第5話 自己紹介


「ほら。お前ら自己紹介しろ。誰でもいいからとっととやれ」


 新入生の第一の試練、自己紹介。まだ始まったばかりでお互いをよく知らない状況の中でいかに自分をアピールするか。これの出来によって今後が決まると言っても過言ではない第一の試練。


「はいはーい! じゃあ、あたしから! あたしはミーティア=オルトノ。ルシェ君はミーちゃんかお姉さまって呼んでくれいいのよ!」


 Sクラスの自己紹介トップバッターは桃色の髪に制服の上から魔女のようなローブを身につけ、大きな三角帽子を被らずに首にかけているミーちゃんことミーティア=オルトノさん。


「好きなものはカワイイもので、嫌いなものはかわいくないもの。趣味と生き甲斐はカワイイものを愛でることで、今のマイベストカワイイはルシェ君です! 座右の銘は『カワイイは正義!』。よろしく! 特にルシェ君!」


 ミーティアさんの自己紹介。とにかくカワイイって言葉が連発されていたのは分かった。でも、ハイテンション過ぎてちょっと何言ってるか理解出来なかったかな。マイベスト何?


「はい、ミーティア=オルトノさんだ。みんな仲良く出来そうならするように。無理そうなら生贄を差し出すように。それと、ミーティアは座右の銘と己の正義改めるように」


 先生中々辛辣と言うか、投げやりというか。それより、生贄って誰のこと? あ、先生自分のこと言ってるんだね。お化粧すればその怖い顔もカワイイく変身出来るもんね。


「ほら、次いけ。今なら教師らしい対応してやるから」

「ふう。なら、次は俺がいかせてもらうかな。俺はマルク=ユーステス。マルクって呼んでくれ」


 次に自己紹介するのはマルク=ユーステス君。綺麗な金髪に透き通る様な青い目で整った顔立ち。まるで物語の中に登場する王子様みたいですごくかっこいい。でも、かっこいいんだけど顔がすごく白い。と言うより青白い。日光を一度も浴びたことないのかなってぐらい。


「さて、何を言おうか。この素晴らしき俺を紹介するともなればかなりの時間がかかるが今はそんなに時間がないからな。ふーむ。よし、やはりまずは俺の出生から始めるとするか。俺は今から十六年前に首都でユーステス家長男として生まれ、その後名門アー……」

「はい、マルク=ユーステス君だ。みんな仲良く出来る程のメンタルがあるならするように。無いなら適度にあしらうように。それと、マルクはナルシストなのを治すように」


 自己紹介で自身の歴史を語ろうとしていたマルク君を先生は途中で遮り無理やり終わらせた。マルク君もあれだけど、先生も自分で先生らしい対応するって言ってすぐにその対応するのはどうなんだろう。


「ちょ、何故遮る? 俺の自己紹介はまだ終わってない。寧ろここからがいいところだ」

「誰もお前の自己紹介に興味ねえんだよ。あ、違え。お前の歴史にだった」


 先生。今ちょっと本音出てなかった? こっちはちゃんと知って貰おうと必死で自己紹介してるんだよ?


「くっ! では、手短に済ませよう。俺の好きなものは素晴らしき俺。嫌いなものは美しくない奴。趣味は鏡を見ることと自分が映る鏡を磨くこと。よろしくしてやってもいいぞ」


 はい、マルク=ユーステス君でした。すごいナルシストですねー。それに俺様な感じですねー。ちょっと僕には仲良くするの無理そうかなー。


「それと、俺は、ごはぁ!」

「ええ! いきなり吐血した!?」


 まだ何か言おうとしていたマルク君は突然口から盛大に血を吐き出した。


「ぐっ、はあはあ。それと、俺はこのように病弱でよく吐血したり倒れたりする。その時は俺を全力で介護するように」


 ええ、よく吐血したり倒れたりするって大丈夫なの? 学園より病院に行くべきじゃない? でも、病弱らしからぬ上から目線だし、多分大丈夫なんだろう。


「介護って。あんたそんな病弱なら学校より病院にいたほうがいいんじゃないの? 今にも死にそうじゃない」

「ふふふ。何を言う。見ろ、さっき吐血したこの血を。こんなにも赤くサラサラしている。まさに健康という血だ」

「いや、健康な人はまず吐血なんかしないし」


 マルク君は病弱ジョークを一つ挟んだ後、崩れ落ちるように着席。自己紹介で吐血し虫の息化する人は初めて見たなあ。


「では、次は儂に自己紹介させてもらおう。儂はゴードン=ロック。見ての通り体がデカく、身長は二メートルを超えておる」


 そう言い、席から立ったゴードン君は座っている時から分かっていたけどやはり大きかった。それに、背が高いだけでなく横にも大きく、けれど太っている訳じゃなくて全身筋肉みたいでムキムキなのが制服の上からも分かった。


