第10話 連鎖 その1

太三も圧徳も連絡が取れないままだった。いったいどこへ行ってしまったのか、なぜ連絡をくれないのか、辰俊には知る由もない。

しかしその理由を心底知りたいとは思わなかった。なぜなら、太三も圧徳も、辰俊にとってはどうでもいい部類に入るからだ。所詮はただのクラスメートなのだ。クラスが変われば話もしないし心配もしないし気にもしない。なにか事件があって彼らの名前を耳にしたとき、へえそうなんだ、で終わるのだ。


だけど塩里は違う。話をしていなくても会わなくても姿が見えなくても、心のどこかで何をしているのか元気なのか悩みはないかとか気にしていた。

付き合いたいとかそういう具体的な形は求めていなかったけれど、暇なとき、クラスで異性について話題が上がったとき、偶然見かけたときなどは脳裏で塩里のことをいろいろ思い出したり想像していた。


辰俊にとって、他のひととは違う存在、気になる存在、それが塩里だった。


でも今は違う。さらに深くなっている。こういう特殊な状況に置かれて、辰俊の内(なか)で変化したのだ。


何かにすがりたかった、というのが正直な理由かもしれない。異常な世界を生き抜くために拠り所を求めているのかもしれない。

彼女の苦痛を取り除き、苦難を乗り越え、ともに生き抜くためには塩里を守らなくては、と辰俊は新たな決意を持った。自分なら出来る。母さんと塩里くらいなら守ることが出来る!

いや、守ってやる!


現実はあまりにも無情だった。

悲劇は連鎖反応を起こしてさらなる悲劇を呼び寄せる。

体重減少事件は思いもよらぬ結果をもたらし、世界は、混沌へと加速する。

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