第3話 Sクラス!

「え……。これが校舎?」


 森を抜けた先、そこにあったのは豪華なSクラス専用校舎、ではなくボロボロの古びた木造三階建ての小さな昔の校舎だった。


「……いやいや。ないない。だって、A〜Fクラスの更に上のSクラスだよ? そんなクラスの校舎がこんなボロボロな訳ない。まあ、でも看板が間違ってるって学園に報告するためにも、これが何の建物か確かめないとね」


 まったく、学園も困ったもんだなあと思いながら、建物へと近づいて行き、正面玄関らしきところへ到達した。そして、知りたくない現実を知った。


「……Sクラス校舎。いやいや、きっとこの表札? も間違ってるんだよ。……あっ、外見はこんなのでも中は意外と綺麗なのかも。だって、Sクラスなんだし」


 この古くてボロボロの建物はやはりSクラスの校舎だということが判明したが、外見はこんなのでも中は綺麗という儚い希望を持ちながら、入り口の扉を開ける。


「外見はあんなのでも、中は綺麗だよね〜。だって、Sクラスだもんね〜。……え、冗談だったのに」


 儚い希望は文字通り儚く散った。ということはなく、希望は散らずに現実のものになっていた。


「すごっ。廊下とかピカピカだし、窓も汚れ一つない」


 扉を開けた先にはピカピカの廊下に綺麗な窓があった。 廊下は窓から差し込む太陽の光で輝いていて、窓には汚れの一つもない。


「そういえば、外見も窓だけは綺麗だったような気がしてたけど、周りが汚くて綺麗に見えてた訳じゃなかったんだ」


 外からだと、校舎の壁がボロボロでくすんでいたから、相対的に窓が綺麗に見えてたと思っていたけどそういう訳ではなかった。外見は汚くてボロボロでも、中は綺麗でピカピカしていた。


「あ、そんなことより教室行かないと。えーと、どこだろう?」


 入り口から中に入り、入ってすぐ前に二階へと上がる階段がある。でも、その階段を使うより先に一階を見ていくべきかな。廊下は階段を中心に左右に同じぐらい伸びている。そして、廊下の側面には幾つかの扉が見える。その扉の向こうはきっと教室になっているんだろう。


「ん? あっ、あそこか」


 一階の左側にある一つの扉の上に「1ーS」と書かれたプレートを見つけ扉の前まで移動する。


「……ここがこれから過ごすことになる教室かあ」


 この先にはこれから過ごす教室とクラスメイト達が。そう言えば、あの入学式後のクラス決めじゃSクラスって言われたの僕だけだったなあ。……あれ? この先にクラスメイトっているの? え、もしかして、僕だけ? ワクワクして開けたのはいいけど、その先で迎えてくれたのは机と椅子だけとかじゃないよね? 友達も机と椅子だけとかじゃないよね!? ……先生も居なくて事実上退学だったりしたらどうしよう。


「……ふう。迷ってても仕方ない。いざ!」


 色々な思いが巡り、不安になっていたが、深呼吸を一つし思い切って扉を開ける。


 ガラガラガラッ!


 扉を開けた先、そこには机や椅子、黒板などのよくある教室の風景と、三人の男女の姿があった。


 金髪の青白い男子に、ムキムキで横にも縦にもデカイ巨漢に、魔女みたいなローブを羽織った桃色のロングヘアーの女子。よかった、僕だけじゃなかった。全員学校指定の制服を身につけてるし、四つしかない机の一つにそれぞれ腰掛けているから、きっとクラスメイトだろう。すごい見られてて若干怖いんだけど。魔女みたいな子は震えながら凝視してきてるし。


 全員の視線が僕へと集中していることで緊張もしたけど、クラスメイトがいて事実上の退学じゃなかったことに一安心。ほっと息をついた時に、震えて僕を凝視していた女子が何か呟くのが聞こえた。


「……かっ……、」

「か?」

「カワイイ!」

「へ?」


 何か呟いたと思った次の瞬間、その女子がとてつもない勢いで僕へ飛びついてきた。


「ちょ、あ、うごっ! おおぉぉ……」


 弾丸のように飛びついてきた勢いで、僕はそのまま押し倒され後頭部を強打。とても痛くて呻いている僕を気にせず、抱きついてきた女子は身を起こし、馬乗りの体制になり、満面の笑みを浮かべていた。


「混ざり気のない真っ黒のショートカットの髪に、まるで宝石の様な潤んだ翡翠の瞳! 子犬や子猫のような愛らしさと、嗜虐心をそそる困惑したような怯えてるような表情! パーフェクト! まさに、パーフェクトカワイイ! フゥ! あなた名前は!」

「え、ル、ルシェです……」

「ルシェ! ルシェちゃん! 名前までカワイイなんてあたしを殺す気か! ……あら? スカートじゃなくてズボン履いてる……。まさか男!? でも、大丈夫! カワイイに性別は関係無いの!」


 僕の上で一人歓喜したり怒ったり驚いたりしてテンションの上がってる彼女。どうでもいいけど、重いし痛いしどいてほしい。


「なんだ騒がしいな」


 未だに起き上がれない僕の頭上から誰かの声がした。その声がする方へ顔を向けると、くわえ煙草で顔が怖い若い男が呆れたような顔で立っていた。


「……せめて人気の無い所でやれよ」

「すごい誤解されてる!」


 この人何か誤解してる! 違う何もしてないし襲われるだけ! だから、見てないで助けて! 誰か知らないけど! でも、怖くて頼めない!


「まあ何でもいいがとりあえず止めろ。堂々と校内で不純異性交遊なんてやってたのを知られたら俺の首が飛ぶ」

「だから何もしてない! ……え、首が飛ぶって」


 首が飛ぶって職を解雇されるってこと? じゃあ、もしかしてこの人……。


「クビになったら俺の再就職お前らがどうにかしてくれるのか? してくれねえだろ? まだ五年しか教師やってねえのにクビなんてありえねえからな。それに俺クビになったらお前らの担任も居なくなって、お前らも退学(クビ)だからな」


 やっぱり、この顔が怖い態度も怖い人は先生だった。そして、先生がここへ来たってことは多分僕達の担任。


 怖い担任に、見た目からでも伝わる強力な個性を持ったクラスメイト。僕の学園生活はいったいどうなるんだろう……

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