第10話

「猿の子と会うのは随分と久方ぶりのことだ」


 アリルを背に負って、犬顔は巨樹の枝を渡っていく。

 広い背中は心地よい。

 アリルの腹の傷に気を使っているのか、激しい動きはしなかった。


「猿の子?」

「ああいや、すまぬ。これはそなたらにとっては蔑称だったな」


 何故猿の子と言われると蔑称になるのか、アリルには理解できない。

 深い理由があるのかもしれないが、今は考える余裕はなかった。

 血を失い過ぎたのか、視界が狭い。

 アリルが返事をしないことを、犬顔は機嫌を悪くしたととらえたようだ。


「許せ、失言であったよ。何せ、本当に久方ぶりなのだ。最後にそなたらの仲間と会ったのは、私がまだころころと可愛い仔の時分であったからな。失礼があっても許して欲しい」


 犬顔の尻尾が、力なく垂れている。

 人が仮面を被っているのではなく、そういう種族なのだ。

 犬顔は自分たちのことを“狗”だと名乗った。


 犬の顔をした魔物の噂は、アリルも聞いたことがある。

 遠くからこちらを見守るように眺めていたり、時には助けてくれるようなそぶりを見せたりすることもあるという。

 魔物ではない、という話もあったが、実際に会ってみるまではアリルも魔物の一種だと思い込んでいた。


「助けたのは気紛れだが、理由がないではないのだ」

「理由ですか?」

「うむ。そなたからは我らの祖の匂いがする」


 ラヴリドのことだ。

 アリルには直感で分かった。

 彼らは、犬を自分たちの祖として崇めているのだろう。


「はい。ラヴリドって言うんです。オレの相棒です」

「アイボウ、か。そういう言葉は知らぬが、主であるとかそういう種類の言葉なのだろうな」

「ああいや、主じゃなく、友達とか、仲間とか、そういう意味です」


 友達、というアリルの言葉を聞いて狗は一瞬、立ち止まった。

 うぅと小さく唸りを漏らし、また走りはじめる。

 狗の身体能力は、人間とは懸け離れていた。

 枝と枝に距離があっても、少しくらいの幅なら飛んで渡る。

 それでいて、背中のアリルには衝撃がほとんど伝わらないのだ。


「これからそなたを郷へ連れていく」


 本当は人の子のよく通る道へ置いていこうと思っていたのだが、気が変わったという。

 祖のアイボウとガビダンに食わせたとあっては、末代までの恥なのだそうだ。


 走り、跳び、また走る。

 途中で琥珀漿精じゅえきスライムの群体と出会うが、見向きもしない。

 逃げるのではなく、相手にしていないのだ。


 遥か眼下の枝を、冒険者たちが四苦八苦しながら通っているのが見えた。

 ここは〈順路〉よりも随分と高い位置のようだ。

 人の身では通ることさえできないであろう道を、狗は飛ぶように進む。


 巨樹の葉が風に揺れる。

 幹の周りには下からの強い風が吹いていた。

 狗によると、ガビダンはこの風を翼に受けて飛んでいるのだという。


 アリルを飽きさせないためだろうか。

 狗は取り留めのない話をアリルに語って聞かせる。


 六十四年に一度だけ実るという巨樹の果実の話。

 狗は智慧と分別のある種族だがある種の蟲を見ると抗いがたく嬲りたくなってしまうという話。

 玉葱という幻の食べ物の話。

 自分の名であるラッキーという名前の意味は“幸運に護られし者”だという話。

 ラヴリドのことを聞きたがるので、アリルもぽつぽつと話をする。


 ラッキーの逞しい背中の温かさを感じていると、緊張の糸が切れたらしい。

 これまで忘れていた腹の痛みがぶり返してきた。

 灼けた短刀を傷口に差し込まれているようだ。

 悟られないように息を殺していたが、ラッキーには隠し事はできない。


「脂汗が増えておるようだな。臭いで分かる。すまぬが、もう少しの辛抱だ」


