第8話 特別授業
時間の流れは速く、もう入学してから一ヶ月が過ぎた。この一ヶ月は驚く程に平穏だった。Sクラスなんていう変人クラスに入っちゃったんだから、毎日がハプニングの連続かと思っていたけど、実際は本当に何もなかった。まあ、侵入されたこともあったけど。
みんな変人なのは確かだけど、いい人でもあるから楽しく過ごせている。朝ご飯を一緒に食べて、授業を一緒に受けて、昼も夜も一緒にご飯を食べる。クラスメイトというより家族みたいな感じがする。テンションの高い困った姉に、病弱で偉そうな兄、適当な父親に、力持ちでまともな常識人の……母。……無理があるかな?
それはともかく、僕はこの一ヶ月とても楽しい学園生活を送れていた。そして、明日から特別授業なるものが始まるらしい。楽しみだ。
「……よし、明日も頑張ろう」
書き終えたサタンへの手紙を送り、僕は眠りについた。
「おう。揃ってんな。予告しておいた通り今日から特別授業を開始する」
翌日。朝ご飯を食べた後、教室でみんなに向けて先生が言った。
「特別授業なんていうが、これがお前らの中心授業だ。本校の奴らは座学や校内での実践などの通常授業が中心だが、お前ら判断こっちが中心だ。これからはこの特別授業をこなしていくことになる」
この一ヶ月受けていたのは通常授業。教室で教科書を使って、黒板板書してみたいなよくある授業。この座学の授業をずっとやっていた。
「この特別授業は勇者ギルドのクエストをこなしてもらう。用意された模擬クエストではなく、本当にある現役の勇者達が受けるクエストだ」
勇者。勇者ギルド。かつては勇者というのは象徴的存在だったけど、今では職業となっている。かつての勇者が出るまでは冒険者、冒険者ギルドと名乗っていたのを勇者に名前を変えただけなんだけどね。
厳しい試験や、勇者学園を卒業することでなれる勇者。勇者となった者は勇者ギルドが発行するクエストを受けて、それの成功条件を満たすことで成功報酬を貰う。
「そして、お前らがこなすクエストは本校の優しいものとは違い難易度の高いものばかりだ。他の勇者では対処出来ないクエストがお前らに回ってくる。時には最高難易度のものも来るかもしれん。まあ、頑張れ。それでクエストを成功させたら特別授業の単位をやる。単位は一回クエストをこなすだけでは取れないから何回もこなしてもらうがな」
現役の勇者でこなせないようなクエストが僕らに。まあ、一口に勇者と言っても強い人もいれば基準ギリギリの人もいる。田舎なんかじゃギリギリの人しかいないなんてこともあるらしい。そんなことより単位取得しないと留年もあるからサタンに怒られないように頑張らないと。あっ、怒られるより馬鹿にされるかも。
「じゃあ、各自準備が出来次第、一階の設備室に来い」
説明は終わり、一旦準備の為に各自の部屋へと戻っていくみんな。そして、みんな準備を終え、一階の設備室に集まった。
「来たか。お前らにはこれを使って現地に行ってもらう」
設備室のなかにあったのは一つの門のようなもの。大きな門で今はまだその門は閉じている。
「これは各地の勇者ギルドへと繋がっている。行き先を設定し、この門をくぐれば瞬時にそこへと移動が出来る。特別授業の際にはこれを使って行ってもらう」
この門を使い、現地の勇者ギルドへと移動。その後、そこの職員の方からクエストの説明を受け、クエストへ。クエスト終了後はギルドに報告し、再び門をくぐって学園へというのが特別授業の一連の流れらしい。一日で終わらなければギルドの方で宿泊の用意などもやってくれるらしい。
「さて、早速行ってもらう訳だが、一応言っておく。この門をくぐった後は、お前らは学生だからといって特別待遇がある訳じゃない。他の勇者達と一緒だ。俺が付いて行く訳でもねえし、ギルドから支援がある訳でもない。死にそうでも、実際に死んでも自己責任だ。だから、油断はするな。力があろうと油断してれば簡単に死ぬ。常に気を張ってろ。疲れても休むな」
先生の言葉には普段からは想像出来ない重みがあった。いつもの適当な先生とは違い、数々の修羅場を潜って来た歴戦の勇者のような風格で、言葉に重みを感じる。
「ま、お前らなら油断しなきゃ大丈夫だろうよ。なんたって俺が担任してんだからな」
重みのある言葉を言った後、先生はすぐに再びいつものような感じへと戻った。歴戦の勇者のような風格だったのはほんの一瞬だったけど、僕達にハッパをかけるには十分だった。みんな気を引き締めた顔つきに変わってる。
「……担任だけど、授業は自習ばかりじゃないですか」
「いいんだよ。お前らの個性を伸ばすためだからな。型にはまった教育なんて意味がない。だから、お前らが自分で学ぶように自習が多いんだよ」
「はあ、そうですか。まあ、厳しい誰かさんよりマシだしいいんだけどね」
門を起動させ、門の扉が開く。これをくぐれば、もう安全が保障された学園とは違い、様々な人に魔物がいて、危険もある外の世界へ。
「夕飯までには帰ってこいよー」
そんな先生の声を聞きながら僕らは門をくぐった。
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