第22話 新入生合宿(4)

『雷は轟音を轟かし地を貫き、海は地を飲み込むかのように荒れ狂い、暗闇が全てを包み込み、地が暗黒に覆われし時、一筋の光と共に魔を退ける光の子が現れん』


 ナレーションと共に、大音量の効果音が響く。雷がなる音だったり、荒れ狂う海の音だったり。そして、舞台にはその効果音に合った照明や映像が映し出され、大迫力の幕開けとなった。そして、一度暗転して次の場面へ。どうでもいいけど地散々だね。


『むかしー、むかし。あるところにおじいさんとおばあさんがいました』


 ギャップ! 初めての場面と次の場面のギャップがありすぎる! 大迫力だった雷の音や海の背景からこのほのぼのとした音と古い家の背景に変わるって、同じ物語とはまったく思えないよ! 


『そして、そんな二人はいろいろあって光より生まれし子を育てることになりました。その子はピカ太郎と名付けられ以下略、魔王を倒しに行くことになりました』


 雑い! いろいろあってとか以下略とか雑すぎる! 確かに時間も限られてるしピカ太郎の誕生シーンとか成長シーンとか省略すべきところかもしれないけど、もう少しマシな省略方法あったでしょ。


「では、お爺様。お婆様。悪しき魔王を倒しに行ってきます」


 舞台の上に勇者ピカ太郎役のマルク君とおじいさん役ゴードン君、おばあさん役のミーティアさんが登場する。彼らの、と言うよりマルク君の登場で会場の女子から驚きのような声が上がる。まあ、確かにマルク君見た目は凄い良いよね。今はゴードン君からたっぷり体力貰ったからすごく元気で顔色も良いし、本当見た目だけは良い。見た目だけは。


「気をつけて行ってくるんですよ。それと、この旗と扇を持って行きなさい」

「ありがとう。では、言って参ります!」


『おばあさんはピカ太郎に旗と扇を渡し、それを受け取ったピカ太郎は二人の見送りを受けながら、魔王退治の旅へと歩み始めました』


 舞台はまた暗転し、それまでのおじいさんとおばあさんの家があった背景から何もない野原の風景へと変わる。そして、再び照らし出された舞台の上には勇者ピカ太郎の姿があった。おばあさんから貰った「本日の主役!」と書かれたたすきとペンで丸と三日月が書かれたうちわを装備したピカ太郎の姿が。


 おばあさんそれどっちも違う! 旗も扇もどっちも違う物渡してる! 旗はたすきだし、「本日の主役!」って完全にそれパーティグッズの奴でしょ! 扇もうちわだし! 裏と表に適当な丸と三日月書かれてるけど! どっちもちょっとおしいけどどっちも違う! それとなんでマルク君は誇らしげなの!? そのたすきつけてなんでそんなにドヤ顔してるの!? 全然誇らしくもかっこよくもないからね!?


「よし、まずは仲間を探しに行こう」


『旅に出たピカ太郎は初めに仲間を探しに行くことにしました』


 そのたすきのまま進むの!? まあ、もうマルク君が嬉しそうだし勝手にすればいいけど。で、えーと、仲間を探しに行くのか。確か、本当のお話なら三人の仲間を見つけて、その仲間と共に魔王を倒したって内容になってたんだっけ。


「仲間を……。なか、ま……?」


『仲間を見つけようと思ったピカ太郎でしたが、ここであることに気がついたのでした』


「……俺は光より生まれし勇者ピカ太郎。光から生まれ、あらゆる加護や祝福を受けし最強の存在。力も知恵も運も何もかもが最強の俺。そんな俺に仲間……? ……ふ、ふふ、ふははは! 何が仲間だ! 最強の俺に足を引っ張るだけしか出来ない仲間などいらぬ! 仲間など足でまといだ! ふははは!」


『ピカ太郎は自分より弱い仲間など足でまといでしかなく、不必要な物だと気がついたのでした』


 ええ!? ピカ太郎それでいいの!? 光より生まれし光の勇者とか言うんだから、始めのような好青年じゃなくていいの!? 一気にピカ太郎が悪者みたいに感じてきたんだけど。


「む? それに何故俺が魔王の城に行かねばならん? 魔王の城は奴のホーム。罠がしかけてあったりして絶対俺にとって不利な場所だ。そんな場所に俺がわざわざ出向いてやる? ふっ、馬鹿が。行くわけがないだろう! 誰が敵のホームで戦いたいと思う? ならば、魔王をおびき寄せ俺のホームで戦うまでだ!」


『ピカ太郎はわざわざ不利な敵のホームで戦うより、自分に有利な自分のホームで戦うことが良いということにも気がついたのでした。そして、ピカ太郎は魔王をおびき寄せることに成功しました』


 ええ……。勇者これでいいの……。もはや悪者みたいになってるよ。それよりそんな簡単におびき寄せられるの魔王。何なの、馬鹿なの?魔王。いや、違う。ブーメランじゃない。


(おい、何ぼーっとしてんだ。行け)


 先生からの指示が聞こえてきた。あっ、行かないといけないのか。おびき寄せられた馬鹿な魔王として舞台に登らないといけないのか。舞台袖からステージに上がり、遂に光当たる舞台の上へ。うわ、舞台の上に立つと緊張する。舞台の下には大勢の観客がいて、みんな僕を、舞台を見ている。


 ああ、ダメだ。少しでも観客の方を見たら緊張する。もうこれ以上観客を見るのは禁止。今はこの劇を演りきることに集中しよう。観客じゃなくて、今は対峙する勇者ピカ太郎を……、ちょっ、いい加減その「本日の主役!」取ってよ! 真正面から見たら笑けてくるから! そのたすきとそのドヤ顔やめて!


「ふふ、ふははは! よく来たな、魔王よ。ここがお前の墓場になるとも知らずのこのことやって来おって。馬鹿が! 世界の半分などやらぬ! 世界は全て俺様のものだ! さあ、死ねい! 魔王よ!」


 ちょっと!? それ絶対勇者が言うセリフじゃないよ! それ魔王が言うやつだよ! なんで勇者であるピカ太郎がそのセリフをそんなたすきつけながらドヤ顔で言ってんの!? どっちが魔王か分からないよ!


『遂に現れた魔王へピカ太郎は戦闘態勢を取ったのでした。そして、魔王と勇者の命を賭けた真剣勝負の幕が上がろうとしたその時、』


「おやおや、ピカ太郎、お友達かい?」


『おばあさんが現れたのでした』


 なんでおばあさんが!? おばあさんここは出番じゃ、って背景おばあさんとおじいさんの家になってる! え、ピカ太郎のホームって本当にホーム!? こんなほのぼのした場所で魔王と勇者が戦うの!?

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