 走りが早くなる。

 不思議な走り方だった。上体は微動だにせず、下半身だけが凄まじい速さで動いている。

 風景が後ろへ流れ去っていくのに、アリルの体は少しも揺さぶられることがない。


 アリルはまどろみの中へ落ちていった。




「……起きろ、起きろ、人の子よ」


 頬を優しくはたかれ、目を開ける。

 いつの間にか眠っていたらしい。

 不安げに覗き込むラッキーの顔が目の前にあった。


「良かった。出血がひどいから、もう目覚めぬのではないかと心配してしまったよ」


 そう言ってラッキーがほほ笑む。

 口角が上がると鋭い犬歯が覗くのは、犬の子孫を名乗るだけのことはあった。

 狗の表情は分かりにくいが、嬉しいと尻尾を振るのはラヴリドと一緒だ。


「ここが郷の入り口だ」

「これが、ですか?」


 てっきり“階段”があると思ったのだが、そこにあるのはただの沼だった。

 木の洞に溜まった水に、落ち葉まで浮いている。

 ただ、アリルの目にはどういう訳かうっすらと“階段”が重なって見えた。


「君たちが便利に使っている門よりもこちらの方が上等なのだ。【隠蔽】の魔法を常時発動させているから、人の子には単なる沼にしか見えぬのだよ」


 しかも、特定の条件を満たさねば門として作動しない。

 誤って入れば、別のところに放り出されるのだそうだ。

 もっとも、わざわざ沼のようになっているところに自分から身投げをする莫迦はそれほどいないがねとラッキーは苦笑する。


 ラッキーが何か唱えると、沼の横に小さな操作盤が浮き上がってきた。

 操作すると、沼に見えていたものがゆっくりと“階段”に姿を変える。

 これまでに通ってきたものと、色合いが違うようだ。

 一番似ているのは樹幹で封印されていた“階段”だろうか。

「郷に行けば簡単な血止めくらいはできるだろう。その後どうなるかは、そなたの体力と運次第だろうな」


 ラッキーは慰めを言わない。

 アリルの傷はそれだけ重い物だった。

 傷は内臓までは届いていないが、出血が酷すぎたのだ。

 ラッキーに言わせれば、今も意識を保っているのは奇蹟なのだという。


「【恢復かいふく】の魔法でもあれば、治るのかもしれぬがな」

「傷を治す魔法なんて存在しないんじゃないんですか?」


 この世界に傷や病を癒す魔法はないとされている。

 師である〈震え〉のヨーマンも、回復魔法は存在しないと言っていたはずだ。

 そんなものがあれば師は手の震えや妙な咳もとっくに治しているだろう。

〈右盾〉のバゾラの手も、元通りにするに違いない。


「【恢復】の魔法は存在するとも。使い手の数が少ないだけのことよ」


 そう言ってラッキーは自分の首の辺りをさっと撫でた。


「我々の父祖を奴隷の身分から解放した〈首輪斬り〉は【恢復】の魔法を使っていたそうな」

「〈首輪斬り〉?」


 聞き覚えのない言葉だ。その人に会えば、腹の傷は治るのだろうか。

 だが今は傷が痛くて何も考えられない。

 血を失って冷えた身体が小刻みに震えはじめた。


「さぁ、繋がったぞ」


 ラッキーの声が遠い。

 アリルの意識は再び深く沈んでいった。



   ■



 爪を噛もうとして、止めた。

 今でも時々こうして右手の爪を噛もうとしてしまう。

〈聖域〉にはバゾラの思った通り、アリルの姿はない。


 逃亡した〈狗使い〉の追撃に向かったまま帰って来ていないと報告する部下を下がらせる。

 部下が無能なのではない。

 全ては運と巡り合わせだ。

 アリルは抜け目のない〈狗使い〉だが、まんまと逃げだせたのは奴の能力だけではない。


 努力は運を引き寄せる。

 アリルを追う前に、バゾラはその努力の一端でも垣間見たいと考えていた。

