勇者育成学校へ入学しました。……でも、僕、魔王なんだけど。

@gggg

第1話 入学しました

 悪魔達の住む世界、魔界。その悪魔達の頂点に位置する魔王が住む城、魔王城。その一室に僕はいた。


 目の前にいる魔界最強と言われ僕の教育係であるサタンが一枚の書類を僕に渡す。


「魔王様。魔王様のお望み通り、来月より学校へと通って頂きます」

「やった!」


 サタンが渡してくれた書類。それは学校への入学手続きの書類。これにより僕も晴れて来月より学校へと通うことが出来る。


 ようやくだ。ようやく長年見てきた夢が叶う。学校。学校へ僕は行けるんだ!


 嬉しくてつい手に持っていた書類へと力が入ってしまった。危ない、危ない。これで破れてたりして、入学不可なんてなったらもう立ち直れない。ずっと夢見てきたことをこんなことで潰さないようにしないと。


 物心ついた時から憧れてきた学校。それが十六になってやっと叶う。魔王の息子だからって専属の教育係から個別指導を受け、魔王城からも全然出させてもらえなくて、学校に通うどころか同年代の悪魔達とほとんど会ったこともなかった。友達もいないし、いるのは前魔王の父と教育係のサタンだけで学校に通っている子たちがすごく羨ましかった。


 でも、これからは違う。僕も学校に行ける。ずっと憧れた学校へ。ちゃんと勉強もして、遊んで、友達もいっぱい作って、青春するんだ。


「では、魔王様。こちらにサインを」

「うん!」


 サタンに示された場所へ自分の名前を書く。ルシェ、ルシェと。


「ありがとうございます」

「どういたしまして! って、何にサインさせたの? 手続きはもう全部終わったんでしょ?」


 手続きが全部終わったから通えるって言ったんじゃないの? サタンはまだ決まってなくてあやふやな状態で断定するような性格じゃないし、もしかして渡したの入学手続きの紙じゃない?


「こちらですか? こちら、誓約書になります」

「誓約書!?」


 僕は慌ててサインした書類へと目を通す。そこには確かに誓約書と書かれていた。


「なんで誓約書? えーと、何々? 私は如何なることが起こっても、絶対に学校を退学しません? え、別に誓うほどのことじゃ……」


 学校を退学しない? そんなの当たり前じゃん。こっちは何年も学校に憧れ続けてきたんだよ。ちょっと何か起こったぐらいじゃ退学なんてしないし。イジメられても、逆に学校を支配して肩身の狭い思いをさせてやるなんて思ってるぐらいだし。別に誓う必要なんてないのに。


「そうですか。しかし、この誓約書には既にサインされましたので誓いは守っていただきます」

「うん。別にいいよ。辞めることなんてないし」


 サタンの僕への信頼度はどうなってるんだろう。そんなに僕のことをダメなやつだと思ってるのかな。そりゃ、今までバカだのマヌケだの色々罵しられてきたけど、ここまで僕のことダメだと思ってたのかな。学校にずっと憧れてたのサタンだって知ってるし、誓約書なんて必要ないことぐらい分かってるはずなのに。僕の熱意が強いから、今回の入学も許してくれて、学校選びから手続きから全部やってくれたんだと思ってたんだけど。


「なんで誓約書なんて書かせたの? はっ! もしや、僕が学校に行ってる間に僕を魔王の地位から引きずり下ろして魔界から追放しようとしてるんじゃ……」

「そんなことをする訳がないでしょう。わざわざそんな風に面倒なことをせずとも、魔王様を魔界から追放することは容易に出来ますので。それに、魔王様は居ても居なくてもどちらでもいいので」

「え、冗談からそんなこと言われるなんて」


 冗談のつもりでいったのがまさかこんなことを言われることになるなんて、色々とショック。でも、そうじゃないならなんで誓約書を? もしかして通う学校が物凄い不良学校なのかな? あっ、そもそも僕が通うことになる学校自体知らないや。


「ねえ、そう言えば僕が入学する学校ってどこなの? サタンに全部任せたから僕何も知らないんだけど」


 その質問をした時、サタンがピクンと一瞬反応したように見えた。そして、少しの沈黙があってサタンは口を開いた。


「……とても素晴らしい学校ですよ」


 ……怪しい。普段サタンが受け答えのために沈黙することなんて滅多にないし、僕の質問にこんなあやふやな回答をすることもない。怪しすぎる。


「ちょっ、ちょっと! ちゃんと答えてよ! 僕どこの学校に行くの! もしかして、これ全部ドッキリでしたなんて言わないよね! 学校なんて行けませんよって言わないよね!」


 入学の手続き終わったとか言ったけど嘘でした。そもそも、手続きなんて何もしてませんでした。みたいな感じで僕へのドッキリだったらどうしよう。あんなに楽しみにしてたのにそんな結末だったら本当にもう立ち直れない。


「安心して下さい。入学に関する手続きは全て終了致しております。ちゃんと来月から通えますよ」

「だから、ちゃんと言って! 僕はどこの学校に行くの!」


 これがドッキリだって分かったら暴れてやる! さあ、僕が行く学校はどこ!


「……こちらをご覧ください」


 暴れてやると身構えていた僕にサタンは一枚の書類を渡してきた。何? また誓約書? そんなの要らないんだけど。でも、渡されたんだから、しょうがなく書類に目を落とす。そして、驚愕の事実を知ることになる。


「えーと、入学許可証? 上記の者の入学を許可する? 勇者学園、学園長ルイージ=ソー? ……勇者!?」

「魔王様は来月より人間界にある勇者学園という魔王討伐のための勇者育成を目的としている学校へ通っていただきます。よかったですね。念願の学校ですよ」


 サタンはニヤニヤと笑いながら、机に置いた誓約書を取り上げる。


「これに誓われたのですから、三年間何があっても退学なされないように。破れば魔界追放よりも重い罰が待っておりますので。ああ、言い忘れてました。魔王様、この度はご入学御愁傷様……、いえ、おめでとうございます。もうお会いすることが出来ないかもしれませんので、後一ヶ月は全力を持ってお世話させていただきます。まったく、惜しい者を亡くしてしまった」

「まだ死んでないから! まだ! ううっ、こんな学校だったら行きたくなーい!」



 ……ああ、懐かしいなあ。こんなやり取りしたっけなあ。


「これより勇者学園入学式を挙行します」


 結局、通うことになったんだけどね。


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