「そして、わしは魔法が使えん。しかし、見ての通り力はあるから戦いの時だけでなく、普段の重い物を持つ時などはわしを使ってくれて構わんぞ。机だろうが椅子だろうが米俵だろうが何でもどんとこい。こんなデカイ図体で威圧感を感じさせるかもしれんが、何もせんから皆の者よろしく頼むぞ」


 確かに体が大きくて寡黙な感じだから、威圧感のあるゴードン君。でも、話しているとすごく優しくていい人だってことが伝わってくる。このSクラスで唯一のまともな人だ。頼ってくれていいって言ってたから、遠慮なく頼ることにしよう。とりあえず、ミーティアさんへの生贄になってみない?


「はい、ゴードン=ロック君だ。みんな仲良く使役してやるように。ゴードンはドンドン使役されるように」


 先生ドンドン先生らしい対応出来なくなってます。最早悪口です。ゴードン君も言い返していいんだよって思ったけど、ゴードン君何か嬉しそう。そんなに役立ちたいのかな?


「じゃあ、最後。やれ」


 ゴードン君が着席し、先生がそう言った後全員の視線が僕へと向いた。……はっ! 次、僕か! やばい何も考えてなかった! みんなの自己紹介聞くだけに集中してて自分の自己紹介何も出来てない!


「ほら、やれ。この教師らしい対応疲れてきたてんだよ」


 先生は何も先生らしい対応なんてしてないでしょ! ってか、それどころじゃない! 自己紹介考えないと! そうだ。今までの三人のを参考にしよう。だいたい好きなものと嫌いものと一言って感じだったはず。


「えー、えーと、ルシェ……アートです。す、好きなものは、ハンバーグで、嫌いなものはトマトです。よろ、しくお願いします」


 言い終わった僕は静かに席へと着席する。……やってしまった。何今の自己紹介。好きな食べ物に嫌いな食べ物とか。小さい子の自己紹介かな? とても十六年生きてきた者の自己紹介とは思えないね。……ああ、時間戻らないかなあ……。


「ハンバーグが好きなの! 今度というより今からあたしが作って、あーんして食べさせてあげるから楽しみにしててね! 口移しでもOKよ! 寧ろ推奨!」


 あ、ミーティアさんが食いついてくれた。普段ならちょっと引くけど今はすごく嬉しい。食べさせてもらうのは遠慮するけど、楽しみにしてるね。


「ふん、トマトが嫌いだと? トマトは低カロリーでありながら豊富な栄養素を含んだ素晴らしい野菜なんだぞ。それに、美しい俺様の美しい見た目を維持する、老化防止に役立つリコピンを豊富に含んだ見た目も栄養素も素晴らしい野菜を嫌いだというなんて、なんと愚かなことだ」


 おお、今度はマルク君が。血だらけの机に顔を埋めながら、トマトについて力説を。僕の自己紹介に関係はしてるけど、自己紹介そっちのけ、さらにトマトの素晴らしさを語りながらナルシ成分も入れて僕を馬鹿にする感じで。


「うむ。トマトだけに限らず好き嫌いをせず様々な食材を食すことが大切だぞ、ルシェ殿。それをすることで丈夫で頑丈な体が出来上がるのだ」


 今度はゴードンに説教された。はい、まさにその通りです。好き嫌いはダメだよね。


 あれ? 意外とみんな食いついてくれた。あんな酷すぎる自己紹介に。みんな、優しんだね。変人ばかりかと思ってたけど、みんなすごいいい人だったんだ。Sクラスに入ってよかったかも。


「はい、ルシェ=アート君だ。……じゃあ、次の説明するな」


 スルーされた! 最後の最後に先生がスルーした! さっきから先生らしい対応するとか言ってたくせに! 僕だけ何も言ってくれなかった! まあ、無理もないけどね!


 こうして1ーSの自己紹介は終わった。結果は一人除いてやっぱりみんな変人だった。僕も変人というより残念な奴だった。

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