第15話 イフちゃんと戯れる

「さってと。サクッと終わらせて美味しい料理作らないと! ルシェ君期待しててね!」


 やる気になったミーティアさんは一つ伸びをした後、手に持っていた彼女の背丈ほどありそうな長い杖を前へとかざす。どうしよう……。応援すべきなんだろうけど、もし、その作る料理がワームを使った料理だったら……。……頑張れワーム。


「いらっしゃい! イフちゃん!」


 杖をかざし、ミーティアさんがそう言った後、地面に何かの魔法陣が浮かぶ。そして、そこからイフちゃんが出てきた。


「やっちゃって!」


 現れたイフちゃんはミーティアさんの指示通りやっちゃう。


「キャー! ナイスよ! イフちゃん!」


 やっちゃたイフちゃんにミーティアさんはグッと親指を突き上げる。それに対し、振り返ったイフちゃんもグッと親指を突き上げ返す。


「今日もスーパーキュートね!」


 ミーティアさんは嬉しそうにイフちゃんとはしゃぎだした。


 …………はっ! 余りにも展開が早すぎて呆気にとられてた内に全部終わってる! もうツッコミたいとこだらけだけど、まずはワームどうなったの!? ご飯の材料にならないよね!?


 ツッコミどころ満載のミーティアさんとイフちゃん。まずはワーム……、じゃなくてそのイフちゃんのこと説明して? ミーティアさん?


「ミーティアさん? そのイフちゃんって……」

「ん? どうしたの? ルシェ君? イフちゃんはイフちゃんよ?」

「うん、それはわかってるけど……。そのイフちゃんは……」

「イフリートのイフちゃんよ?」


 やっぱりそうなんだ。見た目が似てるだけかと思ったけど、本当にイフリートなんだ、イフちゃん。


 イフリート。人間や僕達魔族が住む世界とは別の世界に住む精霊と呼ばれる存在の一種。鬼の様な見た目の炎で出来た体で、あらゆる物を燃やし尽くすと言われる存在。今だって地中にいるワームを討伐するためにデコボコの大地ごと焼き尽くしちゃった。火事とか言うレベルじゃない。


「イフちゃん……。イフリートのイフちゃん。……スーパーキュート」


 イフリートを直接見るのは初めてだけど、うん、なんだろう。色んな感想があるけど、一番はミーティアさんの感性が分からない。これがスーパーキュートなんだ。……ミーティアさんは座右の銘と己の正義を改めたほうがいいと思います。


「……あっ! 大丈夫よ。ルシェ君。この子はあたしの指示以外で人間を襲ったりしないわ」


 いや、そんなことは聞いてないんだけど。でも、一応ツッコんどこうかな。あたしの指示で襲うってなに?


「そりゃ、まあ、気に食わない奴をちょっとやっちゃたり? でも、安心して! ルシェ君にそんなことは絶対しないわ! 寧ろ、ルシェ君を守るわ!」


 ええ、こんな怖いのに守られるのって。精霊だし、人間や魔族よりも力はあるだろうけど、やっぱり見た目が怖い。鬼の様なと言うより完全に鬼だし。それも全身炎だし。これのどこがカワイイんだろう? カワイイというよりコワイイ。


「ほら、ルシェ君に挨拶よ! イフちゃん!」


 そう言われたイフちゃんは両手をピシッと体の横に添え、深々とお辞儀をした。そして、お辞儀をした体勢のまま顔のみグッと上げ、一つニッコリスマイル。お辞儀が終わり、元の体勢に戻った後、グッとミーティアさんにやった様に親指を突き上げる。……あれ? 何だかカワイイ? コワカワイイ? ギャップ萌え? あれ? 何だか僕、ミーティアさんと同じ感じになってきてる?


「……え、ええ。握手ってこと?」


 親指を戻した後、イフちゃんは僕に指を一本差し出してきた。僕よりも遥かに大きいイフちゃん。これはきっとイフちゃんからの握手なんだろうけど、握手なんかしたら僕燃えるよね?


