第24話 魔王様からの手紙(2)
「……ふう。やっとこの書類の山も整理できましたね。魔王様が行う仕事を私が代わりにやっていますが、これを魔王様がご卒業後処理できるのか心配です」
この膨大な紙の山をあの魔王様が処理、無理ですね。考える間もなく答えが出てしまいます。現在は在学中ということで魔王様が行う執務を代わりに私が務めていますが、ご卒業後は魔王様に務めて頂かないといけないません。しかし、現在の魔王様では無理ですね。学園生活の報告もそうですが、魔王様から送られてくる手紙にはろくな事が書かれていませんし。
「そう言えば、今日で一学期も終わりですか。早いものです。魔王様からの手紙も溜まりましたね。久々に整理も兼ねて読み返してみるとしましょう」
机の引き出しから魔王様からの手紙を取り出し、読み始めた。
「新入生合宿があった。一日目に劇をやった。酷いもので思い出したくもない。二日目は一日自由時間で、暇だしウロウロしていた。誰にも声をかけられることなく一日を終えた。まあ、Sクラスだししょうがないと思ってたらマルクくんとミーティアさんは声をかけられまくってた。イケメンと美女はズルい」
これは新入生合宿の時のものですね。新入生合宿。ここで初めて本校の人間達と接触したわけですが、誰にも声をかけられなくて、落ち込んでいると。その原因は容姿だと思っておられると。はあ。声をかけられなかったのは魔王様の容姿の問題でなく中身の問題でしょう。馬鹿でコミュ障な中身のせいで声をかけられなかっただけです。この勘違いは頂けませんね。
原因分析の間違っている手紙を置き、次の手紙へ。
「Aクラスとの合同授業をやった。基礎的な炎魔法演習だったが、Aクラスが難なく成功する中、僕らSクラスは誰も成功しなかった。ゴードンくんは魔法使えないし、マルクくんは死んでるし、ミーティアさんはイフちゃんにやらせて自分でやらないし、僕は火力調節が出来なくて煙しか出なかった。すごく気まずい空気になった」
読み進めて行くと今度は合同授業の手紙へ。さすがは変人クラスですね。基礎的な炎魔法一つ出来ないとは。しかし、ゴードン様、マルク様、ミーティア様は問題はないでしょう。ゴードン様は元々魔法が使えず、マルク様は体力を強奪していれば出来るでしょうし、精霊を従える程のミーティア様も何の問題無いでしょう。
本当に問題なのは魔王様です。魔王様の絶望的な出力調整の下手さです。今回は炎を出そうとして煙しか出なかったようですが、以前私が魔法教育している時には、魔王様の炎魔法により魔王城全焼しかけていますからね。手のひらサイズの炎を出してくださいと申し上げると、魔王様は手のひらの上に魔王城を包み込むぐらいの大きさの炎の玉をお出しになりました。これはもはや出力調整とかよりも言葉が理解できていない馬鹿なだけですね。
「魔王様が立派な王となる日は来るのでしょうか」
魔王様の未来を嘆く声と共に手紙を置いた。
「期末テストが近づいてきた。みんなに勉強のことを聞くと誰も何もやってないらしい。じゃあ、僕もやらなくていいや」
これはまた馬鹿な手紙を発見しましたね。この後、どうなったかなんて容易に想像ができます。
「テストが終わった。全然出来なかった」
でしょうね。
「テストが返ってきた。予想通り良くない点数だけど、みんなも一緒だしいいやと思ったら、みんな全教科満点だった。騙された。人間なんて信じられない」
でしょうね。こちらは全て予想通りです。まったく。ご学友は普段の授業で内容を理解しているから復習などが必要がないのです。それを普段の授業で全く理解できてない魔王様がなさってどうするのですか。成績面でも馬鹿になってしまわれて、教育係として情けない気持ちになりますよ。
「お父様に胸を張って報告したいものです」
情けない手紙を置き、次の手紙を読み進めて行く。
「……これで全部読み返せましたね。どれもこれも馬鹿で情けない手紙ばかりでした」
分かっていましたが、この手紙を読み返すと本気で魔王様の将来が心配になります。この方は無事ご卒業なさるのか? 魔王だとバレるより、単位取得のほうが心配とは、なんと情けない。魔王様が留年でもなされたら、お父様から私が叱られることになりますし、もっと、厳しく行くべきでしょうか。
「はあ。魔王様のこととなると頭が痛くなりますね……」
「失礼します! 大変ですサタン様! 侵入者が現れました!」
「侵入者?」
はあ。駄目なのは魔王様だけかと思いましたが、部下たちまでも駄目になっているとは。
「大量の口ひげと変なメガネを掛け、本日の主役と書かれたタスキを身にまとった者が城の中で暴れております! しかし、負傷者は居ません!」
「……背丈は?」
「はい! 百六十程度です!」
「全力で迎撃しなさい。擦り傷や泣かせるぐらいなら構いません!」
はあ。やっぱり駄目なのは魔王様だけですね。一度痛い目にあって頂きましょう。
その日、魔王城には情けない泣き声が響き渡った。
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