第2話 クラス決め。
暖かな春の日差しとまだ少し冷たい春風。桜の花も綺麗に咲き、今日は絶好の入学式日和。
周りには緊張した面持ちだが、その胸の中には大きな希望を抱き、明るい未来を見据えている新入学生達。
そんな中、僕は一人絶望していた。
「新入生のみなさん、入学おめでとう」
壇上では白髪で立派な白いあごひげを蓄えた学園長が何か話している。
「この勇者学園はかつて大魔王を討伐した偉大なる勇者様が設立した学園です。みなさんも人々のためになる勇者になれるように励んで下さい。以上です」
勇者学園。かつての大魔王を倒した勇者が作った学校で、魔王や悪魔達を討ち、人々に平和をもたらす勇者を育成することを目的とした学校。あの壇上にいる学園長はもう引退したけど、昔は最強と呼ばれた勇者。前の端っこの方に並んでいる先生達も勇者。周りの新入学生達は勇者の卵。用務員さんですら元勇者。
「学園長先生ありがとうございました。新入生のみなさんも、かつての勇者様が魔王を討伐したように、みなさんも悪魔や魔王を討伐出来る勇者になるために勉学に励むようにしましょう」
勇者学園入学式。将来の勇者を育てる学校の入学式に、勇者の卵たちと同じ新入生として僕はいた。……魔王なのに。
「これにて入学式を終了致します」
勇者学園の入学式は僕が絶望している間に終わってた。入学する前までは勇者学園って言っても、勇者の卵に勇者でも勇者として活動せずに教師をやってる人間しかいないから、何かあったら力で無理矢理屈服させればいいや。なんて軽く考えていたけど、実際は教師達はともかく、その卵ですら強い人が多くて、更に数が多い。これ全部と戦ったら屈服させられるのこっちかもなんてことで、絶望してたら終わってた。初めての学校生活の入学式なのに。
「続きまして、クラス決定の儀を行います」
そう進行役の先生が言ったのが聞こえると、学園長が再び壇上に上がって行ったのが見えた。え、何が始まるの? クラス決定って何?
「クラス決定は壇上におられる学園長先生の所で行います。そこにある水晶へ手をかざしてください。その水晶があなた達の魔力や体力など、様々な面から判断しA〜Fのクラスを決定します。では、名前を呼ばれた生徒から前へ来て下さい」
壇上にいる学園長の前には一つ机が置かれていた。遠くて見えないけど、きっとそこにその水晶があるんだろうな。それに手をかざしてクラスを決定する。え、二百人ぐらい居るんだけど。全員今からやるの?
水晶一つしかないのに、ここにいる全員やってたら時間かかりすぎじゃないとか思ってたら、結構流れ作業でサクサク進んでいったからすぐ終わりそうだった。水晶に手をかざして、数秒後には学園長が誰々Bクラスみたいな感じで。そして、サクサク進んでいき、大半の生徒というより僕以外が終わった。そして、
「ルシェ=アート。前へ」
遂に僕の名前が呼ばれた。悪魔に苗字はないから半分は偽名だけど。
名前を呼ばれ、前へと進み壇上に上がる。そして、水晶の、学園長の前へと来た。
「ここへ手をかざしなさい」
目の前の学園長が言う。学園長は優しいおじいさんのように見えるけど、昔は最強の勇者なんて呼ばれた男。その力は引退した今となっても衰えることがないらしい。怖すぎる。
少し緊張しながら水晶へと手をかざす。今までを見ているとすぐに結果を言われるから、もう言われるかなと思っていると、
「…………」
学園長は水晶を見つめて黙ってしまった。え? 何? なんで黙ってるの? 今まではサクサク流れ作業みたい止まることなく進んでたのに。はっ、もしかして、僕が魔王だってもうバレちゃった? あはは、そんな訳ないか。……え?
「……ルシェ=アート」
「ひゃ、ひゃい!」
押し黙っていた学園長に突然呼ばれる。何? なんなの? バレたの? お前魔王だろ! とか言うの? どうでもいいけど、声裏返ったよ!
