第12話 走れ! マルク!(2)
「おほう! 竜の尾はまるで鞭よう! ぎん持ちいいぃぃ!!」
「あいつ、悦んでる時はテンション高くて別人みたいね」
音のする方へと行くと、勢い良くドラゴンの尻尾に打たれて、嬉しそうな様子のゴードン君がいた。
「おお、来たのか! この竜は、ぐほおう! 師範殿があはん! か、看板……」
「看板?」
ドラゴンと楽しそうに遊んでるゴードン君が教えてくれた看板。そこにはこう書かれていた。
『このドラゴンは学園が管理するドラゴンの一匹だ。本来は研究用として生徒及び教員に貸出したりはしないが、俺が無断で連れてきた。言わば、誘拐だ。なので、それがバレると俺は非常に大変なことになる。そこで、お前達にはこのドラゴンを無傷で確保して貰う。傷一つでも付けてみろ。俺もお前らもジ・エンドだ。だから、頑張れよ。健闘を祈る。いや、マジで。
PS:餌やるの忘れてたから凶暴化している。すまんな』
「何してんの!?」
先生何してんの!? ドラゴン誘拐って前代未聞って言うか、誰もやろうと思わなかったて言うか、もう色々何してんの!? って言うか、なんでここに放置してんの!? 今回の罰のためにわざわざ用意したとしても危な過ぎでしょ! 色々と!
「あのクソ教師何考えてんのよ! 餌をやり忘れるってどう言うこと!」
「そこ!? ミーティアさん、そこ!?」
ミーティアさん怒るのそこじゃないよ! ドラゴン誘拐と放置のところだよ! 誘拐犯のくせに、誘拐したの放置して、僕達に捕獲しろとか言ってるところだよ!
「冗談よ。はあ、まったく、あの教師は何考えてんのかしら。こんなの連れてきたところで大した罰にならないわよ」
ドラゴンは魔物の中でも上位に位置する。でも、強いと言っても所詮魔物。僕の敵でもないし、今もゴードン君に傷一つ付けられていない。と言うより、ゴードン君どうなってるの? 頑丈とかいうレベルじゃない。
「でも、無傷でってなると意外と難しいんじゃない? 攻撃出来ないし……」
ドラゴンが弱くとも、無傷で捕獲するとなると話は別になる。攻撃して気絶させることも出来ないし、傷付けないであの興奮状態のドラゴンを大人しくさせるのは難しい。催眠系の魔法が使えればいいんだけど、僕使えないしなあ。
「ミーティアさんは催眠系とかの魔法使えるの?」
「ううん、使えないわ」
ミーティアさんも使えないとなると、どうすればいいんだろう。ゴードン君は魔法使えないって言ってたし、あの状態だし。それより、あの状態から逆ギレ状態になってしまうのが怖い。そうなるとドラゴン無傷どころか、傷が無いところを探すのが難しい状態になっちゃうし、早くなんとかしないと。
「どうしよう……?」
「大丈夫よ。もうすぐに解決出来るわ」
「え?」
僕がどうしようとオロオロしいるのと正反対にミーティアさんは自信満々に解決出来ると言った。
「ドラゴンはあれだけあの変態と遊んでるからきっと疲れが溜まってきてるはずよ」
そう言われて見てみると確かに、さっきよりドラゴンの動きが鈍くなってるような気がする。疲れが溜まってきたのか、それともあの状態のゴードン君に引いてきたのかは分からないけど。
「や、やっと追いついた……」
ドラゴンとゴードン君の様子を観察しているとき、後ろからぜぇぜぇ言いながらマルク君がやって来た。
「はあはあ、き、貴様等、この俺を置いて行きよって……。ふうふひゅう、いくら眩しくて直視出来ないとは言え、はあ、まるで太陽のようで、神々しさまで在るとはいえ酷いだろうが……」
マルク君は今にも倒れそうな感じで何かブツブツ言いながらこちらへやって来た。まったく、これぐらいでバテるなんてだらしないなぁ。ミーティアさんみたいに日頃から走ったら? ねえ? ミーティアさん?
