第16話★休憩、懐かしむ学生らしさ

「いやぁー。一発で魔霧結界ましょうけっかい、出来るとは思わなかったなー。これも、二人のおかげだな!」


 開口一番、ソウイチが嬉しそうに言った。


 実技室を後にした僕達は、例の自販機がある休憩所で時間を潰している最中だ。


 他の生徒が授業をしている中、こうして授業を受けずにベンチに座っていると、何とも言えない背徳感に包まれて、どこか懐かしい学生らしさというものを思い出す。

 

 しっかりと授業の課題をクリアしたからか、他の二人は特に何も感じていない様子だ。しかし、僕は元の世界で既に成人しているはずだから、余計にそれを強く感じている。


「そうだよねー。僕も、何もしてないし……」


 目の前に座っているソウイチの言葉に頷きながら、自販機で買ったジュースのようなモノ――中身は真緑だが味はみかん――を、啜りながらそう呟いた。


 魔法を構築するのが、あれ程難しいとは思ってもみなかった訳ではないが、少し自信が無くなってしまった。


 まだこの世界に来て間もないのに、いきなり魔法が使えるなんて都合の良い話ではあると思うが、やっぱり自由自在に魔法を使ってみたい。


「いや、案外二人ともしっかり魔法構築できていたぞ? というか、現状、魔霧結界を構築できるのは、エルナも含め俺達だけだと踏んでいたからな」


「それ、ホント?」


 思わず聞き返してしまった。エイタは僕の言葉に同意するように頷いている。


 全く魔法が出来たという感覚が無いのだが、エイタから見ると出来ていたのかも知れない。しかし、実感が無いのでどうもピンとこない。


 ちょっと信じられないような視線をエイタに向けると、エイタは本当の事だと言いたげな表情をしている。


「よしてくれよ。コウタはともかく、俺は全然だ」

 

 ソウイチが、キッパリとした言い方でエイタの言葉を否定した。


 明るかったソウイチから、少し苛立つような口調が聞こえた事に驚いて、思わず目を見張った。


 ソウイチの反応を見たエイタは、それ以上何も言わずにただ黙っている。それには、どこかソウイチの事を見守っているような意味合いが含まれていると感じた。


 ん? なんかいきなり暗い雰囲気になったけど、ソウイチには何かあったのか?


 エイタは、本心で僕達の事を褒めたに違いない。まだ付き合いが浅いが、エイタはハッキリとしたもの言いをすると、今までの会話で感じていた。


 そうすると、やはり過去にソウイチが魔法を使った事で何かしらのトラブルがあったのかもしれないが、日ノ本コウタである今の僕はその事を知らないので、どう反応すればいいかわからない。


 少し気まずい空気が流れ始めていたことに、ソウイチ自身が気づいて「ごめんごめん」と言いながら、すぐに明るい顔を覗かせた。


 良かった。先程の、明るいソウイチに戻っているようだ。しかし、エイタはまだ何か言いたそうに見えたが、ソウイチと視線が合うと、口を閉ざした。


 一体なんだったのだろう。ソウイチに何があったのか気になるが、ここで聞いてしまったら怪しまれてしまうから、後でエイタかワカナにでも聞くことにしよう。


「それより、あと一時間弱なにするよ?」


 ソウイチは、その場の空気を変えるようにして、笑顔を浮かべて僕らに問いかける。


「そうだよねぇ……。一時間目すら終わってないし」


 まさか、魔法を使った最初の授業が、数十分で終わるとは思ってもみなかったので、僕を含め二人とも何も考えてなかった。


「まったくー。どこか適当なとこあるよなー、イズミ先生」


 ソウイチは呆れ気味に首を振っている。


「あぁ。だが、そこがイズミちゃんの魅力だ。コウタもそう思うだろう?」


「え? なに?」


 と、急にエイタから話を振られたため、聞き返してしまった。


「イズミちゃんの魅力だ」


「み、魅力」

 

 エイタの言葉を復唱しながら、その魅力について考える。


 七黄木先生の魅力かぁ。一番印象的だと感じたのは、元気があるところだろう。終始、楽しそうにして、魔法結界を行う生徒達を見て回ってたのは視界の端に映っていた。

 

 適当さが魅力だと言われても、さっきの授業で初めて七黄木先生を見たし、一回だけ見て判断するのは早いような気もする。

 

ただ、エイタもソウイチも、適当だと満場一致の意見だし、そこが魅力のポイントであると……というか、何で真剣に考えているんだ?


「う、うん、僕もそう思う。適当なところをこう、上手く管理出来たら面白いよね」


 適当に考えた言葉を言うが、二人からは返事が返ってこない。


 視線を向けると、エイタとソウイチはポカンとした様子で僕の言葉を聞いていた。


「あれ? 僕、変なこと言った?」


「……いや。そうか、良い答えだ」


「あ、そう?」


 よくわからないが、エイタは得意そうに腕を組み始めた。しかし、ソウイチは未だにポカンとした様子をしているので、頭を掻きながらどう弁明しようか考え始めた。


「そ、そんなに深く捉えないでよ? ただ、思ったことを言ったまでで……」


「――お、おう! いやー、見ない間にコウタもそうやって見れるようになったんだなって、思ってな! 少し驚いちまった! へへ、これで少しは話がわかるようになるな!」


「あぁ。ようやくだ」


 何故だか二人は嬉しそうにして笑っているので、よくわからないけど、適当な人を自分で管理する面白さを理解してくれたようだ。良かった良かった。いや、良くない?


「二人とも? さっきの言葉は鵜呑みにしないでよね? 適当に言ったんだからさ」


「あぁわかってる」


「もっちろんだ!」


 二人はほぼ同じタイミングで頷いている。んー、どうも違うように感じるけどまぁいいか。


「それでさ? この後、どうする?」


 ここで、最初の話しに戻るとしよう。


 僕がそう言うと、二人は考え込むように腕を組む。


「まぁ、教室に戻って自主勉強でもいいが……自主練習はどうだ?」


「お! いいじゃん、それ!」


 それを聞いたソウイチは、ナイスアイディアと言わんばかり、手を叩いた。


「そうだな。もしかしたら先に帰ったエルナも居るかもしれないし」


「あ、しまった!? そのこと忘れてた! いやぁこりゃ行くしかないぜ、コウタ!」


「え? そ、そうだね」


 そういえば、エルナもとっとと終わった僕等と同じく、教室を出て行ってたな。


 すぐに勉強へと、余った有意義な時間を有効に使おうという姿勢が見えて、魔法士になるために皆頑張ってるんだなーと他人事のように思ったが、今は当事者だし、何倍も魔法の事を勉強しなければ元の世界には戻れない。


 そう考えると大変だ。僕も、一緒に自主練習に付き合わなければ。


「いまだと、第三実技室以外の実技室棟は、別のクラスが使っているな。だが、自主練習室は空いているぞ……と、今なら、大丈夫だな。先に行く」


 と、エイタは移動魔法を唱え、忽然と姿を消してしまった。


「いやぁー、なんていうか、エイタってすげぇ即断即決だよなー」


 ソウイチは、少し呆れ気味でエイタが居た場所を見ている。


「確かに。普段もあんな感じで皆、大変そうだなぁ……」


「……え? 一番苦労してんの、コウタじゃね?」


 しまった。僕の言葉に、ソウイチは首を傾げている。


 しかし、ソウイチは小首を傾げただけで、特に気にした様子が無いようだ。


「まぁいいや。早く行こうぜ」


 ソウイチは、一言告げ立ち上がり、実技室棟へと歩き出した。


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