五、魔族ヨイ=ニグフルティス
あたしは詠唱と共に手のひらをかざす。
すると、そこから蒼い光の塊が解き放たれた。
「出た、白魔さんの魔法!」
あ……そういえば、他の生徒がいるんだった……
ていうか、なんで安倍さんが魔法のこと知ってんの?
いつもはそれと解らないレベルの術しか使ってないハズなのに……
などと思考を巡らしてみるが、そんな暇を与えてくれるような相手ではない。
『
鳥人間――の姿をした魔族ヨイ=ニグフルティスが右腕を、いやその腕に生えた翼を一振りする。
すると突風が生まれ、あたし達もろとも光弾を吹き飛ばそうと襲ってきた。
だが甘い!
光弾は物理的な風など物ともせず、真っ直ぐに鳥人間へと突き進む。
『ちっ、純粋な魔力弾か……だが、人間如きの魔力では、この我に傷一つ付けら……ぐぁああああああ!』
世迷い言を抜かす口が突如悲鳴に変わった。
「
そう、彼は魔力の塊だと思ったようだが、そもそもあの光弾に魔力など込められてはいない。
『ならば、一体何をした?』
「別に、ただ星の光を集めただけ」
他愛もないと言わんばかりに答えるあたし。
ただし、そこに含まれる言葉にどのような意味合いが込められていたか?
物理の話をしよう。
まず彼は風で光弾を跳ね返そうとしたが、光は空間を電気が流れる事で生じる波――即ち、電磁波の一種である。
真空を通る光が空気の流れ如きで跳ね返せるワケがない。
アインシュタインの『
光には質量がないとされている。にもかかわらず重力の影響を受けて屈折するのだ。
ただの粒子であれば、重力の影響を受けているのに質量を持たないのは矛盾している。
これはむしろ波動の性質によるものだ。
そして、重力は真空(アインシュタインは「時空」と呼んでいたが)の歪みによって発生する。
真空に歪みを発生させるには、そこに二つ以上の物質があれば良い。
そして
種を明かそう。
実は銀河の星から光を一ヶ所に集めるために、時空間に漂うある種の
それが一体、どれ程の力を持つのか推して知るべし。
そして、今一つ確信したことがある。
それは――
「星の光というのは放射線とよばれる高エネルギーの塊だ。それらは真空を通り空気抵抗の影響を受けずに進むため、真空に歪みを発生させる必要があるのだが……その真空の歪みというのは、君が昼前に避けたあの闇と同じ重力波だよ」
そう、彼らにとって最も効果的な次元へ干渉し得る力を――
彼らは何処から来たか、その答えをあたしは既に持っていたのだ。
勇者くんの召喚実験を行った時点で。
『星の光だと?』
魔族――ヨイ=ニグフルティスは怪訝な様子で首を傾げた。
「そうだよ」と、あたし。
周囲を目端で注視しつつ、眼前の鳥人の問いに答える。
「君は科学――つまり、この世界の法則を知らないだろうが、光というのは真空を通るんだよ」
『何が言いたい?』
「まあ、待ちたまえ。君にも解るように説明してやるが、『真空』というのはあらゆる不純物を含まない完全なる空間を意味する。その中では空気の振動である音は元より、空気を介して認識できる光すらもない闇そのものだ」
『待て、意味が解らんぞ?』
「ま、君はそうだろうね。だけど、それは肉眼で観測できないという話で、実際のところ光は電磁気の波に乗って宇宙を飛び交っているんだよ。そして、その光は重力の影響を受ける」
『じゅうりょく?』
「そう、君が昼前に受けたあの闇の術――それの力だよ」
『ああ、あの時のか……それがどうかしたのか?』
「君はあの時、咄嗟に飛び
『……あれと同質のもの――ということか?』
「同じではないな。ただ、近い領域に存在し得ると言えば良いかな?」
『どういうことだ?』
「君に『光の波動性』について説明しても意味不明だろうが、その波動の影響を受ける存在がこの世界にはあってな。例えば……時空とかね」
「ねーねー、さっきからなんか難しい話してるけど」
せっかく盛り上がってきたところに水を差す
「なんだね、今いいところなのに?」
「いや、あそこ」と指をさすその先には――
――魔族から少し離れた塀のところで、剣を構えている「彼」の姿――
「勇者くん!」
『何?』と、鳥魔族が振り返る刹那――
――その胴が真っ二つに裂けた。
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