第6話★転送、心躍る商業区その2

 次に目を開けると、そこは先ほどの学園が横に見えたテレポータルではなく、人が行きかうのが見えるテレポータルにいた。


「うわ、ほんとに移動したのか……」

 

 体を見回し、どうやら無事に三番街にある商業区に移動が出来たようで、ホッと一息をつく。

 

 どういう原理かはわからないが、眩い光に包まれたと思い目を閉じしばらく経ってから開けると、別の景色が広がっていた。これが、いわゆる瞬間移動というものなのだろう。

 

 あの眩しささえ気にならなければ、一瞬で目的地に移動できる便利さに感激する。


「ってか、すごい人の量だな……」

 

 テレポータルから出ると、商店街という名前通り、思わず目を疑うほどの人の量だった。


 翼の生えた人、猫耳が生えた人、中には上半身が黄金色に輝く人もいる。様々な人が行きかっているが、それよりも目を引くのが服装だった。


 ちなみに僕達が着ている制服は、足元まで届く長いローブを身に纏っている。ローブの下の服には紋章が縫い付けられていた。


 どうやら、学年によって紋章が違うのか、学園で6種類くらいの紋章を見かけた。この制服には鷲のような鳥のワッペンが縫い付けられている。


 辺りを歩いている人も見たこと無い多種多様な格好をしている。ローブはもちろんのこと甲冑や、かなりカジュアルな服装など、ファッションショーにでも迷い込んだのではないかと思う程だ。


 眼から入ってくる新しい情報が、心を躍らせている。本当に別の世界に来たんだと実感させてくれる、何とも気持ちの良い昂揚感だ。


「コウタくーん! こっちこっち!」

 

 と、視線の先でワカナが手を振っているのが見えた。人ごみをかき分けて、彼女の場所に向かう。


「ごめんごめん。待たせた?」

「そんなに待ってないよ! それよりも、どう? ここは、商業区って言われるところなんだけど、どんな感じかな?」

「そうだね――」

 

 目の前に広がるのは、様々な施設だ。


 魔法の世界らしく、魔法に必要な煌魔石を売っているお店や、武器や装備を取り扱っているお店、書物が並ぶ本屋のようなお店、そしてドラゴン乗り放題というものまである。


 言葉で言い表せないほどに、新しいもので埋め尽くされていて、それを眺めているだけでお腹がいっぱいになりそうな光景だった。


「言葉では言い表せないよ。とにかく、いろいろあってすごいよ」

「そうでしょそうでしょ! すごいよね!」

 

 感嘆する僕の様子を見て、ワカナは嬉しそうに頬を緩め少し興奮した様子だ。


「いや、もう半端じゃないよ!」

「あぁ、よかったー! 変に期待させといて、期待外れって言われるかもって、心配してたぁー……」

 

 ワカナはホッと胸をなでおろしながら、笑顔で言う。


「え? それは、なんか申し訳ないのかな?」

「なんでコウタ君が謝ってるの?」

「あ、それもそうか」

 

 僕達は互いを見つめると、何かが面白かったのか楽しい笑い声を響かせた。


「じゃ、最初はこの煌魔石が売ってるお店、見ようか?」


 ワカナはここからすぐにあるお店を指さした。


 そのお店は、レンガ造りの古めかしさが漂うお店だ。


 ワカナに続いて入店すると、つばの広い帽子を被った店員が挨拶をしてくれ、その恰好は魔法使いを彷彿とさせ一気にテンションが上がる。


 店内には、いくつもの棚が店の中を埋め尽くしていた。小さい箱に入った煌魔石が陳列されていて、かなりの種類がある。


「そういえば、いまのコウタ君の、先天アネイト魔霧ミストはなんなのかなー?」

「そうそう、それ。ずっと気になってた。先天アネイト魔霧ミストってなに?」

 