 狩りは、獲物のことをよく知らねば上手くいかないものだ。


「お呼びかな、バゾラ」


 屋敷にのそりと入って来たのは〈震え〉のヨーマンだ。

 優れた魔術師であり、この〈聖域〉で唯一の薬師でもある。

 バゾラにとっては頼りになるが、同時に頼り過ぎたくもない相手だ。

 アリルに何か入れ知恵をしたのなら、十中八九この老魔術師だろうとバゾラは踏んでいる。


「お呼び立てすみませんね、ヨーマンさん」

「右腕がまだ痛むというなら儂にはどうしようもないよ。ありもしない腕の痛みを鎮める薬は、今の儂には創れそうもない」


 そう言いながらヨーマンは小包をバゾラにそっと寄越した。

 例も言わずにバゾラは受け取り、代わりに小ぶりな革袋を渡す。

 中身は金貨だ。


「ああいえ、そのことではないのです。少々お伺いしたいことがありまして」


〈蒼き鷹〉での序列で言えば、ヨーマンはバゾラの部下ではない。

 あくまでも与力としての立場で協力してくれている。

 バゾラは自分の方針に口を挟まれることがあまり好きではないから、相談はもっっぱら幻肢痛ファントムペインに関することが多かった。


「お伺いしたいのは、アリルのことです」

「アリルか。あの赤目の〈狗使い〉がどうかしたか?」

「……逃げ出したのです」


 ほう、とヨーマンが嘆息する。

 その表情はバゾラには読めない。

 困っているようにも見えるし、事態を楽しんでいるようにも見える。


「何かご存知ではありませんか?」

「さてな。聡い子ではあったが、少年は少年。今頃どこかで野垂れ死んでいるのではないか」

「それでは確認する術がありません」

「まさか〈覇帝の霊廟〉から生きて出られるはずもあるまい」

「万が一、ということもあります」


 心配性だな、と笑うヨーマンをバゾラは丁重に送り出した。

 この老人は何も話すつもりがない。

 脱出の計画を掴んでいたとしても、掴んでいなかったとしても、だ。


 以前からヨーマンは〈狗使い〉の扱いについて異議を唱えていた。

 バゾラが厳しく管理していた〈狗使い〉が一人でも地上へ逃げれば、表向きはどうあれ内心では快哉を叫ぶだろう。

 それが自分の弟子であれば、なおさらだ。


 爪を噛もうとして、止めた。

 腹立たしいことがある時はいつも、右腕が痛む。

 すでに失って十年にもなる右腕に苦しめられ続けるのは、何かの呪いなのだろうか。


 ヨーマンの持ってきた小包を片手で破り開け、乱暴に煙管に詰める。

 慣れているはずなのだが、苛立っていると火を点けるのに手間取った。

 片手であることがもどかしく思うのはこういう時だ。


 乾燥させたハーシュルの葉の甘い香りが立ち上る。

 痛みが和らぐわけではない。どうでも良くなるのだ。

 バゾラは仕事中にはハーシュルを嗜まないことを自分に課しているが、幻肢痛がひどい時だけは別だった。


 ハーシュルは甘美だ。

 煙を口の中で遊ばせていると、幸せに包まれているような気分になった。

 小指の先ほどのハーシュルのためにインゾリグのならず者は平気で人を殺す。

 これが人生を破滅へ導く味だということを、バゾラは誰よりもよく知っていた。


〈右盾〉のバゾラと言えば帝国でも名うての傭兵聯隊長だった。

 帝国諸侯は自前での兵力をほとんど持たない。

 紛争に巻き込まれたり、帝室からの招集がかかったりすれば傭兵を雇い入れることになる。

 そういう時、バゾラのような傭兵聯隊長にお呼びがかかるのだ。


 諸侯の発行した聯隊結成許可状を元に、近隣の村々から農家の次男坊三男坊を掻き集める。

 中核にいる古参兵さえしっかりしていれば、あとはどうにでもなる。

 槍を担いでまっすぐ歩く。それだけできれば上等だ。

