第二章『襲撃』‐真実を知る者‐
第7話★強襲、少女は突然やってくる
来た道を戻り、商業区へ移動したテレポータルへ入る。
「今度は、居住区・学生寮って言ってね」
「うん、わかった」
「じゃ、先に行くからね!」
ワカナはそう言うとテレポータルへと入り、そして姿が消える。
これから向かう学生寮はどんな建物なのだろうか。この学園では寮生活をしているみたいだし、年甲斐もなくわくわくしてしまう。これまで見た事もない建物を見たこともあって、心ウキウキな気持ちのままテレポータルへと入った。
「居住区・学生寮」と言うと、全身が眩い光に包まれてやはり目を瞑る。一瞬、体が宙に浮いたような感覚がしてそれもすぐに消える。目を開けてテレポータルを出た。
すぐに、最初に目に飛び込んできたのは奇妙な形をした大木の数々で、思わず面食らう。
「うわぁ、な、なにあれ?」
驚いた声を上げながら、目の間にある奇妙な形の大木を凝視した。しかし、奇妙とは言ったものの、よくよく見ると木は枝分かれしており、器用なものでどこかアーチ状を形成している事に気が付いた。
そして、その大木に沿うように苔むした石垣が奥まで整然と続いており、その道の先には神聖な建物ががあるのではないかと思ってしまう程に幻想的だった。
その視線の先にはワカナが居て、驚いた僕の顔を見ていたのか笑顔を浮かべている。
「あの大木、面白い形してるでしょ?なんでも、魔法でああいう形にしたんだってー」
「ほー、魔法で木の形も変えられるんだね。あんな形の木、見た事ないよ」
「え、そうなの? なんでも、校長先生の悪趣味が災いして学校もそうだけど、学生寮とかも変な装飾がされてるから驚くと思うよ!」
「そ、そうなんだ。それは楽しみだね」
校長先生へのちょっとした悪口を楽しそうに言っている。僕はけっこういい趣味していると思ったけど、ここはおとなしく頷きながらワカナの元へ向かう。
学生寮へと続く道には大木が生い茂っており、幾重にも重なった葉の隙間から陽光が差し込み道を明るく照らしている。
その明るさからか、どこか神秘的な雰囲気が感じられ、やはりこの先には学生寮では無く、神聖な建物があるんじゃないかと思ってしまう程だ。
「この場所以外にも、こういった不思議な場所ってあるの?」
「不思議な場所? んー、そうだねー。ここの居住区は、自然を一杯取り入れてる! っていう感じの場所が多いけど、ちょっと降りたところには、魔物が住む森もあるんだよ」
「え、魔物が住む森?」
ふと疑問に思ったことを尋ねてみたが、魔物が住むもりとはそれは危険な森ではないか? 魔物と言えば、人に対して敵対心がある印象があるし、相容れぬ存在という認識もある。
それと同時に、ちょっと降りたところという言葉も気になったが、ワカナが続けてしゃべる。
「そうそう、魔物がいっぱいいる森。それで、魔物が住む場所には不思議な場所が多いってよく聞くよ! あっそれと、魔物は比較的穏やかで人を襲う事は滅多にないから、そこは安心してね!」
「そ、それは、人を襲う種類もいるってことなんだね?」
「大丈夫だよっ! 魔法が使えるから対したことないよ、多分!」
「多分って!? それはちょっと怖いな……」
「大丈夫、大丈夫! いざとなったら逃げればいいし!」
ワカナはそう言うが、実際に魔物を見た事もないからビビって魔法を使うどころでは無い気がする。
普通に生活している中で、魔物が出て来ませんようにと祈りながら歩いていると、急に開けた場所に出た。
思わず足を止めてしまう。目の前には商業区から見えた立派な建物が屹立している。
どうやら学生寮のようだが、どうもそうは見えない。
「で、でっけぇー……」
近くで見ると想像していた寮というよりは、老舗旅館の様な外装だった。
しかし、その規模に思わず目を見張ってしまう。いったい何人の生徒がいるんだと思う程の大きさだ。ぱっと見だけでは判断できない。
これが寮なのだから、計り知れない財力を感じる。恐るべし、魔法学園。
「でっかいよねー。なんでも、校長先生が無理言って、この建物を買い取って寮にしたんだって!」
「え、それ、ほんと?」
「んー、ホントなんじゃないかなー。事あるごとに自慢してるし」
「そ、そうなんだ。校長先生もやることのスケールが大きいね……」
まるで校長先生の懐絶好調! なんていう言葉は胸にしまい、観光名所を訪れている様な感覚で寮を見つめる。
