第5話

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 彼の手がそっと髪に触れ、学者のくせに日に焼けた逞しい腕に、背中から抱き締められる。


 耳元に響く彼の息遣いに身体が思わず震える。


 顔を寄せ、口付けを交わしながら、彼の無骨な指が、慎重過ぎるくらい慎重に、すーっと首元から鎖骨、胸、臍と這わされる。


 何度抱き合っても、まるで自分を壊れ物か何かを扱うような彼の手付きがもどかしくて、瞳でもっととせがむ。


 彼が少し笑ってまた、今度は正面からギュッと抱き締めてくれる。


 あの頃は、彼が側に居て、自分に触れてくる事が当たり前だった。この何気ない幸せがいつまでも続くと信じて疑わなかった。


 子供だったあの頃は、彼がすべてだった。突然、色も音も消えた世界に、手を差し伸べてくれた彼は、神に等しき存在だった。


 自分の生まれた意味を、生きていく理由も呪いだとしか思えなかった。


 この世に不思議なえにしがあるとすれば、何時でも、何処でも、今この瞬間も彼に守られている。


 彼に愛されていたという事実が、彼の分まで強く生きるという矜持だけで、この世に留まっている。


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 養父―正確には叔父で、恋人だった人が死んでから3年。


 彼―吉井冬至よしいとうじとは半年前に出会った。身体だけでも関係が続いているのは彼だけだ。

彼に抱かれた日は何故か、あの人の夢を見る。見た目も、性格も、キスの仕方さえも、何もかもあの人と違うというのに、ふと見せる自分への眼差しが、あの人と重なる。

 あの人が今でも忘れられない。が、冬至との温もりが心地良くて、彼と関係を持ってから、行きずりの夜を過ごす事は無くなった。彼は距離を取るのが上手くて、私が曖昧な関係なままにしたいという気持ちを察しているだろう。私はそれに気付きながら、彼の優しさについつい甘えて、気付かないフリをしている。

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