄いところだな』

「何がですかい?」

『建物だ。ツギハギだらけじゃないか。よく崩壊しないものだ』

「へへ。そういうことですかい。そりゃ初めて見たら誰でも驚きやすよ。アッシはここで30年商売してやすがね。はじめのうちは誰もこんな風になるなんて思っちゃいませんでしたぜ。でもね旦那。見ての通り狭い島ですんでね。人が増えるたびに上へ上へと伸ばしていくしかなかったんでさ」

 オヤジの話によると、はじめは鉱山夫たちの住処としてスタートしたこの町だったが、予想以上に良質な輝石が採れるようになったことで人口の流入が一気に加速したらしい。ゴールドラッシュさながら一攫千金を夢見る山師が集まり、輝石を加工する者、転売目的で買い付ける者、そんな連中を相手に商売を始める者と人が次々に集まった。人が集まるところに金は集まり、金が動けば人が動く。とはいえ人口の爆発に対して土地には限りがある。とりわけ孤島というこの島の性格上、建物の密度は急速に高まり、それでも足りないので上へ上へと向かわざるを得なかったのだ。やがて彼等の家族まで引っ越してきて、おまけに軍の司令部が出来てという段階になると、もはや安全性など二の次で建物の上に建物を重ねていくより他になかったのだ。 

 オヤジはいつの間にか自分も酒を飲みながら上機嫌で語る。

「そりゃね。旦那。こんな所に住むなんざ正気の沙汰じゃねえってことぐらい皆わかってるんですぜ。現にあそこが崩れたとかどこそこが潰れたなんて日常茶飯事でさ」

 その度に補強は成されるようなのだが町全体がツギハギだらけというのもいかがなものか……。

『しかし下の階は大分うらびれているな?』

 身体がそう尋ねるとオヤジが顔を顰める。

「そりゃ、皆できれば上の方に住みたがりまさあ。潰されるよりはマシですから」

『だが、ああなる前はそれなりに栄えていたように見えるが?』

「階層になってるんでさ。ここはね、旦那。はじめにある階でコミュニティができて、その次にそのちょっと上の階が繋がってまた新しい町ができるんでさ。そいでまたちょいと上の階。その繰り返しでさ」

 酔いが回ってきたのかその後のオヤジの説明は聞き取り辛かった。が、要約すると、誰かが最初に建物の壁を取り払って他の建物と繋いだのをきっかけに、同じ高さのフロアの住人が続々とそれを真似した結果、幾つもの建物がひとつに繋がって広場みたいになってしまったのだという。そしてそこに店や市場が出来て人が集まるものだから、まるでそのフロアが地上の町ようになったのだ。恐らく建物の乱立で立錐の余地が無い地表では、まとまったスペースが出来ないので中途の階がその代用となったのだろう。

「けどね。旦那。そうやって一時は栄えたフロアも上の方に新しいメインストリートができちまったらすぐ閑古鳥でさあ」

〔てことは最初に足を踏み入れたフロアが寂れてたのは仕方無いことだったのか……〕

 まったくもって奇妙な町だ。 

 身体が店内奥にある壁からはみ出した巨大な柱のようなものをチラ見する。露出しているのは一部分なので定かではないが、どうやら柱が壁にめり込んで建物を侵食しているみたいだ。

『ところでさっきから気になっていたんだが、あのブサイクな柱は何だ? なぜ店の中にあんなものが?』

「ああ、あれは軍の砲台を支える柱の一部なんでさ」

『砲台の支柱なのか』

「ええ。後付けなんですがね。軍が強引におっ立てた柱なんでさ。なんとか砲って特別な砲台なんだそうで。まあ、我々もそれに寄り掛かって建物を支えてるんですからお互いさまってことで。けど、あれはあれで演習の時なんか大変ですぜ。地震どころの騒ぎじゃありやせんから」

『それは災難だな。だが、戦争になったら商売上がったりなんじゃないか』

「どうですかねえ。もっとも四六時中ドンパチやるなんてこたあないでしょうが……」

 その時、サイレンの音が聞こえてきた。結構、大きな音だ。

『あれは何の知らせだ?』

「鉱山の終業でさあ。これから鉱山の連中が上がってきやすから、ちっとは忙しくなりやす」

『もうそんな時間か。では戻るとするか……』

 