 諸侯との契約には兵士の数は書いてあるが、強さなんて誰にも分かりはしない。


 バゾラは兵を集め、組織するのが上手かった。

 戦闘で兵が欠けても、すぐに補いを付ける。もちろん、戦闘も強い。

〈右盾〉の名を出せば、どんな諸侯でも喜んで雇い入れてくれた。


 幾つもの死地を渡り、どこでもそこそこの武功を立てる。

 生き残ることにかけて、バゾラは別格の運を持っていた。

 そのことについては占い師の保証付きだ。


「お前は傭兵にも冒険者にも魔物にも猛獣にも女にさえも決して殺されない」


 その言葉は今までバゾラを守って来たし、これからも守り続けるだろう。

 バゾラは生き残り、富と名声を得た。

 風向きが変わったのは、帝都でハーシュルが禁止されてからだった。


 傭兵はハーシュルを好む。バゾラもその例に漏れない。

 命のやり取りをする人間が刺激の強い嗜好品に溺れるのは、魚が水を求めるように当然のことだ。 

 禁止の理由はこの麻薬を吸った傭兵が皇族の庶流に連なる女性に狼藉を働いたからだという。


 時の皇帝は烈火のごとく怒り狂い、ハーシュルを禁止した。

 吸引したる者、販売したる者は厳罰に処す。

 市場からは青臭いハーシュルの葉も、茎から採れる汁を煮固めた飴も姿を消した。


 それでもバゾラは吸い続ける。

 止められなくなっていたのだ。

 戦いに明け暮れる日々の苦しみを紛らわすために吸っていたはずが、次第にハーシュルを吸うための金を稼ぐために戦いに身を投じるようになっていた。

 ハーシュルを手に入れるためになら、危ない仕事も請け負うようになるまでにそれほど時間はかからなかったと記憶している。


「そして、あの一件に手を出したわけです」


 独り言ち、自嘲の笑みを浮かべた。

 煙を一吸いし、口の中で遊ばせてからゆっくりと吐き出す。

 人生には魔の差す瞬間がある。あれはまさに、そういうことだ。


 依頼されたのは、運び屋仕事だった。

 荷物は子供が一人。報酬は荷物と同じ重さのハーシュルだ。

 当たり前の頭なら、それがどれだけ危ない仕事か想像がついたはずだ。


 ハーシュルが吸いたくて吸いたくて吸いたくて堪らなかった。

 バゾラはティティリやリューリックに声をかけ、雨の帝都から少年を運び出したのだ。

 辺境まで運び、指定された場所で荷物を人に引き渡す。

 荷物は記憶を消してあるから問題ない。そういう話だったはずだ。


 先払いで半分貰ったハーシュルと一緒に、いくつもの関所を超えた。

 関所は入ってくるハーシュルには煩かったが、出る分には寛容だったのだ。

 辺境に入り、約束の場所でバゾラは待った。

 辛抱強く待ち続けたが、相手は来なかい。

 何か問題があったのだろう。ひと月待って、バゾラは諦めることにした。


 少年を奴隷商人に売り飛ばし、バゾラは帝都へ帰る。

 はじめの関所で、捕らえられた。

 関所は出ていくハーシュルには寛容だったが、入る分には煩かったのだ。


 裁判とも言えぬ速さで判決が下り、バゾラは罪人になった。

 課された罰は、利き手の切断。

 バゾラは咄嗟に右利きだと嘘をついた。

 以来、幻肢痛に悩まされ続けているというわけだ。


 煙を吐き、天井を仰ぐ。

 バゾラにとって、〈赤目〉は切り札だった。

 アリルというあの荷物がいったい誰の依頼で運ばれたのかは未だに分からないが、帝都の仄暗い部分と関わりがあることだけは間違いがない。


 いつか、帝都へ返り咲く。

 右手首と共に失った貴族籍を取り戻すのに、〈赤目〉のアリルは役に立つはずだった。

 だからこそあの時、自分の身柄を〈蒼き鷹〉に売ってまで奴隷商人からあの〈狗使い〉を買い戻したのだ。


 死なぬように、可能な限り配慮もしてきた。

