第4話★説明、魔法世界についてその2
エイタがそういった瞬間、あたりの空気が急に緊張したのを感じた。
ワカナの方を向くと、今までとは違い、かなり緊張した面持ちでいる。それを見て自然と気持ちが切り替わった。
「『魔法行使障害病』は、魔法を使う者達に発生する病気だ。皆は、魔障病と呼んでいる。これに罹るとその名の通り、魔法が使えなくなる。更には、著しく
想像していた以上に、やばい病気だった。
魔法を使える者に罹るっていう事は、僕も含まれるし、ここにいる全員が含まれる。
しかも、その病名からして、魔法が使えなくなってしまうという、この世界に存在する力を否定する恐ろしい病気ではないか。
「そ、そうなんだ? それって、この浮遊都市全部で流行ってる感じ?」
「いや、ここだけだ」
「こ、ここだけなんだ?」
「そうだ」
全浮遊都市で流行っている訳ではなく少し安堵感を覚えた。しかし、ピンポイントで第三浮遊都市だけで流行っているというのは、安堵している場合ではない。
「その……流行ってしまった原因とかは?」
「残念ながら、不明だ」
エイタはきっぱりと首を横に振った。ワカナの方にも目を向けるが、彼女も同じようにして首を横に振った。
理由もわからず、しかもこの第三浮遊都市だけで蔓延しているなんて、たまったもんじゃないだろう。その病気には罹りたくないものだが……。
というか、魔障病の話題を出した理由ってなんだろう。
死に至るから気を付けろよ、というだけではなさそうだ。
「それで、その魔障病がどうしたっていうの?」
「……お前の妹が、それに罹っている」
「……妹がね――っえ、妹!?」
あれ、僕に妹なんていたっけ?
「そうだ。日ノ本コウタには妹がいる」
あぁ、なるほど。僕では無く、日ノ本コウタの方に妹がいるという事か、ビックリした。
ビックリしたはいいが、日ノ本コウタと仲が良い二人にとって、彼の妹がそのヤバい病気に罹っているとなると複雑な思いなのだろうか。
「ということは、妹が魔障病に罹っているから気を付けろ、ということなのかな?」
「いや、それも理由の一つだが、そうではない」
エイタはそこで言葉を区切った。
何の間だろう。エイタは、ワカナに目配せをする。彼女は、少し迷った後、静かに頷いた。
その様子から、何やら重大な理由が他にあると察する。段々と、二人を纏う空気が非常に重苦しくなっている。
「実はな……。これは噂話だが……。魔障病が転生に関わっている、らしい」
一瞬、エイタの言ったことが理解できなかった。
『魔障病が転生に関わっている』。エイタの言葉が脳内で反芻し、ようやく言葉の意味を理解する。
「う、嘘でしょ? 病気が転生に関わっているって……それ、ホントなの?」
「あくまで噂だ。それが原因だとも言えない」
しかし、僕の問いかけにどこか歯切れの悪い様子で視線を泳がすと、エイタはあっさりと一縷の望みを打ち砕いてしまった。
「そ、そうなんだ。話の流れからして、そうだと思ったんだけど……」
「いや、すまない。俺達にも分らないことだらけなんだ。ただ、タイミング的にもだが、魔障病が怪しいと思ったのは間違いではないと思っている」
「タイミング? それってどういうこと?」
「詳しくはこれを見てほしい」
エイタはそういうと、制服のポケットからボロボロになった手帳を取り出した。今にもページが剥げそうで、慎重に受け取る。
「こ、これは?」
「前のコウタが残したメモだ」
「前のコウタが?」
数ページ程開くと、さらに折りたたまれた紙が挟まっていた。それを開くと、そこには何やら文字が書かれていたが、見た事もない言語で読む事が出来ない。
「どうだ? 理解できたか?」
「……えっと、なにこれ? なんて書いてあるの?」
「は? 何を言っている。共通語で書かれた『タストワ文字』で書かれて――まさか、読めないのか?」
「う、うん。一言も」
それを聞いたエイタは、考え込むように視線を落とし、代わりにワカナが驚いた様子で手帳を覗き込んだ。
「コ、コウタ君? ホントに読めないの?」
「よ、読めない」
「う、嘘だよね? え、だって、言葉は通じてるよ?」
ワカナの一言でハッとなった。確かに、言葉は通じている。ならなぜこの世界の文字は読めないのか。いったいどうなっているのか、ますます混乱していき、どうにかなりそうになる。
「とにかく、理由はわからないが、まぁいい。俺が代わりに読む」
「あ、うん。お願い」
「……『魔法行使障害病』。それは、『転生』するために必要な者を呼ぶためのもの。以上だ」
「そ、それだけ?」
「それだけだ。そして、ここにある『転生』というのは、おそらく魂の入れ替わるに関係していると、今のお前を見て理解した」
にわかには信じがたい。魂が入れ替わる前の、エイタが言うには転生前のコウタが残したメモ。そこに書かれていることが事実なら、魔障病が転生した原因になる。
しかし、たった一言で、この世界で謎とされている魔障病が転生の原因だと書かれていたとしても、突拍子もない考えだが、その突拍子もない考えを目の前の二人は信じている様に見える。