 それを聞いたワカナは少し驚いたように目を細めた。


 驚いたという事は、それくらいは知っているものだと思っていたということで、何だか申し訳ない気持ちになる。


「えっとね、簡単に言うと、生まれた時から自分に備わっている魔法の得意系統のことだよ」


 ワカナが言うには、人それぞれに生まれながら得意とする魔法の系統があり、彼女は水系の魔法、エイタは火系の魔法が得意とのことだった。


 魔法政府が定式化した魔法を、用途によって七つに分け、それを色付けして区分しているという。


 先天魔霧というのは、その七つに分けられた魔法の特異系統を示し、自分に合った煌魔石を選ぶ基準にもなるそうだ。


 どうやら転生の影響で、それが解析魔法で変わっているのを先程ワカナによって言われたことを思い出す。


 前に使っていた煌魔石でも魔法を唱えることが出来るが、自分に合ったものではないと違和感として残り、結果としてイメージ通りの魔法が唱えられないとのことだ。


「煌魔石ってけっこう重要なんだね」

「もちろん! 煌魔石を持ってないと、いろいろと罰則を受ることもあって、最悪の場合は退学処分になるんだよ……」

「そ、そんなんになんだ。それならちゃんと選ばないとね」


 煌魔石を手に取りながら、どれが自分に合っているのか見て回る。


 煌魔石のペンダント類を装備していることは一種のステータスでもあり、社会的価値が非常に高いと、見て回りながら熱のこもった説明を受けた。


 数十分見て回り、何とか見つけた煌魔石は白色に輝いていて、ワカナは珍しい「系統だよ!」とかなり驚いていた。


「じゃ、煌魔石も買ったことだし――っあ!」


 会計を済ませお店の外に出た途端、ワカナは何かを思い出したように急に声を上げた。


「ん、なに? どうしたの?」

「……コウタ君、そういえば住んでる場所言ってなかったね」

「……あ」


 そんなに驚くようなことかと一瞬思ったが、そういえば僕には妹が居た。厳密に言うと赤の他人だが、他人ではない。更にはコウタの両親もいる。つまり、心は見も知らず、体は見知った関係の家族と生活をしなければならない。


「今は皆、学園の寮で生活してるよ。もしかして、ご両親と住む思った?」


 そこまで考え、コウタの両親にどう挨拶しようか悩んでいると、ワカナがその様子に気が付いたのかすぐにそう言った。


「そう思ってしまいました。寮か、ちょっと安心したよ……」


 その言葉を聞いて、ホッと胸をなで下ろした。


 いや、まさかそんな事は思ってないよと言おうと思ったが、小悪魔的なワカナの表情を見てしまったら、嘘なんてつけなくなってしまった。


 それにしても、学園『コウ』が全寮制でよかった。コウタのご両親と生活なんて、ちょっと出来そうもない。


「その寮は、この商業区の隣にあるんだけどね。ほら、ちょうどあそこの建物の奥に見えるでしょ?」


 そう指さす先には、所狭しと言った感じで建物がひしめきあっている。


「す、すごいなぁ……あれ、全部住むとこなの?」

「そうだよー。それとね、寮以外の建物は、最近人が住んでなくて過疎化が進んでるんだ」

「ふーん、そうなんだ。……まさか、魔障病が関係しているとか?」

「そうそう、その通り!」


 パァッと花びらが開いたかのような笑顔で、手を目の前で組んだ姿はとてもまぶしい。


「魔障病の関係で、人口は激減! みんな、隣の浮遊都市に引っ越しちゃったんだ」

 

 思っていた以上に、魔障病が魔法世界で問題になっているかがわかった。


 しかし、人口が激減といっても、商業区には割と人が居るように見える。


「へぇ、こんな人がいるのに?」

「これでも、少ない方なんだよー。昔は、もっと人がいっぱいだったんだ」


 そういうワカナの横顔はどこか寂しそうだった。


 これ以上に賑わっていたと思うと、相当の人がこの浮遊都市に居たのだろう。魔障病が起きる前は、かなりの人でごった返していたに違いない。


「半減ってことはお店の経営とか大変じゃないのかな? お店とか潰れちゃいそうな気がするけど」

「ここらへんのお店は、ほとんどが政府の管轄になったから、相当のことがないと潰れないの。――そういえば、お腹すいたでしょ?」


 ワカナの説明の際中にもかかわらず、グーっという音が鳴ったのを聞いて、思わず顔が赤くなる。


 いろいろあったせいかお腹が相当空いている事に、今更ながら気が付いた。


「うん、何だかめっちゃお腹空いたよ」

「それじゃ早速、寮に行こうっ!」


 ワカナは声高らかに言うと、テレポータルへと足を向ける。正直、もう少し見て回りたかったが、意識はこの世界での食事の方に興味が向いていた。お腹空いていたし、仕方ない。


 また今度回れるだろうと思い、ワカナの後に続いた。

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