第13話 走れ! マルク!(3)

 よろよろとドラゴンの方へと歩き出すマルク君。ドラゴンはまたゴードン君の相手をさせられていて、まったく傷つかないゴードン君に相当イライラしている様子。大丈夫かなあ? あっ、マルク君じゃなくてゴードン君ね。逆ギレしださないか心配。


「はあはあ、良いなあ。いい元気だなあ。ぐぐ、こ、この素晴らしき俺様は、こんな目に会ってるというのに……。羨ましいなあ……」


 マルク君は何かブツブツ言いながら、よろよろふらふらとドラゴンへ近づいて行く。そして、ドラゴンのすぐ近くまで近づいた。


「ギャアオオオオォォ!!」


 近づいたマルク君にドラゴンが気づき、大きな咆哮を浴びせる。その咆哮はそれだけでマルク君が吹き飛びそうなぐらいの迫力と威圧感があったけど、マルク君はまったく気にしていなかった。あれ? もしかして、立ったまま気絶してる? 違うか。


「……良い咆哮だ。俺にはそんな元気も、体力も、ないと言うのに……」


 ぼーっとドラゴンを見つめるマルク君へ再びドラゴンの爪が襲いかかる。今度はゴードン君も居ない。ゴードン君は今嬉しそうに尻尾でぶたれている。


「…………だから、寄越せ」


 今度こそマルク君はドラゴンの爪の餌食となった。と、思われたが、切り裂こうとしていたドラゴンが突然倒れたことにより防がれてしまった。……いや、別に惜しかったなぁなんて思ってない。


「……ふっ、ふふ。ふふふ、ふはははは! 流石はドラゴンと言ったところか。中々に力が漲ってくるな」


 ドラゴンは倒れ、マルク君は高笑いをし立っている。それまでとは違い、まるで別人のように。


「あんた何したのよ?」

「ふふ。聞きたいか? ああ、聞きたいだろうな。この素晴らしき俺様が何をしたのかを」

「別にそこまで興味ないし、やっぱり言わなくていいわ」

「ふっ。良いポーカーフェイスだ。だが、俺にはお見通しだぞ。内心は興味津々でそのポーカーフェイスは照れ隠しだ。良いだろう。そのいじらしい姿に免じて、教えてやろう」


 真顔でまったく興味無さそうに言うミーティアさんに、マルク君はそれを良いふうに自己解釈して語りだした。このウザさ、やっぱりマルク君だ。

 

「ドラゴンが倒れたのは俺の能力『強奪スナッチ』によるものだ。この能力を使えば、俺は触れた相手から相手の能力を奪う事が出来る。そして、相手から奪い自分の能力へと。このドラゴンは俺に体力を奪われ、今のこの状況が出来ているわけだ。ま、奪った能力は消費すればなくなっていくけどな」


 マルク君の能力「強奪スナッチ」。触れた相手から能力を奪い自分のものにする。ドラゴンは体力を奪われぐったりとなり、逆に奪ったマルク君はそれはもう元気になっている。いつもの痩せ細ってヒョロヒョロのマルク君が、今じゃ背筋もピンと伸び、肉体もムキムキになっていて、誰? ってぐらいに。


「あ、もしかして、行く前にマルク君を起こしてから少しダルい感じするのは……」

「ああ、お前からも少し奪ったな。ふっ、礼を言う」


 やっぱり。あの時マルク君に体力を少し奪われてたから僕はダルくなり、マルク君は少し元気になってたんだ。勝手に人から奪うなんてムカつくなあ。奪ったのが無くなれば、元に戻るみたいだし、その時にちょっとお仕置きしないと。


「ルシェ君から奪ったですって!? 何てことしてくれてんのよ!? あたしだって、ルシェ君の色々を奪いたいわよ!」

「怒ってくれてるんだろうけど、後半願望になってるから」


 前半は怒ってくれてるけど、後半ミーティアの願望になってるから。色々奪いたいってなに? 何奪われるの、僕。あっ、命か。


「おおおおぉ! どうした竜よ! 何故寝てしまったのだ!? 一体何があったのだ!?」


 ミーティアさんは怒号の後は、さっきまでのドラゴンの尻尾に打たれて嬉しそうだったゴードン君が叫びだした。あーあ、面倒くさいことになりそうだなあ。


「これからその尾で儂を絞め上げてくれる約束をしたではないか! あの約束は嘘だったというのか!? くそっ! くそう! この裏切られた時に感じる絶望感も堪らんだと!?」


 ……うん。ゴードン君ってすごいポジティブだよね。それは良いことだと思うな。僕も見習いたい。性癖は見習いたくないけど。


「ああ!? うるせえな。看板にあった通り傷一つ付けずに収めてやったんだ。嘆くよりこの俺様に感謝しろよ? このデブ」

「な、な、なんだとおぉぉぉ!! 儂はデブではない! ぽっちゃりさんだああぁぁぁ!!」


 あっ、ゴードン君これは快感じゃないんだ。デブって言われるのは嫌なんだ。まあ、ゴードン君はデブって言うより体が大きいだけだけど。脂肪じゃなくて筋肉だし。


「はあ? どこがぽっちゃりだよ。どこからどう見てもデブだろうが」

「違うわあああぁぁ!!」

「ハッ! 久々に良い状態なんだ。遊んでやるよ。少しは楽しませてくれよ? お・デ・ブ・さ・ん!」

「ぽっちゃりさんと言ええぇぇ!!」


 デブと言われ激昂するゴードン君と、ドラゴンから体力を奪い元気満々で非常にウザいマルク君が戦い始めた。二人共周囲のことなんか全く考えずに。


「……帰ろっか、ルシェ君」

「……うん。帰ろっか」


 戦いだした二人は僕達もドラゴンのことも忘れて戦っている。こんな所に居たら巻き込まれるし、無事な内に帰るとしよう。あっ、君も一緒に帰るの? そうだね。傷一つ付けたらダメだし一緒にもう帰ろっか。


 戦っている二人を後にし、僕とミーティアさんのドラゴンの三人で学園へと帰った。その後奪った体力が無くなったらしく、ボコボコにされたマルク君がゴードン君に担がれて帰ってきた。ゴードン君、ナイス。


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