第6話

 大学近くの図書館の敷地内で、私は小さな喫茶店のオーナーとして過ごしている。この喫茶店は、それほど大きいわけではないが、所謂別館で、養父が残した書籍や資料を私設図書として公開もしている。養父と親交のあった教授などが訪れる事が多い。図書館の一般利用客は図書館本館に併設されているカフェスペースを利用しているのがほとんどだ。


 カランと店のドアベルが鳴る。「いらっしゃいませ。」と声を掛けると、入ってきたのは冬至だった。

「驚いた?」

「そりゃね。」

「生前相談で、近くのお宅に行って来たんだ。映さんのお店、この辺りだと思ったから寄ってみた。」

 彼が私の顔色を窺っているのが分かった。

「別に追い出したりしないよ。とっておきのコーヒーご馳走してあげるから、そっちのカウンターに座って。」

 私がコーヒーを入れている間、少し笑顔で彼は静かにこちらを見つめている。何だか緊張してしまって、手元が狂わないように、いつもより慎重にコーヒーを入れた。


「眠気覚ましの缶コーヒーばっかりだから、ちゃんとしてるコーヒーは本当に美味いね。」

「それはどうも。」

 彼の大きな笑顔にこちらの方が恥ずかしくなってしまう。

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想い出に花を飾る時(仮) 霧島 月呼 @kirishima_tsukiko

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