第14話 巨大ワームと戯れる

「うわあ。すごいなあ」


 目の前に広がる広大な大地。それはもう広大で向こうまでずっと大地が広がっている。……デコボコした大地が。


「一体どこにいるんだろう? 巨大ワーム」


 デコボコしたこの大地は全て一匹のワームによるもの。僕達がここへ来たのもそのワーム討伐のため。通常は人より少し大きいぐらいで芋虫のような体で先端に大きな口が付いている中々グロテスクなワーム。それが今回のはこの有様を見れば分かるように巨大化している。ぽっかりと開いている穴を見てみると、その穴の直径はゴードン君が二人横に並んでも余るぐらい大きい。巨大すぎる。


「数キロ先まで荒らされるし、土の中にいるし、どこにいるかなんて見つけるなんて骨が折れるなあ」

「その死にかけを近くの穴に落とせばワームが寄ってくるかもしれないわ」

「や、やめろぉ……」

「餌作戦は禁止」


 ドラゴンに続き今度は危うくワームの餌になるところだったマルク君。ミーティアさん止めてあげて。もう少しでマルク君本当に落ちていくから。


「ならば、その役儂が引き受けよう! ワームの餌となるか、暗闇の中孤独感を味わうか考えただけでゾクゾクッ……!」

「餌から離れようよ」


 すぐにみんな餌作戦へと行こうとするんだから。もう少しちゃんと考えようよ。


「でも、こんな広いと探すために移動するだけで大変だなあ。すごく疲れそう」

「大丈夫よ。ルシェ君。馬がいるじゃない」

「さあ、皆のもの! 儂の背中へ乗れい! ヒヒィン!」

「こんな馬嫌だよ……」


 四つん這いなりキラキラした瞳で乗るように見つめてくるゴードン君。そんな瞳で見られても乗らないから。


「じゃあ、やっぱりこれしかないわね。ほら、とっとと落ちなさい」

「止めてくれえぇ……」


 再びグイグイとマルク君を落とそうとするミーティアさん。もう止めてあげてよ。そんな不味そうな餌じゃワームも来ないよ。


「はあはあ。危なかった……。この俺様のことをなんだと思ってやがる……」

「何って役立たず」

「な、なに!? 俺様を役立たずだと……。馬鹿が。俺様が超有能であることを証明してやる! ルシェ! 体力寄越せ!」

「なんで僕……。それに行く前にゴードン君から貰ったでしょ」


 マルク君はここへ来る前にゴードン君から体力を貰ってた。そうでもしないと歩くペースが遅すぎて置いていくことになるから。それで置いて行こうとしたらマルク君がゴードン君から無理矢理体力奪ってた。


「うるさい! 黙って俺様に体力をほおっ! ぐえほ! がはぉ! ぐうう、た、体力を、早く体力を寄越せえぇ……」

「危ない薬の中毒者みたいね」


 完全に薬やってますみたいな目で迫ってくるマルク君。怖いよ。でも、この状態のマルク君弱いし危険にはまったく思わないけど。ほら、落ち着いて。落ち着いてくれないと穴に落とすよ。


「むっ! じ、地面が揺れておる!」

「え? あっ、本当だ」


 未だに四つん這いで馬の姿勢を取っているゴードン君が地面の揺れを感じ取る。そして、僕達もゴードン君に言われて揺れに気づく。


「あれ? 揺れが段々大きくなってるような……」


 はじめは言われないと気づかないほどの小さな揺れは徐々に大きくなっているような気がする。


「それに何か近づいて来てるような……」


 揺れは更に大きくなり、揺れと共に何かが近づいて来てるような感じがする。ああ、何だか嫌な予感。


「この揺れはワームが近づいて来ている証拠! さあ、ワームよ! 大地の中から姿を現し、儂を天高く突き飛ばすのじゃあ!」


 うん、ワームが近づいて来てるのは間違いないけど、天に突き飛ばされる必要ないんじゃないかな? まあ、好きにすればいいけど。


「さあ来い! その怒涛の突進で儂を突き上げよ! そして、儂を天高く空へと――」


 ゴードン君の祈りが終わる前にワームはその姿を地の中より現した。そして、地中から出てきた勢いで天高く空へと突き上げた。……マルク君を。


「ぐほおぁ! 何故に俺ーー!」


 ワームに突き上げられたマルク君は空へと舞い上がった。バイバイ。マルク君。そのまま空の旅をずっと楽しんできなよ。


 さらば、マルク君とマルク君との別れを惜しんでいる内にワームはまた土の中へと消えてしまう。あっ、しまった。チャンスだったのに。


「何故だ! 何故儂ではない! 何故マルク殿が突き上げられ天へと行き、儂はまだ地へと立っているのだ! ぐうう! 恨めしい……。恨めしいぞ、マルク殿!」

「いや、恨む相手が違うし、本来の目的それじゃないよ」


 ゴードン君、恨むならマルク君じゃなくてワームでしょ。それと突き上げられるのが今回の目的じゃないから。討伐が目的だから。忘れてたけど。


「うう、ううっ……、ワー、む? ……おお? おお!? 揺れが……! 揺れがまた戻ってきておる!」


 一度は収まった揺れだけど、また少しずつ揺れ始めている。どうやら、ワームが戻って来たみたい。


「ワーム! ワームよ! 儂はここじゃあ! 今度こそ、今度こそ儂を空へ!」


 ワームがまた戻って来たことを知り、大声でワームへアピールするゴードン君。まあ、突き上げられたいなら勝手にやればいいけど、巻き込まれるのは勘弁だし離れておこう。どうぞ一人で飛んで行ってください。


「はあ! 来るぞ。来る。来る来る来る、来ごおはぁあああぁぁ!」


 再び地上へと姿を現したワームにより今度こそゴードン君が空へ。突き上げられる瞬間のゴードン君の顔はとても満足そうで、満面の笑みだった。今回の目的それじゃないんだけど。あっ、マルク君おかえり。


「あっ! マルク君なんかに気を取られてる内にまたワームが地面の中に帰っちゃた」


 ゴードン君が行ってきますして、マルク君がただいましたのに気を取られて、ワームのことをすっかり放置。結果、ワームは再び地面の中に。どうでもいいけど、行ったり来たり大変だね。


「また探さないと。ああ、待ってたら向こうから来てくれるのか。でも、あんなの嫌だしなあ」


 あんな風に空飛ぶなんて嫌だし、かと言って動いて探すのも嫌だしどうしようか。うーん。色々考えたけどやっぱり餌使うのが一番楽かな。ほら、マルク君。空の次は土の中に行ってみようよ。


「はあ。まったく使えない男二人ね。ルシェ君、あたしに任せて。ワーム討伐して、美味しいご飯作ってあげるから」


 そう言ってミーティアさんは僕より一歩前へと歩み出た。……ご飯ってワーム使わないよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る