第23話 新入生合宿(5)
「ちょっ、ババァ! 出てくんじゃねえよ!」
「おやおや、まったく口の悪い子だねえ。さあさ、何もないけど入っておくれ」
「だから、黙ってろババァ! 引っ込んでろ!」
「あんた、次ババァって言ったら殺すわよ」
「……すいません」
「……さあさ。お茶ぐらいはお出しするからねえ。入っておくれ」
……ミーティアさん、一瞬素が出てたよ。怖かったよ……。すっかり気圧された二人はミーティアさん、もといおばあさんの言う通り家の中へと入っていく。入っていくと背景は家の中の風景へと変わり、おじいさんも現れた。
「おじいさん、ピカ太郎のお友達がやって来ましたよ」
おじいさんは一言も発せず、ただじっと僕を見つめる。何も言わないけど、その巨体となんか不機嫌そうな態度に緊張が走る。
「おじいさん?」
おばあさんの問いにおじいさんは何も答えず、答える代わりにお茶を一口飲んだ。そして、お茶を飲み、湯呑みを地面へ置くとクワッと目を見開き言った。
「お前なんぞにピカ太郎はやらんぞおぉ!」
ええ!? 急にクワッと目を見開いたと思ったら何言ってんの!? なんで娘の婚約者を拒否するお父さんみたいになってんの!?
「そんなにピカ太郎が欲しければ、この儂を倒してぇー! ……からにせえい!」
まさかの魔王対おじいさんの戦い!? 勇者と戦いに来たのに勇者を貰いに来たみたいになっておじいさんと戦うの!? 訳わかんないし、ゴードン君も素が出てる!
「ちょっ、ジジィ何言ってんだ! 魔王は俺と戦い来たんだっての!」
「そうですよ。おじいさん、この人はピカ太郎の婚約者じゃなくてお友達ですよ」
「だから、友達じゃねえって言ってんだろ! ババァ!」
「さてと」
「すいませんでした」
ミーティアさん、イフちゃん出すのはやめてよ。今イフちゃん出たら本当に誰が魔王か分からなくなるから。
「さあ! 早く、早く儂を倒せえい! 儂をめちゃくちゃにしてええいー!」
「ジジィ黙ってろ!」
「お茶しか出せなくて済まないねえ。代わりと言っちゃなんだけど、ピカ太郎のアルバムなんか見てみるかい? 今は時々変なこと言うようになったけど、昔はすっごく可愛いんだよお」
「ちょっ、ばあちゃん止めろよ! お、おい、魔王、外行くぞ! 外!」
うわ、もう勇者でも魔王でもなく親を恥ずかしがる子みたいになってる。親が恥ずかしいと思ってる思春期の子みたいになってるよ。そして、ピカ太郎によって外へと連れ出され、おじいさんとおばあさんは退場、背景は再び家の外へと変わった。
「ぐっ、ぐう、ふう。……ふ、ふははは! 観念しろ! お前はここで死ぬ運命なのだ! 自分の運命を恨みながら死ね!」
もう頑張って仕切り直そうとするピカ太郎に同情を感じる。あんな恥ずかしい思いしたのに、まだそのキャラを貫こうとするのはすごい。マルク君役とか関係なくて多分それ素だよね。
ピカ太郎は腰に指していた剣を抜き、僕へとその剣を振るう。これに僕が斬られてハッピーエンドってところかな? よーし、良い斬られっぷりを、って、え?
「あぶなっ!」
あぶなっ! ちょっとマルク君本気で斬ろうとしてたよ! こういうのは斬ったふりをするもんでしょ! いくら偽物でも……、あっ! かすったところの服切れてる! ちょっと、服切れるってもしかして、あの剣本物? いや、確かに良く出来てるなあなんて思ってたけど。最近のパーティグッズはすごいなあなんて思ってたけど、あれ本物か! ちょ、ちょっと待ってよ! それ危ないから! それとどうでもいいけど、僕の初めてのセリフが「あぶなっ!」になっちゃったじゃん!
「ちっ、避けねば楽に逝けたものを。まあ、いい。貴様が楽に死のうと苦しんで死のうが俺には関係ない。ということで死ねえ!」
再び勇者が振るう剣が僕へも迫る。ということで死ねえ! ということで。その剣を間一髪で躱すけど、一息つく間もなくマルク君の剣がまた僕を斬ろう迫ってくる。もうこれどうすればいいの?! マルク君は本気だし、先生は台本通り斬られろっていうし、でも、斬られなんてしたら僕死んじゃうし。……これはまさか、僕の役者魂が試されている? 違うか。僕が魔王だってバレている?か。
「いい加減、死ねっ!」
迫る剣の速さがさらに速くなる。マルク君なんかイライラしてない? 本当に本気で僕のこと殺しに来てない? は、速いって。あっ、やばっ。これ斬られるかも。
速くなったマルク君の剣速についていけず、斬られると覚悟した時、キィンという音が響きマルク君の剣が弾かれた。
「あんたっ、私のルシ、魔王に何してんのよ……!」
マルク君もといピカ太郎の剣を弾いたのはおばあさんが放った魔法だった。ミーティアさんとりあえずありがとう! でもそれだとおばあさん魔王側になってるから! もう何も言わずに引っ込んで!
「ああ? なんだこのクソババア! 何邪魔しやがる! てめえが邪魔しなきゃそのクソ魔王ぶっ殺せたってのによぉ!」
「ぶっ殺す? クソ魔王? このカワイイカワイイル、魔王様をぶっ殺す? ……何ふざけたこと言ってのよ! 殺すじゃなくて愛でるの間違いでしょうが! ババァって言ったあんたぶっ殺す!」
「上等だ! てめえからぶっ殺してやるよ、クソババア!」
ちょ、ちょっと二人共止めてよ! 僕のために争わないで! いや、ホントに! まだ劇続いてるから! ほら、観客みんな引いてるから! 劇の最中に喧嘩なんてしないでよ!
「ばあさんもピカ太郎も止めにせい! 殴るなら、儂を殴れえ! このクソババアにクソナルシよ! へい、カモーンぐふぅ、ありがとうございます!」
おじいさん止めに入ったんじゃないの!? 何自分の欲望優先してるのさ! ご丁寧に油追加までしてくれて良い迷惑だよ! もうダメだ! 先生なんとかしてー!
『……こうして勇者ピカ太郎によって悪しき魔王は倒され、世界に平和が戻ったのでした。めでたしめでたし』
録音そのまま流してきた!? 最後のナレーション流して無理矢理劇を終わらそうとしてる! あっ、幕まで降りてきた! 劇何一つ終わってないし、暴れてる二人も収まってないし!
「……あー、これでSクラスの劇は終了だ。それと同時にレクリエーションも終了だ。このバカ共に巻き込まれたくなかったらさっさと部屋に帰って寝ろ。以上」
無理矢理終了宣言をした先生。先生、こっちまだ終わってないです。後、他のクラスの人も逃げるように帰らないで下さい。見捨てないでこれをどうにかして下さい。……本当にこれどうしたら、って先生まで何帰ろうしてるんですか! 待って下さい! 僕も一緒に帰ります!
こうして夜のレクリエーションは終わりを迎えた。僕が部屋に帰った三十分後ぐらいに不機嫌なミーティアさんと死にかけのマルク君とご満悦なゴードン君が部屋に帰ってきた。……もう消灯時間だし寝ようね。
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