「すまんな。どうやら水晶が故障したようじゃ。何も表示されん」
すいません、違うんです! サタンが勝手にやっただけで、……え、あ、あっそう。こ、故障ね。水晶故障しちゃったんだ。なるほどー。……はあー。やめてよ、あの沈黙。バレたのかと思ったよ。あー、よかった。バレてなくて。
「今までこの水晶が故障することなんてなかったんじゃがの。どんな人間でも測定出来るはずなんじゃが」
違う! それ故障じゃない! それ僕が人間じゃないから測れてないだけ! で、でも、今は故障でいいよ。僕人間。水晶故障。測れない。うん。
「……ふむ。かといって、クラスを決めん訳にはいかんからのぉ。儂の独断で決めるがいいかのぉ?」
どうぞどうぞ。水晶直ったのに、何回やっても測れなくて僕が人間じゃないってバレるより全然いいから。どのクラスでもいいから今決めて下さい。
「では、ルシェ=アート。お主はSクラスじゃ!」
学園長がそう宣言した瞬間、会場にざわめきが起こった。なんで?
「お、おい、Sクラスってあの……?」
「Sクラスとかマジかよ……」
様々なざわめきが聞こえてくる。何? Sクラスって。でも、こんなざわめきが起こるぐらいなんだから、きっとすごいんだよね。だって、クラスって確かA〜Fまでだって言ってたしSってことはそれの上? スペシャルクラスってこと? スペシャル。やった! やっぱり僕はできる子なんだ! サタンがバカだのアホだの言いまくってたから、ダメなのかと思ってたけど、間違ってたのはサタンなんだ。
「では、新入生たちよ。各自のクラスへと移動しなさい。これでクラス決定の儀は終わりじゃ」
僕のクラスが決まり、これで全員のクラスが決まった。そして、学園長がクラス決定の終了を告げ、それを聞いた生徒達はみんな立ち上がり、出口へと向かいだす。僕も壇上から降りて、Sクラスに決まりウキウキ気分でみんなと同じように出口に向かおうとすると、
「どこへ行く? お主は向こうじゃ」
学園長から呼び止められ、みんなが向かっている出口とは真逆の位置にある出口を指差される。
「Sクラスの者は向こうから出て、そこから看板を辿って行きなさい」
真逆の出口から看板を辿って行けって校舎はみんながいる出口の方にあるのに? 遠回りじゃんと思ったけど、これはもしやSクラス専用の校舎があるってことかもしれない。
そう考えると辻褄も合うし、専用の校舎なんてやっぱりSクラスはすごいんだと思いながら、示された出口より外に出た。
「看板があるって言ってたけど、あ、あった」
式の会場となっていた体育館より出て、看板を見つける。「Sクラス校舎→」とSクラス校舎の位置を示しているであろう矢印が書かれた看板。文字掠れて読みにくくなっているけど、確かにそう書かれていた。
「本当に専用の校舎が。きっとすごく綺麗で立派な校舎なんだろうなあ」
期待に胸を膨らませ、看板の示す通りに進む。体育館を離れ、雑草生い茂る獣道を歩き、森みたいなところを進んでいると、遂に看板が終わりを迎えた。
「この先Sクラス校舎。はあ。やっとだよ。結構歩いたなあ。他のクラスの校舎はもう見えないや」
A〜Fクラスの校舎はもう背の高い木により隠れてしまった。それにこの木がなくとも、かなり離れてしまったから小さくしか見えないだろう。
「まあ、いいや。これから僕はこっちのSクラスの校舎になるんだもん。この森を抜けた先のSクラス専用校舎に」
校舎への期待に胸に歩を進める。そして、遂にその時が来た。
「もう抜ける! この先にSクラスの校舎が! Sクラス専用の豪華な校舎が……え?」
最後の数メートルを駆け抜け、森を抜ける。そして、その先あったのは、立派な校舎……ではなく、ボロボロの古びた校舎だった。
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