 ヨーマンの弟子になるように仕向けたり、飯盛り女に命じて食事の量を多くさせたりもした。


 だが、事が露見するのも恐ろしい。

 アリルのことを活かしたいと思いつつ、約定を違えたという呵責もある。

 それにもし、アリルの記憶が戻ってしまえば。


「何としても、捕まえなければなりませんね」


 生かして捕らえることができぬのなら、せめて確実に息の根を止める。

 アリルを殺すことは、過去との決別だ。

 背反する自分の気持ちに区切りをつけるため、オルには殺せと命じたのではなかったか。


 バゾラは立ち上がり、号令をかける。

 目標は、アリル。

 動ける者は全力で出撃する。


 バゾラはありもしない右手を撫でてみた。

 過去さえ殺してしまえば、この痛みからも解放されるはずだ。きっと。



   ■



 死んだアリルの弔いは丁重にした。

 意味が分かっていないのか、ラヴリドは嬉しそうに尻尾を振っている。

 亡骸のない弔いだが、冒険者にはよくあることだった。


 樹冠に塩を盛り、九天の印を切る。

 アリルの魂が幽界に囚われず九天へ登れますように。

 はじめは念じるだけだった祈りはいつの間にか囁きとなって口から洩れ、いつしか詠唱となって樹幹に響き渡る。

 風が葉を揺らす音に、エナの朗々とした声明が混じった。


 頬を涙が伝う。

 一度の冒険で、二度も梯団を失った。

 偉大なる勇者、〈塩を持ち帰りし者ソルトブリンガー〉のようだ。


 自死を選ぼうというつもりは、エナの中から消え去っていた。

 何としても、地上へ帰る。

 エナがここで死んでしまえば、アリルのことを覚えている人はこの世界に一人もいなくなってしまう。


 ラヴリドと共に、地上を目指すのだ。

 苦しくとも耐え抜いて、無様でも逃げ延びて、足掻いて足掻いて地上へ辿り着く。

 そして、アリルの代わりに鷹を見よう。

 今のエナの目標は、それだけだった。


「行こう、ラヴリド」


 亡き仲間の相棒に声をかけ、二人分の荷物を背負う。

 家出をする時に持ち出した家伝の片手剣〈首輪斬り〉で、鎖を切り落とす。

 封鎖されている“階段”は、いったいどこへ繋がっているのだろうか。

 幽界へ直接繋がっている“階段”もこの世のどこかにはあるという。


 意を決し、エナは飛び込んだ。

 ラヴリドもそれに続く。

 いつもなら襲ってくる胃の浮き上がるような浮遊感はない。

 心地よさに包まれていると、視界がはっきりとして来た。


「……エナ?」


 目の前に、アリルがいる。

 訳もわからず、エナはアリルに抱き着いた。

 ああそうか。この“階段”は幽界に繋がっていたのだ。

 封鎖していたのは、幽界に繋がっていたからに違いない。


 二人とも、死んでしまった。

 魂は幽界に囚われてしまったとしても、再会することはできたのだ。

 ひょっとするとこの近くにはまだ〈守りの剣〉の仲間もいるかもしれない。


「アリル。ごめんね、ごめんね」

「エナ、何がどうしたのさ? 何を謝ってるの?」

「ごめん、アリル。私も死んじゃった。地上に出てアリルの代わりに鷹を見るつもりだったのに」


 胸に顔を埋めて泣きじゃくるエナを頭を撫でながら、アリルが呟いた。


「エナ、死んじゃったの?」

「えっ?」

「オレはまだ、生きてるんだけど?」

「えっ?」


 顔を上げるエナに、アリルが微笑みかける。

 二人の足元でラヴリドがふンと鼻を鳴らした。

 千切れるくらいに尻尾を振っているから、ラヴリドも嬉しいのだろう。


 エナはもう一度、アリルをぎゅっと抱きしめる。

 今はただ、再会できたことが嬉しかった。

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