第20話 新入生合宿(2)
「あー、あー、聞こえてるな。はい、じゃあ、これから一泊二日の新入生合宿を開始する。あー、面倒くせ」
前で我らが担任様が何か話している。でも、担任様の話しなんて全く頭に入ってこない。担任様の話しなんかより周りにいる同級生達のことが気になる。始まった新入生合宿。僕たちは今、参加者全員が集まっている体育館に居た。
「Sクラス……、ヤベェ……」
「……おい、……ヤベェって……」
周りから聞こえるヒソヒソ話し。どれもこれも僕らのことを話していた。やべぇやべぇって、何がやばいの? 先生の話し聞かずに僕らのことを見てヒソヒソ話してる方がやばくない?
「おい黙れ、ガキ共。気になってるようだから先に言っておくが、あの端にいる四人には関わるな。死者が出ると困る。俺が」
ちょっと!? いきなり何言ってんの!? なんで関わるな!? なんで死者が出る!? 何もしないよ! 僕は!
「そいつらは何でもやるからな。脅迫。責務放棄。誘拐からの放置。関わるとろくな事がねえ」
それ全部先生がやったことだよね!? 先生がやったことを生徒になすりつけないでよ!
「ヤベェ……」
「ヤベェヤベェ……」
「やばいよやばいよ……!」
真に受けないで! て言うか、やべぇ以外言うことないの!? エリートなのに語彙なさ過ぎ!
「分かったか? そいつらには関わるな。そいつらが何をやっていても無視しろ。その端にいるやつらはこの世に存在しない。いいな?」
自分の生徒を幽霊みたいに言わないでよ! て言うか、先生がそんな言うからヒソヒソからザワザワになって、視線も僕たちに集まってるよ! ああ、もう嫌だよ。針のむしろに座らせられてるよ。先生のせいで。
「……うふぅ。これは針のむしろ……。針、針、針千本飲ます、指斬った。くっ! 内と外から針で攻められ、更に指までっ……! ゾクゾクッ……!」
ヒソヒソ声に混じって前から後ろから聞こえていたゴードン君の声。いいよね。どんな状況でも楽しめるのは。純粋に凄いと思う。尊敬はしない。
「えー、言う事は全部言ったから解散。部屋に荷物置いた後は外の調理場に集合な。そこで昼飯作りだ」
先生から雑に解散が告げられ、針のむしろから脱出するためにそそくさと体育館から出る僕たち。ゴードン君はもう少しむしろの上に座ってるみたいだけど。合宿の最初のプログラムはお昼ごはん作り。外にあるキャンプする時とかに使う調理場でカレーを作る。それよりまずは、部屋に荷物を置きに行かないと。
全員で集合していた体育館から各クラス男女別の部屋に移動する。部屋の扉を開けてみると、中には二段ベッドが二十個ぐらい壁際にあって真ん中にはみんなでトランプしたり喋ったりすることが出来るスペースになっている。でも、僕らは四人。ベッドはこんな要らないし、こんなスペースがあったって何もすることはない。っていうか、ミーティアさんはこっちの部屋じゃないよ。女子部屋に一人で行ってください。
全員荷物を部屋において次の集合場所に移動する。次は外の調理場へ。四人しかいないからか移動がスムーズ。調理場には一番乗りだし、僕達が移動してから遅れること十数分後に他のクラスが集まりだしてきた。楽しそうにおしゃべりしながら。僕達ずっと無言だったのに。
「あー、全員集まったな。言ってた通りここでお前らの昼飯カレーを作ってもらう。ちなみに俺ら教員の昼飯は高級弁当だ。まあ、お前らには関係ないな。ここでお前らはカレー作って、食って、後始末する。その後は夜のレクリエーションまでは自由だ。問題は起こすなよ。じゃあ、後は各自適当にやってろ」
先生は言うべきことを言った後、颯爽と施設内に消えていった。きっと、お昼の高級弁当を食べに行ったんだろうな。いいなあ。先生は高級弁当で生徒は手作りカレーか。断然弁当の方がいいと思います。
「いいわよねえ。教員だからって自分達は高いもの食べて、あたし達はこの肉の少ない安物カレー。しかも、作らないといけないし」
「まあまあ。これも親睦を深めるためのものでしょ。……僕たちからしたらいつもやってることで意味ないけど」
協力して昼食作って一緒に食べる。親睦を深めるには効果的かもね。ほら、他のクラスはすごく楽しそうにやってるよ。キャッキャッ言いながらじゃがいも切ったり、米炊いたり、すごく楽しそうだね。他のクラスは。
「ミーティアさん、切り終わった。次は?」
「それ切って」
「了解」
「ミーティア殿、飯盒炊爨の用意が出来た。もう炊いて良いのか?」
「いいわよ。こっちも煮込めばもうおしまいだし」
周りが楽しそうにやっている中、僕たちは淡々と作業をこなす。いつも通りミーティアさんを中心にミーティアさんの指示通りにやっていく。手際が良すぎてもう終わりそう。他のクラスはいいなあ。あんな楽しそうにキャッキャッウフフやってて。
「米炊けたわね。カレーも出来たわね。じゃ、食べましょうか」
わーい。カレー完成。お米もちゃんと炊けたし、カレールーもちゃんと出来た。おいしそう。でも、親睦は何も深まってない。いつも通り、というより作るメニューが簡単だからかいつもより早く終わった。もういいや。冷める前に食べよう。
「いただきますー」
もぐ。うん、おいしい。おいしいけど何の感動もない。仲間と協力して作った感動とかは何もない。普通の昼食。しかも、いつもより貧相。カレーだけって。
「お、おい見ろよ……」
「マ、マジかよ……」
僕たちがカレーを食べていると周りから何かヒソヒソ声が聞こえる。何? それより君たちまだ作れてないの? 君たちが作り終える頃には僕たち食べ終わって後始末してると思うよ。
「すげぇ。あいつらカレー食ってるよ……」
「ヤベェ。あいつらカレー食うのかよ……」
食べるよ。カレーでも何でも食べるよ。みんなと食べる物なんて変わらないよ。みんなSクラスだからって化け物みたいな扱いするの止めようよ。みんなと一緒なんだよ。僕は種族違うけど。
「……ごちそうさまでした」
ささっとカレーを食べ終え、後片付けはゴードン君が一人でやってくれるみたいだから、この居心地の悪い調理場を後にする。これからは自由時間だけど、どこにいってもこの居心地の悪さが付き纏いそうだから、部屋でお昼寝することにしよう。
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