第18話贖罪(3)
「服があぁぁん! 溶けていくうぅ!」
植物のツタに捕まり、そのツタから出る物質で不自然に溶かされた服。大きく開脚させられ、全然高くない野太い声で悲鳴を上げるゴードン君。目の前に広がる光景はとても直視出来ない悲惨な光景だった。
「ああん! ツタが、服の中にぃ! そこはダメェ!」
ツタに溶かされ、はだけた胸元からツタが服の中に侵入する。そして、ツタはそのまま這い登り、ゴードン君の首を締め付ける。服を溶かすんだから服の中に入る必要無いし、首締め付けられてるのに、声を前と変わらず上げられてたりするけど、そんなことどうでもいい。どうせあとちょっとしたら終わるだろうし。
「あっ! ヒリヒリするうぅ! このツタヒリヒリするうぅ! 気ん持ちいいぃ!」
そりゃ服溶かすんだからそんなのに触れたらヒリヒリするだろうね。うんうん、ヒリヒリ気持ちいいね。あっ、無言になった。
「……ヒリヒリするんじゃあああぁ!」
今まで気持ちいいとか叫んでたゴードン君が一瞬無言になり、その後、ブチ切れ。うん、知ってた。
「この程度のヒリヒリで儂を溶かせるとでも思うたか!? ふっざせんなああ!」
ブチ切れて絡まれていたツタを引きちぎり、ツタの元となっている植物をボコボコにするゴードン君。この怒りはいつ収まるんだろうな。まだかなあ。……あっ、終わった?
「ふう、ふう。植物如きが儂を溶かせるとでも思うたか。自惚れるでないわ。……む、これはルシェ殿。お恥ずかしいところを……」
いや、「お恥ずかしいところを……」なんて言うなら少しは嫌そうな顔してよ。にやけないでよ。もう別にいいけど。
「ゴードン君。猿見つかった?」
多分忘れているだろう僕達の目的をゴードン君に聞く。ゴードン君。今回の目的は植物でもきのこでもなく猿だからね。猿はゴードン君とマルク君じゃなくて、この森にいる猿だからね。
「ふっ。何も心配することはないであろう。何故なら、ここに猿はいるからだ! ウッキー!」
「ミーティアさんとマルク君探しに向こう行こうよ」
予想通りの答えが帰ってきたからスルーして、ミーティアさんとマルク君を探しに行くことにする。ほら、嬉しそうに叫んでないで早く行こうよ。珍種候補その一。
珍種候補改め、ゴードン君と共に残りの二人を探しに森をさまよう。本来の目的である猿も一応探しつつ。見つからなかったら珍種二種を差し出せばいいだけだし、適当に探していると、向こうの方から何かが燃えているような臭いと雄叫びや何かが壊れるような轟音が聞こえていた。
「むむ! これは何やら危なそうな音と臭いが! ルシェ殿はここで待っていて下され! 儂が一人で確かめに行ってくる! 決して邪魔しないで下され!」
「言うのは最後の一行だけで良かったね」
ゴードン君の本音を聞いた所で、元から邪魔する気など微塵も無いから二人で音の方へ向かう。もうこれも大体予想つくけどね。イフちゃんが燃やしてるんでしょ。面倒くさくなって森ごと燃やしちゃえば、猿とか探さなくていいよねとかいう思考になったんだろうね。
そんな予想をしながら音の方へ向かい、向かった先で予想通りの、いや、ちょっと予想外の光景を目撃する。
「グオオオォォ!」
「イフちゃん落ち着いて! イフちゃん! メッ!」
目撃した光景は予想通りミーティアさんとイフちゃんが居て、イフちゃんが森を燃やしていた光景だった。ただ予想と違うのはイフちゃんの様子。イフちゃんはいつもみたいに杖から指だけ出すんじゃなくて、全身杖から出ていて、燃やすというより壊している。木を蹴ったり、地面を殴ったりして大暴れ状態。何これ怖い。
「ミーティアさん、どうしたの、これ?」
