第4話 Sクラス!(2)

「ほら、とっとと席につけ馬鹿共。担任様がお見えだぞ」


 くわえ煙草の怖い顔した担任の先生は、倒れている僕の上を跨いで教卓へと向かう。ちょっと。先生なら困ってる生徒を見捨てないでよ。


「ちょっと。教師のくせにタバコなんて吸ってんじゃないわよ」

「大丈夫だ。これは健康を害することのないタバコだから」

「そういう問題じゃないの」


 そうそう。それもその通りだけど、そろそろどいて。席に着こうにも起き上がることすら出来てないから。


「あんたの姿を見てルシェ君が真似したらどうするのよ! タバコを吸うルシェ君なんて……、はっ! カワイイ顔でタバコを吸うなんて意外といいかもしれない。ギャップ、ギャップ萌えだわ! ねえ、ルシェ君タバコ吸ってみない?」


 うん、どうでもいいからどいて。それにお酒とタバコは二十歳からだよ。


「何でもいいからとっとと座れ。椅子にだ。進まんだろ」


 僕に乗っかっていた女子は渋々といった感じで僕の上から立ち上がり、椅子へ。解放された僕もズキズキと痛む頭をさすりながら椅子へと座る。


「よし。まずは入学おめでとう。これから一年お前らの担任をするローグだ。とりあえずお前らに言っとくことは一つだけだ。問題は起こすな。起こしても学園外で起こすか、ちゃんと揉み消せ。学園外なら学園長のジジィに責任を押し付けられるからな。揉み消すのは自分でやれよ。俺を巻き込むな。以上だ」


 まさか第一声。およそ先生が口にしていいとは思えないような言葉を平気で言ってきた先生。行動、言動、そして、顔とおおよそ先生とは思えない彼がこの1ーSの担任。……嫌だ。


「おいおい。お前らそんな嫌そうな顔すんなよ。これから一年共に過ごすことになっちまったんだから諦めて大人しく俺の言うこと聞いとけ。いいか。俺に迷惑かけんなよ。てめえの問題はてめえで解決しろ。それか問題を起こすな」


 本当に先生とは思えないんだけど。なんでこんな人が最上クラスであるSクラスの担任になったんだろう? 


「ま、問題起こさないなんて思ってないがな。悪評だらけのSクラスなんだから」

「え、悪評?」

「そうだ。……まさかお前SクラスのSがSpecial(スペシャル)のSだと思ってんのか?」

「ええ、違うんですか?」


 SクラスのSはスペシャルの頭文字で、真のエリートだけが入れるスペシャルなクラスだと思ってたんだけど。


「違うな。SクラスのSはStrange、変なっていう意味のSだ。つまり変人達のクラスって訳だ」


 は!? へ、変人クラス!? スペシャルなエリート達のクラスじゃなくてスペシャルに変な人達のクラスだったの!?


「お前ら変人を更に変な方向へ伸ばしていこうっていうのがこのクラスだ。だから、こんな専用の校舎も用意、というより隔離に近いが。それにカリキュラムも本校とは全然違う。全てお前ら変人の変な個性を伸ばすためのクラス。それがSクラスだ」


 変人の個性を更に変な方へ伸ばすなんて。そんなことして大丈夫なんだろうか。それより僕にはそんな変な個性なんて無いんだけど。みんなと違うところなんて、種族ぐらい? 悪魔で魔王なところぐらい。え、これを伸ばすの? 勇者育成学校で立派な魔王を育成するの?


「分かったか変人共。十年ぶりのSクラスだからってこのボロボロ校舎を一人で掃除した俺に感謝しろよ。外見は知らん。だから、問題起こすな。感謝は気持ちでなく行動で示してくれ」


 すごい釘差してくる。そんなに問題起こすと思われるなんてちょっとショックだよ。ああ、僕以外の人に言ってるんだろうな。そうであると信じたい。


「そんな言わなくても大丈夫よ。あたしとルシェ君はね!」


 その通り。彼女はともかく僕は何も問題ないはず。サタンからも「魔王様は頭以外はあまり問題ないですね」って言われてたし。……あれ?


「そうかい。大丈夫だと信じたいもんだが、過去のSクラスを見ているととてもそうは思えなくてな」

「そんなにひどかったんですか?」

「そりゃな。元はスペシャルクラスだったのを変人クラスと呼ばれるに変えたぐらいだからな。校舎ぶっ壊したり、寮ぶっ壊したり、変な実験して全校生徒を錯乱状態にした奴もいたな」


 おっと、予想よりもずっと酷かった。所詮ちょっと行動とか言動がおかしくて、クラスに馴染めないぐらいかと思ったら、変というよりも危険レベルだった。校舎が別なのも昔の人がやらかした結果で、優遇じゃなくて本当に隔離なんだ。


「そういう訳だ。再度言う。問題起こすな。いや、問題起こしてもいい。だが、起こしたなら確実に証拠は隠滅しろ。証拠をこの世に残すな。手段は問わん」


 本当、先生が言っていいとは思えないことをバンバン言うなあこの先生。証拠隠滅しろって。この世に残すなって。その証拠が人だったらどうするんだろう。目撃者って感じに。……ああ、手段は問わないのか。


「よし、俺からは以上だ。色んな説明する前に、まずはお前らの自己紹介しとくか。このメンバーで一年過ごすんだ。お互いを知っておく必要があるだろ?」


 先生の話が一段落し、始まるSクラスメンバーの自己紹介。みんながまともな自己紹介をしてくれることを願おう。先生がもう既にあれだけど、この変人クラスに変人がいませんように。それと僕も変なこと言いませんように。


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