第21話 新入生合宿(3)

「これより予定通りレクリエーションを開始する。よし、後はよろしく」


 昼ごはんの後、部屋で時間を潰していたら、気づけば夜になっていた。晩ごはんは自由に好きな物を好きな量だけ取れて、取りに行くたびにヤベェヤベェ言われてた。化物扱いは終わらないみたい。晩ごはんの後はお風呂に入り、就寝、と言うわけではなく僕たちは初めの集合場所の体育館に再び集まっていた。


「はい、分かりました。これからは実行委員が仕切らせてもらいます。ということで、盛り上がっていくぞー! イエーイ!」


 我らが担任様より進行を任された実行委員のイエーイに合わせてみんなイエーイ。学生特有のすごい盛り上がり。イエーイにウェーイにウーイェイ。でも、周りはすごく盛り上がってるけど、端にいる僕たちだけ全く盛り上がっていなかった。みんなすごく盛り上がってるけど、これから何するの?


「早速始めてくぜ! まずはFクラスの登場だあ! Fクラスは音楽と魔法の融合をみせてくれるぞ! では、Fクラスよろしくう!」


 始まった夜のレクリエーション。トップバッターはFクラスで、魔法を使った音楽を見せてくれた。その次はGクラス。次はEと順に色々な出し物を見せてもらい、そろそろAクラスの出し物が終わりそうだった。

 

「Aクラスのみんなサンキューだぜ! 素晴らしいパフォーマンスだったぜ!」


 うんうん、すごかった。さすがは真のエリートが集まるAクラス。魔法を使ったパフォーマンスを見せてくれたけど魔法のレベルが高かったね。綺麗で見惚れる場面もあったし、息を呑むような迫力ある場面もあった。すごく面白かったです。


「さあ、そして、次はみんなお待ちかね! 満を持してあのSクラスの登場だあ! では、Sクラスの皆様どうぞよろしくお願い致します!」


 そんな深々と頭を下げなくても。今まで軽い感じで話してたのにSクラスだけすごく丁寧になったね。それはともかく、次は大鳥トリSクラスかあ。一体何をするんだろう? きっと大トリなんだしすごいのを見せてくれるはず。……本当に何するの?


「……あ、あの、Sクラスの皆様。ご準備をお願いした、ああ、いえ! いつでも! いつでも構いませんので! 我々は待ちますので!」


 ええ、そんなこと言われたって準備も何もないんだけど。何も用意してないし、そもそもレクリエーションが何なのかを聞いてない。


「おい、お前ら何してんだ。とっととこっち来い」


 全員から期待の視線が集まる中、どうすることも出来ずただ座っていた僕たちの元へ先生が。ねえ、先生? 僕たち何するの? なんで舞台袖に連れて行くの?


「よし。ほら、行って来い」

「ちょっと待って下さい! よし、ってなんですか!? 何がよしなんですか!?」


 舞台袖に連れてこられて、突然行って来い。行って来いってどこに? あの舞台に? あの舞台に行って僕たちに何しろと?


「…………まあ、あれだ。人間忘れることもある。どんまい」

「開き直った!」


 先生、僕たちにこのレクリエーションのこと伝えるの忘れてたこと開き直ってる! どんまいって! どんまいで済む状況じゃないのに!


「ああ、もううるせえな。しょうがねえだろうが。この合宿どうやってバックレようかで頭いっぱいだったんだよ。こんなレクリエーションのことなんて完全に頭から抜けててもしょうがねえだろ?」


 先生全く反省してない! バックレることで頭いっぱいだったから許せって言われて許せる訳がない! 本当によく先生やってるね!


「まあ、安心しろ。ちゃんとお前らがやるもんは作ってきたから。……酒飲みながら作ったやつだけど」


 ……最後何かボソッと聞こえたけどもう聞こえなかったことにしよう。こうなったら前向きに考えよう。すごい駄作かもしれないけど何かしらの出し物はある。それをチャッチャッとやってこのレクリエーション終わり。うん、完璧。どんなにブーイングされたって全部先生のせいにしよう。


「もうどんなのでもいいですから、その作ってきたやつを教えて下さい」

「はあ、しょうがねえなあ」

「…………」

「冗談だよ。俺が作ってきたのは劇だ。お伽話を元に俺が色々加えた半オリジナルの劇だ」

 

 劇。半オリジナルの劇。先生は自信満々にそう言ってるけど、嫌な予感しかしない。半オリジナル。これが怖すぎる。もう原作があるなら原作通りにしてくれればいいのに。


「元にしたお伽話は『ピカ太郎』だ」

「ピカ太郎?」


 ピカ太郎ってなに? なんかピカピカ言って電気出したりしそうな気がするんだけど。ピカっと光るよピカ太郎みたいな感じ? 


「ああ? お前ピカ太郎知らねえのかよ。ピカ太郎っていうのは、かつての勇者が魔王を倒すまでのことを子供も読めるように簡単にした物語だ」


 ああ、なんだ。ちゃんと人が主人公だったんだ。かつて魔王を倒したとされる勇者のことを子供も理解出来るようにお話にしたやつか。


「光から生まれたピカ太郎をおじいさんとおばあさんが拾い、育て、成長したピカ太郎は三人の仲間を連れて魔王退治に行く。そして、魔王を倒し、魔王が持っていた財宝を強奪してめでたしめでたしってやつだ」


 ふうん。なんかどこかで聞いたことがあるような内容だけど、まあいいか。これをベースに先生が手を加えたものが今回僕らが演る劇と。もう完成されてるお話だろうし、、何も手を加えなくていいのに。


「理解したな? まあ、安心しろ。劇中にも俺が指示を出してやる。この通信用魔道具つけてろ。ナレーションは録音したやつを流す」


 先生に渡された通信用魔道具を耳に装着する。すると、テスト、テストという先生の声が聞こえてきた。これを使って劇中も先生から指示がくるのか。変な指示が来なかったらいいけど。


「配役はピカ太郎がマルク、おばあさんがミーティア。おじいさんがゴードン君で魔王がルシェだ」


 僕の役は魔王かあ。……まあ、劇の役だしね。別に魔王じゃないけど、劇の役だし、今だけ魔王になるよ。うん、別に魔王じゃないし。魔王なんて知らないし。


「よし、理解したな。じゃあ、始めるぞ」


 ……Sクラスによるピカ太郎のはじまりはじまりー。始めないほうがいい気がするのは僕だけかな?

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