ここが、これから住む場所になるのか。何だか変な感じがして慣れるか心配な部分が大きい。
「さ、早く部屋に行こうっ!」
「う、うん。そういえば僕の部屋って何階にあるのかな?」
「コウタ君の部屋は10階だよ。まぁ、まずは我が家に来なよ!」
ワカナは元気よく親指を立てて言うと、学生寮の入り口へと向かった。
え、ちょっと待ってほしいのだが、今ワカナは自分の部屋に来いと言ったのか? 魔法世界の女子の部屋、しかも猫人屈指の美少女ともいえるワカナの部屋。これはぜひとも行くしかない。そう思いながら後に続く。
学生寮の入り口はこれはまた大きな扉だった。巨人専用と言われても納得がいくスケールだ。
その大きな扉が開かれた状態になっていて、中に入るとそこはエントランスのような場所になっていた。やはりというべきか、この内装は学園と趣が似ている。
赤を基調とした石が壁一面を覆っていて、これもまた「おぉ」と、ため息が出てしまう程、なんとまぁ立派なものだ。
「これは、素晴らしきかな」
「コウタ君も段々と見慣れて来る――って、うわぁ!?」
「どうしたのって、え? なにこれ、どうなってるの?」
ワカナの驚いた声が聞こえ、見上げていた視線を戻した。
エントランスの向こう側、ちょっとした広場のような場所が見えるのだが、そこには無数の生徒でひしめきあっており、見るからに普通の状況ではない。
ガヤガヤと喧騒が聞こえる。まさかのトラブルに遭遇かと冷や汗を流していると、
「テレポータルがさ、止まってるみたいなんだよ」
ワカナでは無く、男性の声。
急に声を掛けて来たのは、前から歩いて来る頭に翼が生えている
「え、そうなの? えー、困ったなー」
「なー。どうやって部屋に戻ればいいんだろうなぁ……。これから用あるってのに」
どうやらその翼人の生徒とワカナは知り合いのようだった。ちなみに見た事はない。
翼人の彼はそう言うと、これからどうするかなーと呟きながら、僕らに別れの挨拶を告げて外へと足を向けていた。
その後姿を見送り視線を戻すと、うーんと唸りながら悩んでいるワカナの横顔が見える。
「えっと、ワカナどうする? 何だかすぐにはどうにもならない感じするけど……僕らも外へ出て少し待ってみる?」
「んー……それはちょっと困るっていうか、何というか……」
どこか困惑した様子のワカナは、歯切れが悪い返事を返す。そして、所在なさげに生徒の群れを見守っている。
ちょっと過剰な反応だと思うが、目の前の状況ではそう思ってしまっても仕方がないだろう。
とにかく目の前は生徒の喧騒で包まており、警備員っぽい人が困った様子で対応をしているのも見え、混乱した様子が伝わってくる。
「やっぱり、この様子だとしばらくは部屋に戻れそうもないよ?」
「うーん。そうだねー。んー、困ったなぁ……私達も外で待とうかぁ、はぁ困ったなぁ」
こんなにも悩むのが不思議だなと思ったが、もしかしたら僕を歓迎するために何かしらのサプライズを考えてくれていたのかもしれない。
そう思うと、深刻そうな様子にも納得が出来る。
何とも残念な気持ちになるが、目の前の状況は一向に変わる気配もないし、ワカナは諦めたように「外行こうかー……」と小さく呟く。その後に続き、また外へと出た。
さて、どこに向かおうかと聞く前に、いきなりワカナに手を掴まれる。
「あ、え? ちょっと!?」
まさかいきなり手を掴まれるとは思ってもなく、変な声が出てしまう。しかし、ワカナには僕の声など聞こえていないのか強引に手を引っ張られる。
なすすべもなく――というかあまりの力に何も出来ず――少し離れた広場のような場所に連れ込まれた。
辺りに人はいない。急に手を引っ張られたことに困惑するも、少し息が上がったワカナが口を開くのを待つ。
ふぅと深呼吸をつくと、バシッという音が聞こえて来そうなくらいの勢いで、ワカナは手を合わせてた。
「えっと、急にごめんね! あのー、えーっと……あっちにベンチがあるから、ちょっと待っててくれる……かな?」
「あ、うん。わかった――あ、ちょっと?」
「じゃ、すぐ戻るから!!」
しかし、僕が言い切る前に、ワカナは物凄い勢いで走り出してしまった。
あまりの勢いに困惑とした気持ちが先に現れ、続いて呆然した気持ちが沸々と湧いてきていた。
えっと、どういうこと? 急に連れられて、置いてかれた?
