第7話 魔王様から手紙
「おや、もうこんなに溜まりましたか。ふむ、もう一ヶ月が経つので当然ですか」
魔王様が勇者学園へと行かれてから早一ヶ月。魔王様からの手紙も一ヶ月分の厚みを見せていた。
「魔王様が学園へ行かれて一ヶ月。魔王様が居なくなりこの魔王城も……、特に変わりはないですね。初めの方は皆心配していましたが、今ではすっかり忘れられていますしね」
今回の魔王様学園行きに城内では反対する声が多くあった。敵だらけの環境に魔王様を放り込むとは何事だ! などと騒がしい輩もいたが、今ではすっかり前の日常へと戻っていた。
「ふむ、良い機会です。これまでの魔王様からの手紙を読み返してみるとしましょう」
そうして私は手紙を手に取った。
「一日目。無事着いた。Sクラスになった」
魔王様からの手紙第一通目。無事到着したこと、自身のクラスを告げるだけの簡素な内容。
「これだけなら変人クラスに入ったとバレないと思ったのでしょうね。まあ、でも返事でちゃんと褒めてあげましたので魔王様は満足してるでしょう。悪魔からだけでなく人間からも変認定おめでとうございます。変人変魔とは立派です、と」
一枚目の手紙を置き、二枚目の手紙を手に取る。そこにはこう書かれていた。
「二日目。今日、朝目をさますとミーティアさんの顔があった。寝ぼけているのかと思ったけど、本当にいた。『何してるの?』と聞いたら、『ルシェ君の寝顔を見ていた』と言ってきた。『どうやって入ったの?』と聞けば、『扉が開いた』と言われた。鍵はちゃんと閉めたはずなのにと思って見に行くと、鍵は壊されていた」
「……はあ」
手紙を読み終えてからため息を一つ付いたあと、手に持っていた手紙をパサッと机へと置いた。
「何度読んでも呆れた内容ですね。初めて読んだ時は違う言語で書かれているのか、それとも暗号か縦読みなど別の読み方をするのかと色々と疑いましたね」
勇者学園という敵だらけの環境で何の防御策をせず、いとも容易く侵入を許し、無防備な睡眠状態を晒すなどという失態。魔王様の危機管理は一体どうなっているのか。これを読んだ時は長い年月を生きてきた私が初めて「開いた口が塞がらない」という状態を経験することになりました。
そして、このミーティア=オルトノという女子学生。どうやら魔王様を溺愛しているようで、侵入したのも手紙に書いてある通りの目的なのでしょう。初めは刺客かと思われましたが、これまでの手紙よりただの変人だと思われますね。まあ、これが刺客だとしても魔王様には良い薬になるでしょう。色んな意味で。
二通目の手紙を置き、新たな手紙を手に取る。その後も読み進め、手紙は十通目になっていた。
「十日目。朝ご飯を食べるために食堂へ向かおうと部屋を出ると、廊下に血を流して倒れている人を発見した。以前なら殺人事件だ! などとパニックになるところだが、倒れてるのがマルク君なのでスルーした。一応『おはよう』と声をかけると『おは、よおぉ……』と返ってきた。その後、マルク君は何もなかったかのように食堂に現れ、朝食の後授業にも出ていた。授業中にも吐血していたが、みんな全く気にしなかった」
ふむ、人が倒れていてもスルーとは。魔王様も立派になられて。今度は性格面でも立派になって頂きたいものです。それこそ、このマルクという男子学生のように傲慢で上から目線の立派な魔王になって頂きたいものですが、期待するだけ無駄ですかね。
それより、このマルクという男子学生は実に興味深い。魔王様によるとこの人間は毎日何回も吐血したり倒れてるらしいですね。ここまで重症だというのに、すぐに回復したり、死に至ることがないというのは非常に興味深い。彼の体は一体どうなっているのでしょうか。
彼のことは気になるが、この手紙だけでは分からないので新たな手紙を取り、更に読み進めていく。
「二十二日目。今まで手をつけてなかった荷物を整理することにした。それで今ある家具の位置を変えたかったけど、重かったので丁度通りかかったゴードン君に頼んでみた。すると、ゴードン君は軽々とやってくれて、もっと頼ってくれていいと言ってくれたので、調子に乗ってあれやこれやいっぱい頼んだ。そして、終わった後ゴードン君がハァハァと言っているのに気がついた。調子に乗り過ぎたと反省している」
魔王様はすぐに調子に乗って後先考えない傾向にありますからね。これは直して頂かないと困ります。
そして、魔王様の被害者となってしまったゴードン=ロックという男子学生。この人間は人間にしては大柄で二メートルを超えるとか。それに魔法が使えないと。体格はともかく、魔法が使えないというのは興味深い。魔力がない生物など存在しませんし、魔力があり魔法が使えないという者も聞いたことはないですね。彼も興味深い対象です。
「……ふぅ。今の所順調なようですね」
魔王様からの手紙を全て読み終え、一息つく。手紙からは魔王様の学園生活は中々に順調のように思われた。今後はどうなるかは分からないが。
コンコン。
手紙を読み終え一息ついた時、丁度扉を叩く音が響いた。そして、入ってきたのは部下である一体の悪魔。
「失礼します。行っておりました調査が終わりましたのでご報告致します」
そう言い、部下より差し出される文書。それを受け取り読んでいく。渡された文書、それは魔王様のクラスメイトの調査報告書だった。
「……ふっ、ふふふ。これはこれは。中々どうして面白い。ミーティア=オルトノ。マルク=ユーステス。ゴードン=ロック。そして、担任にはローグ=ヤシャーノ。魔王様は随分と奇妙な者たちに好かれてるようだ」
報告書を読み、魔王様の奇妙な運命に思わず笑みが零れる。Sクラス。その名に恥じぬ、奇妙な者たちの集まり。一体これから魔王様はどのような学園生活をお過ごしになるのだろうか。
私は魔王様からの手紙を丁重に片付け、魔王様の未来を想像し、再び笑みを零した。
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