第19話 新入生合宿

「ふははは! 観念しろ、お前は今日ここで死ぬ運命なのだ! 自分の運命を恨みながら死ね!」


 声高々に僕の死を叫び、勇者は手に持った剣を振るう。振るわれた剣は僕の命を刈り取ろうと迫る。


「あぶなっ!」


 迫り来た剣を間一髪で避ける。しかし、完全に避けきれた訳ではなく、かすってしまった服に切れ目が入った。


「ちっ。避けなければ楽に逝けたものを。まあ、いい。貴様が楽に死のうと、苦しんで死のうと俺には関係ない。ということで死ねえ!」


 再び勇者が振るう剣が僕へと迫る。ということで死ねえ! ということで。……ああ、なんでこんなことになったんだろう。








「全員準備出来たか? 忘れ物はねえか? あっても取りに帰って来れねえからな」


 学園生活が始まり早二ヶ月。僕たちは初めての学園行事に参加するため、荷物を準備し、教室へと集まっていた。


「大丈夫だな。つっても、たった一日ここに帰ってこねえだけだ。何か忘れてたりしても一日ぐらい我慢しろ。俺だってこのクソ面倒くせえ行事に我慢して参加するんだ。お前らも少しは何か我慢しろ。よし、お前らその荷物持ってくな」

「訳がわからないです。先生」


 行く前からクソ面倒くさいとか、我慢して参加してるとか言わないで欲しい。こっちは少しウキウキしてるのに、先生の一言で少しテンション落ちちゃったよ。生徒のやる気を削ぎに来る先生なんて酷いもんだ。


「はあ。新入生合宿だと? 一泊二日で親睦を深めようだと? こっちは毎日合宿状態なんだよ。今更深める親睦もねえし、一泊二日程度で変わるもんなんてねえんだよ。なのに、何で参加しねえといけねえんだよ。強制参加でも、こいつらだけで行かせろよ。引率なんて必要ねえだろうが。何が悲しくて本校の奴らと会わなきゃいけねえんだよ」

「先生、生徒の前で堂々と愚痴るの止めてもらえませんか」


 更にやる気を削いでくる先生。そんな愚痴らないでよ。先生の愚痴聞いてるとこっちまで嫌な気分になってきたよ。はじめのウキウキを返してよ。楽しみにしてたんだよ。新入生合宿。


 新入生合宿。勇者学園に入ってきたばかりでまだ親睦も深まってないだろうし、これやって一気に親睦深めてね、的な初めての学園行事。そういう合宿とかで使う宿泊施設に泊まり、新入生同士で親睦を深める。普段から合宿状態のこのクラスに必要はないかもしれないけど、学園行事はこのクラスも基本的に参加しないといけないとなっているらしい。基本的に。まあ、本校の人達も参加するし、本校の人達と少しは仲良くなれればいいかなって感じ。違った。僕達が参加させてもらって、仲良くしてもらうんだった。


「何よ。そんなに本校の奴らと会うのが嫌なの?」

「嫌に決まってんだろうが。いいか。この勇者学園ってのは全国から選ばれし、超絶エリートしか入れないもんだ。生徒は全員エリート。教える側の教師陣ももちろんエリート。そして、エリートっていうのは、真面目で論理的で厳しい奴が多い。そんな奴らと俺が馬が合うと思うか? 思わねえだろ? 俺に合うのはお前らみたいな人間のクズだけだ」

「ここまできっぱり言われると清々しいわね」


 生徒のことをクズ呼ばわりする先生。本当、よく先生なんてやってるね。この学園エリートしか入れないんじゃなかったの? なんでこんな先生が先生やってんの? まさか脅した? その怖い顔で学園長脅した?


「あー、もう面倒くせえ。あんなどいつもこいつも真面目くさって、無個性の塊みてえで、そのくせプライドだけは人一倍高くて、くそつまらねえ奴らとなんか会いたくねえ。やっぱり、俺にはお前らが一番だ。馬鹿で、クズで、誇りの欠片もねえ、退学の二文字をちらつかせりゃ大人しく言うこと聞く力の無い民衆のようで、俺が王として君臨出来るこのクラスが一番だ」

「酷い過ぎる王ね。そろそろ革命起こしましょ。ほら、やりなさいよ。珍獣共」

「ミーティアさんも中々酷いよ」


 独裁者に、その独裁者に立ち向かう組織の独裁者。どっちも対して変わんないよ。ほら、ミーティアさんのせいでゴードン君が先生にタックルしにいっちゃったじゃん。思いっきり顔面蹴られてるけど。そもそもタックル低いし、遅いし、蹴ってくださいって言ってるようなもんじゃん。まあ、それが狙いなんだろうけど。ゴードン君、次はミーティアさんをチラチラ見るのやめて。失敗のお仕置きを期待しないで。


「ちっ! あーあ、もうこんな時間か。もう行かねえとな。あー、面倒くせえ。行きたくねえなあ。でも、行かねえとなあ。遅れたらまた何か言われんだろうしなあ。あー、でも、やっぱり面倒くせえなあ。もう行くの止めにしてえなあ。あー、」

「もうグチグチうるさいわね。あんた、少しはこいつを見習いなさいよ。まるで屍のように静かよ」


 ミーティアさん、それ多分屍であってる。生きる屍マルク。絶賛、屍中。あっ、白目向いてる。舌もちょっと出かかってる。本格的だなあ。


「あー、…………よし! はい、行くぞ! 行くったら行くぞ! 早くしろ! 俺の気が変わらないうちに!」


 そう言うと先生は、ダッシュで教室から出て行き、転移門のある教室へ。あれだけ散々一方的に愚痴って、一人でウジウジ面倒だって悩んでて、決めたら決めたで、生徒放ったらかしで行動する。本当によく先生なんてやってるなあ。


「はあ。なんであんな先生が担任なんだろうなあ……」


 雑で適当で人の悪口言いまくって、思いつきで行動して人に罪を擦り付けるような、先生がなんで担任なんだろう。もうちょっとマシな先生が良かったなあ。


「ルシェ君。そんなの簡単よ」

「え?」

「生徒もこんなのだからよ」

「……ああ、そっかー……」


 そんな生徒たちは退学が怖いので仕方なく先生の後を追った。

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