エイタは静かに、ワカナは相変わらず緊張した面持ちで僕の様子を伺っている。そして、そこには心配と優しさ、それ以上のものが込められていると、ふと感じた。
二人から、どれだけコウタが信頼され、慕われていたかを感じ取る。そんな二人が信じるコウタの言葉を、今は本人である僕が信じないでどうする。
僕は、静かに目を閉じると、深く深呼吸をした。そして再び目を開く。
「何にせよ、その意味を探っていくことで、僕が入れ替わってしまった原因がわかるんだね?」
「そういうことだ。話しは少し戻るが、実は本当に転生したとなると少々問題がある」
「え? そ、それはいったい?」
そういえばエイタがさっき「一般的な事しか知らない」ということを言っていたのを思い出した。
「それは、転生者には先を見通す力があるという言い伝えだ」
「先を見通す力? え、ほ、本当?」
先を見通すという事は、未来が見えるという事なのか。それは確かに、事実なら他の人に知れ渡ったら何をされるかわかったものではない。
「そうだ。未来予知、というのか? いや、なに。これは言い伝えの一つだから、あまり信じるなよ」
エイタは、僕の不審そうな態度を見かねてか、最後にそう付け加えた。
「未来が見える、ね……。それって、どうやって見れるの?」
「さぁな」
「そ、そりゃわからないよね。確かに、それが本当なら、先を見通す力を狙う人がいてもおかしくないね」
「まぁ、そういうことだ。あぁ、先に言っておくが、俺達にはそんな気はないぞ?」
「もっちろん! 未来なんて見れないほうがいいでしょ!」
二人の口調には、本当にそんなことはしないという覚悟のようなものが見えた。
まだ出会って日が浅いが、日ノ本コウタを思う気持ちがひしひし伝わってきて、何だか目頭が熱くなっていく感じがする。
「そういえば、転生前のコウタの様子はかなり変だったな。それは、ワカナちゃんも感じていただろう?」
「うんうん。あっ、それなら魔障病の事を知って様子が変だった、って言われれば、妙に納得できるような?」
「え、それって、コウタの妹が魔障病に罹ったから、原因を調べていくうちに魔障病の真実を知ってしまったって、ことなのかな?
「……ほう。それは、面白い考えだな」
すると、エイタは何かに閃いた様子で、僕の適当に言ってしまった言葉に深く頷いてしまった。
「えっと、あまり深く考えて言ったわけではないんだけど?」
「いや、前のコウタはかなり妹思いだったから、その行動に出てたことは間違いないかもな。……なるほど、魔障病が転生の原因。それで、あいつはおかしな行動をしていたのか……」
エイタはどこか嬉しそうな様子で、ぶつぶつ独り言を言いながら腕を組み、なぜか黙考を始めてしまった。
「とりあえず、エイタ君はほっといて」
「う、うん。一度考え出すと、自分の世界に入っちゃう感じなんだね……」
「そうなのー。いっつも、ぺらぺら喋るくせに、突然こうやってぶつぶつ独り言喋って。よくわかんないね――じゃなくて!」
ワカナはそこで一区切りし、僕に近づいてそっと耳打ちをした。ちょっと、近いですよ?
めっちゃいい香りがするし、こんなにも近くにこられたら気恥ずかしさのあまり躍りそうになる。その前に、
「コウタ君は、どうしたい?」
チラリと見えたワカナの表情は、小悪魔的に笑っていた。何か変な事を企んでいるように感じたが、そんな事はどうでもよくなってしまう。耳元で囁かれてしまったから、その表情の事は忘れてしまおう。
ワカナの問いに一つ心の中で深呼吸をし、自分の心に問いかけた。
――どうしたい?
そりゃ、元の世界に戻りたい。
だけどそれ以上に、魔法を使ってこの魔法世界の事について知りたいという、転生した時には無かった気持ちがあることに気づいた。
その気持ちが生まれたのも、こうしてワカナやエイタと喋ったからか? それとも、魔法を使ったから? もっと他の理由が?
何にせよ、夢にまで見た魔法が使えるんだ。
「僕は……元の世界に戻る方法がよくわからないなら、それを調べるしかない。それよりも、もっと魔法のことやこの世界について知りたい……かな」
僅かな時間で考えた答えを聞いたワカナは、僕の問いかけに満足したのか笑顔で頷くと耳元から離れてしまった。やらかした。もう少し考えるべきだったか?
「なら、魔法やこの世界のことを俺が教えてやろう」
すると、今までぶつぶつ独り言を喋っていたエイタが急に決め顔で話し掛けて来た。っていうか、聞いていたのか。
「私達、でしょ! じゃ、改めてよろしくね! コウタ君!!」
そういいながらワカナは、右こぶしを出してくる。一瞬ためらったが、それに合わせるよう右こぶしを出した。そして、エイタも続けて右こぶしを出してくる。
手が触れあった瞬間、顔を上げる。そこには僕を見つめる二人の笑顔があった。
――こうして、僕が転生した理由を知るため、僕達はこうして最初の一歩を踏み出した。
――信実を知る日。その日が来るまで、もう間もなくだ。
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