   *   *   *


 ポルコ将軍は思ったより小柄なおじいちゃんだった。ぱっと見は犬のチワワに似ている。チワワに太い眉毛を描き込んだら、ちょうどこんな顔になるだろう。

 将軍は甲高い声で我々の労をねぎらう。

「実にご苦労! よくぞ敵の機密情報を持ち帰ってくれた。貴殿らの情報は大変、貴重なものであーる!」

 それに対してクーリンが即座に反応する。

「ハ! ありがたきお言葉、光栄であります!」

 これ以上無いくらいに背筋を伸ばして胸を張るクーリンを見てうんざりした。

〔またかよ。どんだけ上昇志向なんだ?〕

 ディノとフィオナも苦笑いだ。

 ポルコ将軍はテーブル上の海図を指差しながら言う。

「諜報部の情報と照合したところ、貴殿らの情報は極めて信頼度が高いことが判明した! その結果、敵艦隊の進攻ルートはこのように想定されるのであーる!」 

 海図はサイデリアとジョイルスの間にある海を拡大したものになっている。

 将軍の隣に立っていた背の高い軍人が説明する。

「恐らく、ジョイルスはこの海流を利して我が国領域に至るルートを選択するであろう」

 海図に書き込まれている赤い矢印がそのルートらしい。

 背の高い軍人は軍服の胸に女の子のシール帳みたいにバッジを着けまくっている。多分、それなりに偉い人間なんだろう。その彼が補足説明をする。

「ジョイルスの主力艦隊は、この辺りで我が国の海岸線に最も接近する。となるとドラゴンの航続距離の範囲内に入る為、爆撃を警戒せねばなるまい。そこで陸軍の守備隊をこことここ、それからこの箇所に配置する」

 それを聞いて身体がぽつりと感想を漏らす。

『戦力を北に集中するのはいかがなものか? 敵の別同部隊が南側を強襲する可能性もあるんじゃないか?』

 その言葉でその場に居た面々に緊張が走った。クーリンは露骨に嫌な顔をする。ディノはオロオロしている。フィオナは心配そうな面持ちだ。

〔ば、バカ! 余計なことを!〕

 軍のお偉いさんの前で作戦にケチをつけるようなことを言うとは! 相変わらず空気が読めないキャラだ。

 案の定、背の高い軍人が顔を真っ赤にする。

「ド素人が! 海岸線を防衛するのがどれだけ大変なことか分かっておらん! それでは幾ら兵力があっても足りるまい。良いかね? 敵軍の動きを的確に予想し、どこに兵力を集中するかが重要なのだ!」