突然の事態に状況を飲み込めないまま、とりあえず後を追うかと走りかける。
しかし、ワカナの様子は普通じゃなかったし、後を追いかけるのも気が引けてしまう。
あ、もしかしたら、さっき考えたサプライズ的な何かなのかもしれない。
本当かどうかは聞いてみないとわからないが、もしそうだったら追いかけるはよくない。まぁすぐ戻ると言ってたし、ここはおとなしくこの広場で待つか。
とは思ったものの、一人で取り残されるのはめちゃくちゃ心細い。周りに生徒は一人もいないし、更に不安な気持ちが強くなる。
とりあえずベンチに腰を下ろそう。考えるのはそれからだ。
そう思い目の前のベンチに座ると、急に体中の力が抜けてしまった。
そういえば、この世界に来てからというもの、目まぐるしくいろいろな出来事に巻き込まれ、あまり状況を整理する間もなく今に至ることに今更ながら気が付く。
こうしてベンチに座っていると、すべてが嘘の様で、実在してないかのような感覚に陥りそうになる。
しかし、今まで巡って来た場所は、どう考えても自分が生活していた場所ではない。目の前の光景もそうだ。見たことは全く無い。
魔法を使えた事もそうだが、ほんとうに入れ替わってしまっんだと、半ば呆然としてしまう。
しかも、入れ替わってしまった理由はわからないが、原因らしいことは先程の会話で出ていた。しかし、エイタ達が言うには、それが事実じゃないとも言っていたし、結局のところ何もわからないということだけがわかっていること。
そう思うと大きなため息が出てしまい、頭を抱えた。これから何をすべきなのだろうか。
いっそのこと戻ることは諦めて、日ノ本コウタとして第二の人生を歩むことにするのが良いのだろうか。
それとも戻ることを諦めず、この世界で入れ替わってしまった原因を調べるのが良いのだろうか。
――まったく、わからない。
考えたところで、答えなど出る訳がなく、代わりに大きなため息がまた出る。
一旦、考えるのはよそう。ワカナが戻ってくるまでボーっとするか。
そう思い顔を上げた。目の前には見知らぬ蒼髪の女の子が立っている。
「……え?」
頭が真っ白になる。しかも、何故か魔法を唱えようと準備をしていた。
「だ、だれッ――」
しかし、何かが喉に詰まったのか、途端に声が出なくなった。
咳き込もうとするも息が出せず、目の前の少女に身振り手振りで助けを求めてみるがまったくの無視。
嘘でしょと思ったが、目の前にいるこの子が声を出さなくなる魔法を唱えたと、彼女の瞳を見て理解した。
やばい、何かされる。逃げなければ。いや、魔法を使って撃退するしか……魔法を知らない。
一気に恐怖が全身を駆け巡り、とりあえず逃げようそう思ったその時、
「――発見しました」
目の前に立っている、少女が静かに呟いた。
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