「大丈夫。イフちゃんは燃やそうと思ってない限り、触っても暖かいぐらいなだけだから。燃えることもないし、そんなに熱くもないわよ」


 ええ、本当かな? だってこんなに燃えてるのに。触ったら絶対熱いでしょ。……ああ、イフちゃんがズイっと指を近づけてきた。もうしょうがない。やけど覚悟で行こう。やけどで済んだらいいけど。


「んっ!……あ、あれ? 熱くない?」


 覚悟を決めて握ってみたイフちゃんの指。炎で出来た指を握ると、それには熱さはなくほんのりとした暖っかさと炎を掴んでいる不思議な感触があった。なにこれ、気持ちいい。


「ねー。言ったでしょ? 熱くないって。でも、イフちゃんの機嫌の次第だし、突然熱くなるかも」


 ええ、それすんごくコワイイなんだけど。次の瞬間には燃やされたりするわけ? ああ、早く離したい。でも、この不思議な感触病みつきになる……!


「イフちゃん。他の野郎共にも面倒だけど挨拶しちゃった。ムカついたら燃やしていいから」

 

 イフちゃんは僕と挨拶を終え、他の二人にも挨拶をする。ああ、もう少し触ってたかったなあ。後でお願いしてもっと触らせてもらおう。


 僕から手を離し、まずはゴードン君へと握手のため指を差し出す。


「ミディアムレアでお頼み申す……!」


 なぜかぽっと頬を赤らめて握手するゴードン君。誰もゴードン君の焼き加減なんて興味ないよ。あっ! イフちゃん、真に受けちゃダメだから! 焼かないであげて!


「ふぅ、はほぉ、よ、よろしくしてやってもいいぞ……」


 次にマルク君と握手するイフちゃん。あっ、イフちゃん。それは焼いちゃっていいやつだから。ヴェリー・ウェルダンでお願い。


「はい、よく出来ました! 流石はイフちゃん! いい感じよ!」


 全員と挨拶を終えたイフちゃんへミーティアさんがグッと親指を立て褒める。そのいい感じってちゃんと挨拶できた事に対するもの? それともマルク君の焼き加減に対するもの?


「さてと、ワーム……って思ったけど、これじゃあきっともう黒焦げよね。しょうがない。食材は町で買おっか。あっ、イフちゃん火消して」


 イフちゃんは燃え盛る大地の炎を一瞬で消し去る。炎を自在に操れるイフちゃんすごいなあ。……イフちゃん、ナイス。危うくワームを食べることになりそうだったよ。


「イフちゃん今日ありがとう! ゆっくり休むのよ」


 ミーティアさんがそう言うとイフちゃんの姿はスゥと消えていった。精霊界に帰ったのかな? でも、すごいなあ、ミーティアさん。精霊を使役するなんて魔族でも難しいことなのに。呼び出すことは出来ても、こんな風に言うこと聞いてくれないし、そもそも呼び出すことがすごく難しいことなのに。


「ミーティアさん精霊を呼び出して使役出来るなんてすごいね」

「使役? 違う違う。頼んでるだけよ。強制力なんてないわ」

「え?」


 てっきり洗脳や催眠系の魔法を使ってると思ったのに。そう言えば、ミーティアさんそういう魔法使えないって言ってたっけ?


「それにイフちゃんはあっちから呼び出してるわけじゃないの。この杖の中にイフちゃんはいつもいるのよ」


 ミーティアさんが持っている杖の中にイフちゃんが? うわっ! 杖の中からイフちゃんの指が! 本当にこの中にいるんだ。……気持ちいい。


「さっ、帰りましょ。さっさと帰らないとまたあの寂しがりやが面倒くさいことやってきそうだわ」


 ワームも多分討伐し、特別授業クリア。なら、すぐに帰らないと。またドラゴン誘拐事件が起こりそうだしね。


 ミーティアさんとイフちゃんのことを知った二回目の特別授業は終わった。学園に帰った後に、ミーティアさんがワームの見た目をした何かの肉詰め作ってくれた。……完食した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る