 しかし身体は憎まれ口を叩く。

『その決めつけが時に悲劇を呼ぶ。制服さんの悪い癖だ』

 もう呆れるしかなかった。

〔どうして火に油を注ぐことを言うかなあ……〕

 そこでクーリンが切れた。

「おい! 謝れ! ムチカ大佐に失礼だろうが!」

 そのやりとりを見守っていたポルコ将軍が「まあまあ」と、場をとりなす。そしていかにも何か企んでるといった具合にニヤリと笑った。

「ところで、だ。そう言う貴殿は、見たところジョイルスの出のようだが? 構わんのかね?」

 将軍の視線がこちらの左腕に注がれているのに気付く。ポルコ将軍はこのキャラの腕輪を見ていたのだ。

『何がだ?』 

「なに。てっきり祖国とコトを構える気があるのか気になったのであーる」

『フン。下らんな……』

「気を悪くしたなら申し訳ない。貴殿を信頼しておらんわけではないのだ。ただ、それならひとつ頼まれてはくれぬか?」

 ポルコ将軍の妙に下手にでたような態度が気に食わない。

〔なんだよこのチワワ……何を企んでいやがる?〕

 ポルコ将軍はムチカ大佐に目配せしてから言う。

「ギガント砲を使う。それを手伝って欲しいのであーる」

『ギガント砲?』

 ディノ達もその言葉を聞いてきょとんとしている。

 ムチカ大佐がコホンと咳払いして解説する。

「この島に据えられた世界最強の砲台だ。一撃で敵艦隊を葬り去ることが出来る」

 彼はそう言って部屋の壁に並ぶ写真のひとつを指差す。そこには巨大な大砲が写っている。

 ポルコ将軍は上機嫌だ。

「最強と言われる艦隊を最強の砲台が打ち砕くのであーる! こんな痛快なことがあるかね?」

 そう言って将軍と大佐が、女の子同士が「ねぇ」と互いの顔を見合わせるような仕草をも見せた。

〔キモ……てか、こいつら絶対デキてるだろ……〕

 カッパ野郎のところで散々この手のホモネタを見せ付けられたので、何だかそんな気がした。

 ムチカ大佐がまたしても咳払いをしてから口を開く。

「ただ、唯一、弱点があってな。着弾地点の微調整が利かんのだ。つまり、命中させるにはそれなりのリスクを負う」

 大佐の説明ではギガント砲はあまりに巨大な為、一度照準を定めてしまうと細かい調整が出来ずそのまま発射するしかないというのだ。例えば、せっかく狙いを定めたとしても敵が移動してしまっては命中させることが出来ない。つまり臨機応変に狙いを補正することが不可能なのだ。

 クーリンが落胆して呟く。

「そ、それでは余りにも……」

 そこでポルコ将軍が自信ありげに言う。

「当然、対策は考えておる。それがこれなのであーる」

 そう言って将軍がテーブルの上にフリスビーみたいな円盤を置いた。

『何だそれは?』

 身体が尋ねると将軍が答える。

「これでギガント砲の砲弾を誘導するのだ」

 将軍の取り出したアイテムにクーリンが興奮する。

「そ、それは素晴らしい! つまりそれを敵陣の真ん中に放り込めば、補正がかかって命中させられる訳ですね!」

 クーリンはそんな具合に絶賛するが、どう考えても無理があるような気がする。

 ディノが心配そうに言う。

「ギガント砲は魔法弾なんですよね? だからその円盤で誘導すると。でも、誰がそれを敵の真ん中に……て、まさか!?」

 そこでディノがこっちの顔を凝視するものだから嫌な予感がした。

「その通りであーる。頼みたい事というのは、つまりそういう事なのであーる!」

 将軍は本気のようだが、よくよく考えればとんでもない話だ。

〔おいおい。一撃で艦隊を吹っ飛ばすんだろ? 危ないじゃねぇか!〕

 ディノが目を剥く。

「そんな! 何でダンにそんなことを! 危険すぎるよ」

 ムチカ大佐が「大丈夫だ」と前置きして補足説明をする。

「ギガント砲の魔法弾を発射する時刻は予め貴殿に知らせる。発射から着弾までの時間は約80秒だ。そこから逆算して離脱すればよろしい。それに砲弾は炎系の魔法だ。万が一、爆発に巻き込まれそうになっても貴殿は水使いだから何とか対処できよう」

 身体が冷静に問う。

『爆発の範囲は?』

「約30メルモだ」

 大佐が数字で答えるが、その『メルモ』という単位が分からない。聞いたこともない単位だ。

〔メルモって何だよ? メートル換算で言えよ!〕

 だが、身体はしばらく考えてからゆっくり頷く。

『分かった。いいだろう』

 呆れるよりも驚いた。

〔断れよ! マジか? 何で自分が?〕

 なぜ故にサイデリア軍の為に特攻などしなくてはならないのか? さっぱり、理解出来ない。しかし、クーリンは背中をバンバン叩いてくる。

「よっしゃ! 見直したぜ!」

「そんな……酷すぎるよ」と、ディノは唇をかみ締める。

 フィオナは口元を押さえながら悲しそうな目でこちらを見つめる。

 腹が立つのはポルコ将軍とムチカ大佐のコンビだ。まさしく「してやったり!」と言わんばかりの『ドヤ顔』に心底、ムカついた!

 これは、ちょっとどころか相当ヤバそうな事になってきた……。

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