「動いて疲れてきた後にはやっぱり……」
そう思って、ミーティアさんの方へ見るとミーティアさんは何か企んでる目でマルク君を見ていた。その目は少し嬉しそうで、暗い光を宿している気がしないこともない。そして、何か呟いた後、今走ってきて呼吸も乱れ、疲れているマルク君の服を掴み、次の瞬間にはマルク君が宙に舞っていた。
「あ? あああああ!? うごっ!」
「ご飯が食べたいだろうから、餌を差し出す」
「それはダメだよ!?」
投げ飛ばされたマルク君は丁度ドラゴンの前へ。そして、ドラゴンはゴードン君から餌として差し出されたマルク君へと興味を移してしまう。
「ギャアオオオオォォ!!」
「うぎゃああぁぁ!! なんだこいつぅ!!」
咆哮するドラゴンに、ビビリ叫び声を上げるマルク君。マルク君、ドラゴンのことすら気づいてなかったんだ。疲れ過ぎじゃない?
「ほら。早くそいつの口の中に飛び込みなさい。餌は食べられないと意味がないのよ」
「何が!? 何を言っている、おおい! 止めろー!」
状況が理解できないマルク君へドラゴンが襲いかかる。マルク君は受け身も取れずに地面に叩きつけられたからか、まだ立ち上がることも出来ず、このままだとドラゴンの爪の餌食となるだろう。ああ、ご愁傷様マルク君。君のことは忘れないよ。忘れようにも忘れられないだけだけど。
「ぐはああぁん!」
ドラゴンの爪の餌食となったマルク君可哀想に、と思ったら餌食となっていたのはマルク君ではなくゴードン君だった。爪がマルク君に当たる直前にゴードン君がマルク君を蹴り飛ばし、マルク君はドラゴンの爪の餌食にならず済み、僕達の方に戻って来た。大ダメージを負ったことは変わらないけど。
「そうはさせぬぞ! この竜は儂のもんじゃああ! 誰であろうとこの痛みを味わわせてはやらんのじゃああ!!」
いや、誰もそんな気はないんだけど。まあ、無事で良かったね、マルク君。無事って言えるのか分からないけど。
「ぐげえ! ぐぐっ、な、何なんだ、一体。投げ飛ばされたと思ったら、蹴り飛ばされたり、それにあのドラゴンはなんだ!?」
未だ状況を理解していないマルク君へとしかた無く状況説明をする。カクカクシカジカでね……。
「ふむふむ、なる程。あれは我がクラスの担任が用意したもので、あれを無傷で捕獲するのが課題と。それで、お前達は俺を餌をするために投げ飛ばしたと。ふんふん。……え、本気で餌にしようとしていたのか?」
状況を理解したマルク君は今までの自分の身に起こった出来事も理解する。理解して怒るわけではなく、驚いてしまう。まあ、そうだよね。本気で餌にしようとして投げ飛ばしたなんて思わないよね。でも、ミーティアさんは本気だったみたいだよ。
「そうよ。理解したわね? じゃあ、行って来なさい」
「ちょっ、ちょっと待て! 何故そうなる? 他に手はいくらでもあるだろう!?」
「うるさいわね。仕方ないことなのよ。あたしだって、あんたを餌を差し出すなんてしたくないわよ。でも、何かあんた今日元気だし、いつにも増してウザいから仕方ないのよ」
「それは仕方ないことではない!」
まあ、ミーティアさんの気持ちは分からなくないけど、ちょっと可愛そうだよね。それにマルク君だけでお腹いっぱいになるのかも分かんないし。ああ、でも、やっぱり試してみないと分からないし、この案でもいいんじゃないかな。失敗したらしたで後で考えようよ。だから、ね?
「ほら、早く」
「だから、待て! 俺が、ゴホゴホッ、ど、どうにか、ううぇ、はあ、ほうふう。し、してやるから」
「何か急に元気無くなったわね、あんた」
急にさっきまでの元気が嘘のようにいつも通りに戻るマルク君。まあ、さっきまでも少し元気ぐらいだったけど。
「う、うるさい。まあ、見とけ。このうつ! ……ぐっ、しい、ふはあ、俺様の活躍を……」
そう言ってマルク君はふらふらとドラゴンの方へ歩きだした。
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