「あっ、ルシェ君! いやね、猿を見つけてイフちゃんに捕まえて貰おうとしたんだけどすばしっこくて、それで、捕まえようとしていたイフちゃん木に突き指しちゃって、怒っちゃって……」
それでこの状態になったと。突き指して怒ったイフちゃん大暴れで、頭に血が登ってるのかミーティアさんの声も聞こえてなく、暴れ回ってると。怖っ。イフちゃん怖。全然かわいくない。
「へいへーい! 猿に遊ばれる間抜けなイフリートゥー! 悔しかったら儂を捕まえてみろぃ!」
「何煽っての!? 自分焼かれたいからって煽らないでよ! 被害が増える!」
興奮しているイフちゃんを別の意味で興奮しているゴードン君が煽る。捕まえてみろとか言いながら大の字で構え一歩も動こうとしないゴードン君。君が焼かれるのは自由だけど、煽ったら他にまで被害出るから止めてよ。
「グオオオォォォ!!」
「へいへいへーい!!」
「だから、止めてて!」
煽りまくるゴードン君にイフちゃんの怒りは更に上がり、怒り狂ったイフちゃんはゴードン君をタコ殴りにする。タコ殴りにされたゴードン君はすごく嬉しそうだけど、こっちは笑えない。イフちゃんの攻撃はゴードン君だけでなく周りにも飛び火し、あたりは火の海と化している。
こんな時マルク君が居れば、イフちゃんの体力奪って鎮圧出来るのに、こんな時に居ないんだからマルク君役立たずだなあなんて思ったけど、僕も何も出来ないから僕も役立たずだなあって思いました。ああ、熱くて頭ぼーっとしてきた。
「……イフちゃん」
「グオオオォォ!」
「……イフちゃん。……死にたいの?」
「グオオ!?」
ゴードン君をタコ殴りにしていたイフちゃんの動きが止まる。ピタッと動きを止め、ある一点へと視線を移し、硬直する。その視線の先にはミーティアさんがいた。
「イフちゃんおすわり」
そう言われたイフちゃんはすごい勢いで正座をする。そして、そんなイフちゃんに対してミーティアさんの説教が始まった。
「前から言ってるわよね? もう少し落ち着きを持ちなさいって。怒っても冷静になれるようになりなさいって。それなのに、何? この有様は? 取り敢えず、火消しなさい。早く」
ミーティアさんの有無を言わさぬ威圧感にイフちゃんはすぐさま辺りを燃やしていた火を消した。火は消え、辺りには燃えカスと木々が焼ける臭いだけとなった。
「感情の一つも制御出来ないの? あれだけキツく言ったのに忘れたの? またお仕置きされたいの?」
正座したイフちゃんを矢継ぎ早に責めるミーティアさん。なんか、僕まで怒られてる気になってきた。正座しようかな。あっ、ゴードン君もうしてる。じゃあ、僕も。
僕もゴードン君も怒られていないのに正座し、その説教を聞いていた。もう怖い。さっきの暴れてるイフちゃん怖いなんて言ってたけど、あれの数倍怖い。有無を言わさぬ威圧感からは、少しでも口答えをすれば即殺されるかのような迫力がある。
「……分かった? 仏の顔も三度までっていうけど、もう二度目よ。次はないわ。分かったわね」
コクコク、というよりブンブンと激しくうなづくイフちゃん。うん、分かるよ。僕も関係ないのに正座して、説教聞いて、今少し涙出そうになって、うなずいてるし。怖いよね。絶対逆らえない怖さだよね。
「はあー。もうまったく。って、なんでルシェ君まで正座してるの?」
「なんとなく……」
「まあいいけど。ほら、立って。逃げた猿捕まえに行かないと。行かなくてもいいけど」
その後、頑張って探したけど、日も暮れてきて捜索は断面することになった。捕まえられなかったから、その代わりとしてギルドの掃除をさせられた。こんな掃除よりあの二人を持っていってくれてよかったのに。
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